ゲンタマイシン軟膏を塗っても、今や過半数の起炎菌がすでに耐性を持っています。
伝染性膿痂疹(いわゆる「とびひ」)は、浅在性の皮膚細菌感染症であり、臨床的には大きく「水疱性膿痂疹」と「痂皮性膿痂疹」の2型に分類されます。この2型は原因菌も症状も異なるため、病型を正確に見極めることが適切な治療選択の大前提になります。
水疱性膿痂疹は、原因菌の90%以上が黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)です。この菌が産生する表皮剥脱毒素(Exfoliative toxin)がデスモグレイン1を分解し、皮膚の細胞間結合を破壊することで透明〜混濁した水疱が形成されます。水疱は容易に破れてびらん面を形成し、浸出液が周囲に付着することで「飛び火」のように病変が拡大していきます。乳幼児に好発し、夏季に多い傾向があります。
一方、痂皮性膿痂疹はA群β溶血性レンサ球菌(化膿連鎖球菌)が主な起炎菌ですが、黄色ブドウ球菌との混合感染例も多く見られます。厚い痂皮(かさぶた)形成を特徴とし、炎症反応が強いため発熱・リンパ節腫脹を伴うことがあります。アトピー性皮膚炎の患者では皮膚バリア機能が低下しており、黄色ブドウ球菌の皮膚定着率が約70〜90%と高いため、痂皮性膿痂疹を繰り返す傾向があります。
病型の見分け方は臨床所見が主体です。水疱・びらんが目立つ場合は水疱性、厚い痂皮・炎症症状が前景に立つ場合は痂皮性と判断します。ただし、臨床的に判別が難しいケースも多く、その場合には第一世代経口セフェム系(両菌種にカバレッジがある)を選択するのが現実的です。つまり病型診断が曖昧な場合でも、セフェム系で対応可能ということです。
また、診断補助として細菌培養検査の活用が推奨されています。特に初診時に培養を提出しておくと、治療反応が不良だった場合の起炎菌同定・薬剤感受性確認に非常に役立ちます。適切なタイミングで培養を提出しておくことは、後の治療変更を迅速かつ根拠に基づいて行うための重要なステップです。培養は必須と言えます。
| 項目 | 水疱性膿痂疹 | 痂皮性膿痂疹 |
|---|---|---|
| 主な原因菌 | 黄色ブドウ球菌(MSSA/MRSA) | A群β溶血性レンサ球菌(±黄色ブドウ球菌) |
| 症状の特徴 | 透明〜混濁した水疱、びらん | 厚い痂皮、炎症強め、発熱の場合あり |
| 好発年齢 | 乳幼児に多い | 年齢を問わず(AT合併例に多い) |
| 季節性 | 夏季に多い | 季節を問わず |
| 第一選択内服薬 | セファレキシン(第一世代セフェム) | アモキシシリン等のペニシリン系 |
参考:日本医事新報社「伝染性膿痂疹(とびひ)私の治療」病型分類・処方の組み立て方について詳述されています。
外用抗菌薬の選択は、かつてとゲンタマイシン(ゲンタシン軟膏)が広く用いられていましたが、これは今では推奨されていません。これは意外な事実です。日本医事新報社の解説(久留米大学・後藤憲志先生)によると、「現在、皮膚から分離された黄色ブドウ球菌はゲンタマイシンにほぼ耐性」であることが明確に示されています。つまり、ゲンタマイシン外用では今日の起炎菌に対して十分な効果が期待できないということです。
現在ガイドラインや専門家が推奨する外用抗菌薬は以下の通りです。
外用薬の使用は病変が限局している軽症例で適しています。病変が10個以下を目安とする見解もあります。それを超える場合や、滲出液が多い広範囲病変では、内服抗菌薬の追加が必要です。外用単独で治療できる症例は意外に限られているということですね。
なお、亜鉛華軟膏(亜鉛華単軟膏)は、抗菌活性そのものはありませんが、滲出液が多いびらん面への重層処置として有用です。局所収斂・皮膚保護作用により患部を清潔に保つ補助的役割があります。滲出液が豊富なケースでは、フシジン酸軟膏などの上にガーゼ+亜鉛華単軟膏を重ねる方法が実践されています。外用の工夫は地味ですが、治癒促進に直結します。
参考:日本医事新報社「伝染性膿痂疹に対して推奨される治療は?」ゲンタマイシン耐性の現状と推奨外用薬について解説されています。
内服抗菌薬の選択は、病型と推定起炎菌に基づいて行います。これが原則です。
