EPAは「血液サラサラ」の栄養素だと思っているあなた、それだけ伝えていると患者の認知機能が守れません。
「EPAもDHAも同じオメガ3だから、脳にも同じように効く」と説明している医療従事者は少なくありません。しかし、この2つの脂肪酸が脳に届くメカニズムはまったく異なります。これが理解できると、患者への栄養指導の精度が格段に上がります。
最も重要な違いが、血液脳関門(BBB)の通過能です。DHAは脳組織に豊富に存在し、前頭葉では脂肪酸全体の約13.5%を占めています。一方、EPAは脳内にほとんど存在しません。EPAは脳に達してもほぼ1分以内に分解され、DPA(ドコサペンタエン酸)を経由してDHAへと変換されます。つまり、EPAは直接脳に蓄積するのではなく、間接的にDHAを補充する働きをしているのです。
ここが重要なポイントです。
では「EPAに脳への効果はない」のかというと、そうではありません。EPAが担う役割は「神経炎症の鎮静」です。脳内のミクログリア(脳内免疫細胞)が過剰に活性化すると、炎症性サイトカイン(IL-1β・IL-6・TNF-α)が産生されます。この神経炎症こそが、うつ病・認知機能低下・アルツハイマー型認知症の病態悪化に深く関わっていることが近年明らかになっています。
EPAはアラキドン酸(AA)と拮抗することで、プロスタグランジンE2の産生を抑制します。さらに「レゾルビン」という抗炎症性代謝物に変換されることで、脳を含む全身の慢性炎症を積極的に鎮静する働きを発揮します。これは単に炎症を「抑える」のではなく、炎症の収束を「促進する」という能動的なメカニズムです。
つまり、EPAとDHAは脳への経路が違うということですね。
EPAは「脳の炎症消防士」、DHAは「脳の構造・機能の建築材」と分けて理解すると、患者指導でも説明しやすくなります。医療従事者としてこの区別を持つことが、より正確なエビデンスベースの栄養指導につながります。
田町三田こころみクリニック|DHA・EPAとうつ病の関係、脳内での作用機序(セロトニン・ドパミン受容体への影響)について詳しく解説しています。
「魚をよく食べると認知症になりにくい」という話は広く知られています。しかし、「どのような機序で、脳のどの部位に、どのくらい影響するのか」まで患者に説明できる医療従事者はまだ少ないのが現状です。
2022年に国立長寿医療研究センターが発表した研究は、この点において非常に重要な知見を提供しています。対象者は愛知県在住の60〜89歳の男女810名、2年間の縦断解析(NILS-LSA)によって、DHA・EPA・ARAの摂取量と局所脳体積の変化量との関連が世界で初めて示されました。
結果のポイントは以下のとおりです。
- DHA・EPA摂取量が少ない集団のサブグループ解析では、DHA・EPAが多いほど「側頭皮質の体積減少が有意に抑制」されることが明らかになった
- ARAの摂取量が多いと「前頭皮質の体積減少」が小さかった
- これらの部位は記憶・判断・言語などの認知機能に深く関与する領域
側頭皮質は言語理解・聴覚処理・記憶の入り口となる領域で、アルツハイマー型認知症では早期から萎縮が進む部位です。前頭皮質は判断力・実行機能・意欲を司り、要介護状態になる前に機能が落ち始めることが多い領域です。
これは重要なエビデンスです。
この研究が特筆すべきなのは、魚介類摂取量が欧米より多い日本人の集団でもEPA・DHA摂取が脳体積維持に貢献することを実証した点です。「日本人は魚をよく食べるからサプリは不要」という考えは、必ずしも根拠があるとはいえません。個人差や食生活の変化により、日本人高齢者でも摂取量が不足しているケースは少なくないのです。
医療従事者が患者の食事歴やEPA・DHA摂取状況をアセスメントするうえで、このデータは強力な根拠になります。認知症リスクの高い高齢患者に対し、食事指導の根拠として活用できます。
国立長寿医療研究センター|DHA・EPA・ARA摂取量と局所脳体積の縦断研究(2022年・Neurobiology of Aging掲載)の解説ページです。
うつ病の患者さんにEPAが有効である可能性が、ここ10年で急速に支持されるようになりました。国際栄養精神医学会(ISNPR)が2019年に発表したガイドラインは、特に注目すべき内容です。
ガイドラインの主な推奨内容は次のとおりです。
- うつ病治療に用いる場合、EPAのみ、またはEPA:DHA比が2:1以上の製剤が有効とされている
- 推奨摂取量はEPA換算で1〜2g/日
- 炎症マーカー(CRPなど)が高い患者では特に効果が期待できる可能性がある
- 抗うつ薬との併用、または効果増強目的での追加投与として使用される
「EPAもDHAも同じ」ではなく、抗うつ効果においてはEPAの比率が高い製剤を選ぶことがポイントです。
血中のEPA濃度とうつ症状の重症度に相関がみられたという報告もあります。さらに、うつ病患者22名を対象にEPA 3g/日+DHA 1.4g/日を12週間投与した研究では、血液中の抗炎症成分が増加し、うつ様症状の軽快が確認されています。
これは使えそうな知識です。
なぜEPAがうつに効くのかというメカニズムは、主に以下の3つが提唱されています。
- 神経炎症の抑制:炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-α)の産生を抑制し、海馬の神経新生を阻害するミクログリアの過剰活性化を防ぐ
