「6項目をすべて覚えたのにスコアを誤採点して褥瘡が発生し、インシデントレポートを書いた看護師は3年目に多い。」
ブレーデンスケール(Braden Scale)は、褥瘡(じょくそう)の発生リスクを客観的・定量的に評価するためのアセスメントツールです。1987年にアメリカのバーバラ・ブレーデン(Barbara Braden)とナンシー・バーグストロム(Nancy Bergstrom)によって開発され、現在では世界中の医療・介護施設で広く使用されています。
日本においても、2002年の「褥瘡対策に関する診療計画書」の制度化以降、病院・老人保健施設・訪問看護などの現場でブレーデンスケールが標準的に用いられるようになりました。厚生労働省の褥瘡対策指針でも参考ツールとして位置づけられています。
このスケールの特徴は、褥瘡そのものを評価するのではなく、「褥瘡が発生しやすい身体的・環境的条件」を評価する点にあります。つまり予防のためのツールです。
評価の対象は、感覚・皮膚状態・体動・体位変換・栄養状態・皮膚への機械的刺激という6つの側面です。これらを1〜4点(一部1〜3点)のスコアで採点し、合計点が低いほど褥瘡発生リスクが高いと判定されます。
スケールの最高点は23点で、得点が低いほどリスクが高い点は直感に反するため、使い始めの看護師が混乱しやすいポイントの一つです。これが基本です。
ブレーデンスケールの6項目を覚えるうえで最も実用的な方法は、頭文字を使った語呂合わせです。6項目の正式名称は以下のとおりです。
頭文字を取ると「知・湿・活・可・栄・摩」となります。これを語呂合わせにすると、「ちしかつかえいま(知識活かせ、今)」と覚えることができます。看護実習中に繰り返し声に出すことで、試験前夜でも即座に想起できるようになります。
別パターンとして「ち・しめ・かつどう・うごき・えい・まさつ」と各項目の意味を短く付け加えながら唱える方法も、臨床経験の浅いうちに定着させる手法として有効です。これは使えそうです。
また、視覚的に覚えたい場合は、以下のように頭文字を縦に並べたリストを紙に書き、各項目の点数範囲(1〜4点 or 1〜3点)もセットで書き込むと、試験勉強の効率が上がります。
| 項目番号 | 項目名 | 頭文字 | 点数範囲 |
|---|---|---|---|
| ① | 知覚の認知 | 知 | 1〜4点 |
| ② | 湿潤 | 湿 | 1〜4点 |
| ③ | 活動性 | 活 | 1〜4点 |
| ④ | 可動性 | 可 | 1〜4点 |
| ⑤ | 栄養状態 | 栄 | 1〜4点 |
| ⑥ | 摩擦とずれ | 摩 | 1〜3点 |
⑥「摩擦とずれ」だけが1〜3点であり、他の5項目と点数範囲が異なる点は特に注意が必要です。摩擦とずれだけは例外です。この違いを把握せずに合計点を計算すると、誤評価につながる可能性があります。
6項目それぞれに明確な採点基準があり、患者の状態を観察・聴取して最も当てはまるスコアを選択します。
① 知覚の認知(1〜4点)
「1点:全く知覚なし」は、意識レベルが著明に低下しており、圧迫による不快感に反応しない状態を指します。「4点:障害なし」は、口頭で不快感を訴えられ、四肢の感覚障害もない状態です。意識障害の有無・感覚障害の有無・コミュニケーション能力の3点をセットで観察することがポイントです。
② 湿潤(1〜4点)
発汗・失禁・滲出液などによって皮膚が湿った状態にさらされる頻度で評価します。「1点:常に湿っている」は毎回の体位変換時に皮膚の湿潤が確認される状態、「4点:めったに湿っていない」は皮膚が乾燥しておりリネン交換は定期的なもののみで足りる状態です。
③ 活動性(1〜4点)
移動・歩行能力で評価します。「1点:臥床」は歩行不可能で寝たきりの状態、「4点:歩行可能」は少なくとも1日2回は病棟内を歩ける状態です。車椅子使用者は「2点:車椅子に限られる」に分類されます。つまり「動けるか」が基準です。
④ 可動性(1〜4点)
自力で体位を変換・保持する能力を見ます。「1点:全く体動なし」は医療者の介助なしに体位変換できない状態、「4点:自由に体動あり」は特に補助なく頻繁に体位変換できる状態です。活動性と混同しやすい項目ですが、活動性は「どこまで移動できるか」、可動性は「体位をどれだけ自分で変えられるか」という違いがあります。
⑤ 栄養状態(1〜4点)