水疱性膿痂疹(主に黄色ブドウ球菌)に対しては、第一世代経口セフェム系抗菌薬であるセファレキシン(ケフレックス®)またはセファクロル(ケフラール®)が第一選択です。β-ラクタマーゼ阻害薬配合剤(クラブラン酸カリウム・アモキシシリン水和物)も選択肢になります。通常4〜5日投与し、水疱やびらんが残存している場合はさらに2〜3日追加します。
痂皮性膿痂疹(主にA群β溶血性レンサ球菌)に対しては、ペニシリン系抗菌薬(アモキシシリン等)が第一選択です。β-ラクタマーゼ阻害薬配合剤も有効で、連鎖球菌に対して確実な効果が期待できます。痂皮が完全に取れるまで内服を継続することが推奨されており、早期中断は再燃のリスクがあります。
投与期間については、4〜5日投与しても改善が見られない場合は、MRSAを含む耐性菌の関与を疑います。これが「3〜4日で効果判定する」という重要なポイントです。そのタイミングで改善がなければ細菌培養の結果を参照し、以下の薬剤への変更を検討します。
NICEガイドライン(2020年)が示す重要なポイントとして、「内服抗菌薬と外用抗菌薬の併用は外用単独と有効性に差がなく、副作用・耐性リスクが増加する」という点があります。つまり、内服を使う場面では外用を追加する必要はないということです。この原則は抗菌薬適正使用(AMS)の観点からも医療従事者として押さえておきたい知識です。
参考:厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き第四版(医科・外来編)」伝染性膿痂疹の治療選択肢と皮膚軟部組織感染症における適正使用について記載されています。
抗微生物薬適正使用の手引き 第四版 医科・外来編(厚生労働省)
伝染性膿痂疹に関する日本国内の報告では、起炎菌のうち20〜40%がMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)であるとされています。日本感染症学会の資料でも「伝染性膿痂疹から分離される黄色ブドウ球菌の約30%がMRSA」と記されており、この数字は無視できません。5人に1人〜2人の割合でMRSAが関与している可能性があるわけです。これは現実として重く受け止める必要があります。
標準的なセフェム系内服で3〜4日経っても改善しない場合、MRSAの関与を疑うのが原則です。そのタイミングで細菌培養を採取し、薬剤感受性試験の結果に基づいて治療薬を変更します。初診時にあらかじめ培養を提出しておく実践は、この「治療反応不良時の迅速対応」を可能にする最善の準備といえます。
近年、特に注意が必要な菌株として「CA-MRSA(市中感染型MRSA)」があります。CA-MRSAは院内感染型とは異なる特性を持ち、健常小児にも感染します。中でもPVL(Panton-Valentine Leukocidin)という強力な毒素を産生するタイプは重症化リスクが高く、通常のとびひよりも炎症が強く、深部皮膚膿瘍や壊死を引き起こすことがあります。
CA-MRSAを疑うべき臨床的サインとして、以下が挙げられます。
このようなケースでは、CA-MRSAを念頭に置いた薬剤変更(ホスホマイシン・ST合剤等)を速やかに行い、必要に応じて感染症専門医への相談を検討します。早めの対応が重症化回避の条件です。
また、MRSAが確認された場合には、除菌(デコロナイゼーション)の検討も重要です。とくに再発を繰り返す症例や家族内集積がある場合、鼻腔スワブでのキャリア確認と鼻腔除菌(ムピロシン鼻腔内軟膏など)が、伝染の連鎖を断ち切るうえで効果的です。
参考:日本感染症学会「MRSA感染症の治療ガイドライン改訂版2019」MRSAによる伝染性膿痂疹への外用・内服対応が記されています。
MRSA感染症の治療ガイドライン改訂版2019(日本感染症学会)
治療の薬物療法と並行して、医療従事者が患者・保護者へ正確に伝えるべき情報があります。それが「登園・登校の判断基準」と「日常のスキンケア指導」です。この2点を正しく伝えることで、院内での不要なトラブルを防ぎ、再感染や集団感染の拡大を抑制できます。