- 神経伝達物質の調整:セロトニン2受容体の増加とドパミン2受容体の減少に関与する
- エンドカンナビノイドシステムの維持:EPA・DHAが脳内麻薬受容体に作用し、心身のバランスを整えるシステムを支える
一方で、市販のサプリメントは含有量が少ないものが多く、効果を期待するには量が不足する場合があります。医薬品のエパデール(EPA 1800mg/日)や、EPA・DHA合剤のロトリガ(2000mg/日)と比較すると、市販サプリは数分の1以下の含有量であることも珍しくありません。
患者がセルフケアとしてEPAサプリを使いたいと希望する場合は、含有量を必ず確認することが基本です。
厚生労働省eJIM(医療者向け)|オメガ3脂肪酸のエビデンスまとめ。脳・精神疾患への有効性について医療者向けに整理されています。
EPAの脳への効果として見落とされがちなのが、「脳血管レベルの保護」です。認知機能への直接的な効果だけでなく、脳卒中・脳梗塞リスクの低減を通じた脳保護作用も、医療従事者が知っておくべき重要な視点です。
国内ではJELISスタディ(Japan EPA Lipid Intervention Study)の成果が2007年に発表されています。高脂血症患者を対象に、EPA製剤(1800mg/日)を追加投与したところ、主要冠動脈イベントを19%有意に減少させた結果が示されました。さらに、EPA投与による脳卒中再発率への影響を調べた研究では、EPA-E投与群の5年間脳卒中発症率は6.8%と、対照群の10.5%と比べて有意に低値を示し(オッズ比0.648)、脳卒中再発予防効果が示唆されています。
より直接的な脳血管への作用として注目されるのが、くも膜下出血後の脳血管攣縮(VS)予防に関するデータです。破裂脳動脈瘤術後の患者を対象にした研究では、EPA 4,400〜5,700mgを投与した群(オキシーパ群)では、VS非発生割合が82%に達し、コントロール群の55%、エパデール群(EPA 1,800mg)の56%を大幅に上回りました。さらに、modified Rankin Scale(mRS)で0(自覚・他覚症状なし)の割合も67%と有意に高く(P=0.014)、脳の機能的な回復においても顕著な改善が見られました。
数字で見ると効果の大きさが実感できますね。
これらのデータが示すのは、EPAが「脳の炎症を抑える」だけでなく、「脳血管の健康を維持することで認知機能を守る」という多面的なアプローチを持つということです。脳卒中後のリハビリ期や、高リスク患者の二次予防に携わる医療従事者にとって、EPAの活用を検討する意義は大きいといえます。
脳血管疾患の既往がある患者さんや、高血圧・脂質異常症を合併するケースでは、医師への処方相談を促すことが適切な対応です。
Google Patents(JP2007238594A)|EPA-Eによる脳卒中再発予防の研究データ(発症率6.8% vs 10.5%)を確認できます。
EPAの知識を持っていても、患者への具体的な指導に落とし込めなければ意味がありません。ここでは、医療現場での患者指導に直結する実践的な情報を整理します。
食事からの摂取量の目安
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、n-3系脂肪酸(EPA・DHA・αリノレン酸を含む)の1日の目安量は成人男性2.2〜2.3g、女性1.7〜2.0gとされています。ただしこれはEPA単体の量ではなく、n-3系脂肪酸全体の目安です。
EPA含有量が多い主な食品は以下のとおりです。
| 食品名 | EPA含有量(100gあたり) |
|---|---|
| 大西洋さば(生) | 約1,800mg |
| イワシ缶(かば焼き) | 約1,800mg |
| みなみまぐろ(脂身・生) | 約1,600mg |
| さんま(生) | 約1,500mg |
| さば缶(水煮) | 約1,600mg |
週に2〜3回程度、上記の魚料理を取り入れることが基本です。ただし、干物や揚げ物ではEPAが酸化・損失しやすいため、刺身・蒸す・煮るといった調理法が推奨されます。缶詰は製造工程で密封されるため酸化が少なく、手軽にEPAを摂取できる優れた選択肢です。
サプリメントと医薬品の違い
市販のEPAサプリの多くは1日あたりの含有量が300〜600mg程度です。これに対して医薬品エパデールは1800mg/日、ロトリガは2000mg/日(EPA+DHA)であり、臨床エビデンスの大部分はこの用量レベルで得られています。
脳・うつへの効果を期待する場合は1g/日以上のEPA摂取が条件です。
抗凝固薬(ワルファリンなど)との相互作用には注意が必要で、EPAの血小板凝集抑制作用が出血傾向を強める可能性があります。また、EPA・DHAは酸化しやすい脂肪酸であるため、ビタミンEなどの抗酸化剤と同時摂取することで細胞膜内での安定性が高まります。
患者が自己判断でサプリを選ぶ場合は、含有量・抗酸化成分の有無・製造方法の記載を確認するよう伝えることが大切です。抗血栓薬服用中の患者には、必ず主治医への相談を促します。これが安全な指導の原則です。
厚生労働省|日本人の食事摂取基準(2025年版)。n-3系脂肪酸の目安量・年齢別推奨値を確認できます。

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