通常の食事摂取量・経腸栄養・静脈栄養の内容で評価します。「1点:不良」は摂取量が提供量の3分の1以下、あるいはほとんど食べられない状態です。「4点:良好」は毎食の提供量の大半を摂取し、タンパク質摂取量も十分な状態を指します。経管栄養や中心静脈栄養を受けている場合は、処方内容・実施量から換算して評価します。
⑥ 摩擦とずれ(1〜3点)
体位変換時やベッドアップ時に皮膚が受ける摩擦・ずれの量と、それに対する患者の抵抗力で評価します。「1点:問題あり」は移動時に皮膚が完全にシーツと接触してずれが生じる・筋肉のけいれんがある状態、「3点:問題なし」は自力で動けており体位変換時に皮膚がずれない状態です。この項目が3点満点であることを改めて確認しておくのが大切です。
日本褥瘡学会|ブレーデンスケール日本語版・採点基準(学会誌掲載資料)
ブレーデンスケールの合計点は最低6点〜最高23点の範囲に収まります。点数が低いほど褥瘡リスクが高いという点は、多くの看護師が知識として持っています。ただし「何点から介入が必要か」のカットオフ値については、施設や対象患者によって異なることを理解しておく必要があります。
日本褥瘡学会の推奨では、一般病棟・急性期病院の入院患者に対しては 14点以下 をリスクありと判定することが広く採用されています。また、高齢者施設では 17点以下 を介入基準とする施設も多く、対象集団によって基準が変わります。
| スコア範囲 | リスク分類 | 推奨される対応 |
|---|---|---|
| 15〜18点 | 軽度リスク | 予防的スキンケア・ポジショニング指導 |
| 13〜14点 | 中等度リスク | 体位変換2時間ごと・栄養介入・湿潤対策 |
| 10〜12点 | 高度リスク | 圧分散マットレス導入・多職種カンファレンス |
| 9点以下 | 非常に高いリスク | 全項目の積極的介入・記録強化・家族説明 |
スコアが低いほど介入の緊急度が上がるということですね。14点という数値を丸暗記するだけでなく、「スコアが下がるにつれて介入の強度を段階的に上げる」という考え方を持つことが、臨床での的確な判断につながります。
重要なのは、ブレーデンスケールのスコアはあくまで「リスク評価の一手段」であり、スコア単独で全ての判断をするツールではないという点です。体温・血液データ・皮膚観察所見・既往歴なども加味した総合的なアセスメントが原則です。
褥瘡リスクの高い患者のケアでは、エアマットレスや体圧分散クッションなどの福祉用具の検討も看護師の役割の一部です。スコアが10点以下になった段階で、早期に理学療法士・管理栄養士を含む多職種チームへのコンサルテーションを行うことが、褥瘡発生を防ぐうえで重要です。
ブレーデンスケールの点数を「記録として残す」だけになっているケースは、臨床現場で少なくありません。しかし、スコアの変化を継続的に追うことで、患者の状態悪化を早期にキャッチできるという、予防的な活用方法があります。
たとえば、入院時に16点だった患者が1週間後に12点に低下していた場合、その間に何が変化したかを振り返ることで「食事摂取量の低下」「活動量の減少」「失禁頻度の増加」などの複合的な要因を特定できます。これが原則です。単なる数値記録ではなく、「なぜ下がったか」を言語化する習慣が褥瘡予防の実効性を高めます。
申し送りの際には、スコアの数値だけを伝えるのではなく、どの項目が特に低いかを具体的に述べることが有効です。「ブレーデン12点です」よりも「ブレーデン12点で、特に湿潤と摩擦とずれのスコアが低く、午後の体位変換時にずれが目立っています」という申し送りの方が、次勤務の看護師が具体的な予防行動を取りやすくなります。
看護師国家試験においても、ブレーデンスケールに関する出題は過去10年で複数回確認されています。点数の読み方・各項目の定義・カットオフ値が問われることが多いため、試験勉強では「6項目の意味」「合計点の範囲」「点数が低い=リスク高」という三点を確実に押さえておく必要があります。
また、褥瘡ハイリスク患者のケアにかかる看護工数は1人あたり1日平均20〜40分増加するとも言われています(施設規模・患者状態により差あり)。スコアに基づいた予防介入を早期に行うことは、患者の苦痛軽減と同時に、看護師の業務負担の抑制にもつながります。
日本褥瘡学会|褥瘡予防・管理ガイドライン(第5版)(アセスメントツールの活用法を含む)