登園・登校基準については、日本小児皮膚科学会の統一見解があります。「病変が広範囲に及ぶ場合や全身症状(発熱など)がある場合は出席停止とする。病変部をガーゼなどで覆い、滲出液が漏れ出ない状態にできていれば登園・登校は可能」とされています。法定伝染病ではないため法的な出席停止義務はありませんが、感染拡大防止の観点から適切な対応が求められます。
UpToDateのガイドラインでも、有効な治療を開始してから24時間経過した時点で感染力が低下するため、患部を覆った状態であれば登校可能としています。これは実臨床での保護者説明に役立つ情報です。なお、「完全に治るまで休まなければならない」と誤解している保護者も多く、正確な情報提供が適切な対応につながります。
スキンケア指導として伝えるべき主なポイントは次の通りです。
また、アトピー性皮膚炎を基礎疾患に持つ患者への指導は特別な配慮が必要です。アトピー性皮膚炎の皮膚には黄色ブドウ球菌が高率に定着しており(約70〜90%)、とびひを繰り返しやすい状況にあります。アトピーのコントロールそのものを改善させることが、とびひの再発予防にも直結します。ステロイド外用薬による炎症コントロールが適切に行われていると、掻破行動が減りとびひの発生頻度も下がります。アトピーとの一体管理が条件です。
参考:日本小児皮膚科学会「とびひ(Q&A)」登園・登校基準や日常ケアについて保護者向けに解説されています。
多くの臨床現場では、広範な伝染性膿痂疹に対して「内服抗菌薬+外用抗菌薬」の組み合わせ処方が行われています。しかし、NICEガイドライン(Impetigo: antimicrobial prescribing, 2020年)は明確にこの慣行に警鐘を鳴らしています。結論は「内服抗菌薬と外用抗菌薬の併用は行わない」です。
その理由は有効性と安全性の両面にあります。まず有効性については、外用単独と内服+外用の併用で治療効果に有意差がないとされています。つまり、外用薬を追加しても治りが早くなるわけではありません。意外ですね。そして安全性については、外用抗菌薬の長期・反復使用は耐性菌の急速な発現につながるリスクがあり、「既に耐性が問題になっているゲンタマイシン」の歴史がそれを証明しています。
この視点を押さえると、臨床での処方設計が変わります。内服が必要な広範症例では外用を省き、外用で対応できる軽症例では内服を追加しない、という明確な役割分担が重要です。どちらを使うかの判断軸が一本化されます。
さらに、抗菌薬適正使用(AMS:Antimicrobial Stewardship)の観点からも、伝染性膿痂疹は適正使用教育の好例として注目されています。国内でも小児の肺炎でガイドラインを遵守した処方をしている医療機関は4分の1しかないという指摘もあります(厚生労働省・抗微生物薬適正使用の手引き第四版)。皮膚感染症においても例外ではなく、不必要な抗菌薬処方が耐性菌蔓延という形で患者全体に害をもたらします。
外用抗菌薬の「長期・反復使用」についても注意が必要です。同一薬剤を長期使用することで耐性菌が選択されやすくなります。治療効果が出ている場合でも、必要最小限の期間で終了し、惰性的な使用を避けることが適切な薬剤管理につながります。ここも見落とされやすい点です。
医療従事者として伝染性膿痂疹のガイドライン治療を実践するうえで、「病型診断→起炎菌の推定→適切な薬剤選択→効果判定→必要に応じた変更」という一連のフローを意識的に踏むことが、患者の早期治癒と耐性菌問題の抑制を両立させる最善の姿勢です。
参考:NICEガイドライン「Impetigo: antimicrobial prescribing」(2020年)処方の考慮点・推奨薬剤・内服外用の使い分けについて詳細に記載されています。
Impetigo: antimicrobial prescribing - NICE guideline (NG153)
参考:日本化学療法学会「MRSA感染症の診療ガイドライン2024」MRSAの抗菌薬感受性・薬剤選択の最新指針が掲載されています。
MRSA感染症の診療ガイドライン2024(日本化学療法学会)
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