弱酸性石鹸で洗っても、アルカリ性石鹸と除菌率はほぼ同じです。
医療現場で「弱酸性石鹸の方が肌に優しい」という認識が広まっていますが、その根拠を正確に説明できる方はどれくらいいるでしょうか。まずは皮膚のpHと弱酸性石鹸の関係を整理しておきます。
健康な皮膚表面のpHは、4.5〜6.0の弱酸性に保たれています。これはただの「状態」ではなく、積極的に外敵から守るための防御機構です。皮膚表面の弱酸性環境は、代表的な常在菌である「表皮ブドウ球菌(美肌菌)」が活動しやすい条件です。表皮ブドウ球菌は、皮脂や汗をエサにして脂肪酸やグリセリンをつくり出し、肌を弱酸性に保つとともに、アトピー性皮膚炎の原因となる黄色ブドウ球菌の増殖を抑制します。
つまり弱酸性が基本です。
pHはスケールが0〜14の数値で示され、7が中性、数値が小さいほど酸性、大きいほどアルカリ性を意味します。一般的な固形石鹸のpHはおおむねpH9前後の弱アルカリ性です。一方、弱酸性石鹸のpHはおよそ4.5〜6.5と、皮膚表面のpHに近い範囲で作られています。
「肌と同じpHなら刺激が少ない」という考え方は一見合理的です。しかし注意点があります。弱酸性を実現するためには、肌に近い酸性域で泡立てる力を持つ「合成界面活性剤」を配合することが多くなります。この点については後ほど詳しく取り上げます。
皮膚のpHがアルカリ側に傾いたとしても、健康な成人の皮膚には「アルカリ中和能」という回復機能があり、洗浄後3時間前後で弱酸性に戻る力を持っています。この事実は、弱酸性石鹸の有用性を検討する上で欠かせない視点です。
日比谷スキンクリニック「肌は弱酸性だとなぜ良いの?肌のpHバランスを整える必要性について」(pH・常在菌・バリア機能の関係について詳しく解説)
「弱酸性石鹸はアルカリ性石鹸より除菌力が高い」と思っていませんか?実際の研究データを確認すると、その認識は修正が必要です。
愛媛県立医療技術大学が実施した研究では、健康な成人女性を対象に、弱酸性石鹸(ビオレ®)とアルカリ性石鹸(スパモイスト®)を用いた清拭の皮膚への影響を比較しました。除菌率を測定した結果、弱酸性石鹸はほとんどの被験者で99%以上の除菌率を示し、アルカリ性石鹸でも同様に99%以上という結果でした。両者に有意な差は認められませんでした。
これは意外ですね。
さらにこの研究では、清拭後の皮膚表面pHの変化も計測しています。弱酸性石鹸を使用した場合も、清拭直後は皮膚のpHが0.4〜0.8程度上昇(アルカリ側へ傾く)しましたが、その後緩やかに低下し、清拭前のpHに近い値へと戻る傾向が確認されています。アルカリ性石鹸を使用した場合も、同様の経過をたどりました。この結果から研究者らは「清拭に用いる石鹸は弱酸性であってもアルカリ性であっても、皮膚表面のpHへの影響に差はみられなかった」と結論づけています。
皮膚刺激感についても、ひりひり感・発赤・掻痒感のいずれも、弱酸性・アルカリ性石鹸どちらを使用しても訴えた被験者はいませんでした。つまり、「弱酸性でないと皮膚への刺激が強い」という単純な図式は成立しないということです。
重要なのは石鹸の種類だけでなく、「拭き取りの回数」や「石鹸の残留を防ぐための工夫」が除菌効果にも皮膚への影響にも大きく左右するという点です。研究では、往復5回・2回のタオル交換法を行うことで除菌効果が高まり、かつ石鹸残留も防げることが示唆されています。
拭き取り方法が条件です。
愛媛県立医療技術大学紀要「弱酸性石鹸を用いた清拭の皮膚への影響─アルカリ性石鹸との比較において─」(清拭における弱酸性・アルカリ性石鹸の除菌率とpH変化の比較研究)
除菌効果に差がないなら、弱酸性石鹸をわざわざ使う意味はないのでしょうか?それは違います。使用対象によって、弱酸性石鹸の選択には明確な根拠があります。
特に重要な場面は、高齢者や皮膚が脆弱な患者へのケアです。高齢者の皮膚は皮脂分泌量が著しく低下しており、アルカリ性石鹸で洗浄するとpHが弱酸性に戻りにくくなります。健康な若い成人なら洗浄後3時間前後でpHが回復しますが、高齢者ではこの回復が遅れ、乾燥・落屑・亀裂といったドライスキンが生じやすくなります。ドライスキンになると皮膚バリアが壊れ、外部の菌が侵入しやすくなるため、感染リスクが上がります。
これは看護の現場でも見落とせない問題です。
特に以下のような患者では、弱酸性の洗浄剤が推奨されます。
| 対象患者 | リスク | 推奨洗浄剤 |
|---|---|---|
| 高齢者 | 皮脂分泌低下によりpH回復が遅延 | 弱酸性・保湿成分配合洗浄剤 |
| 浮腫がある患者 | 皮膚の伸展により菲薄化・脆弱化 | 弱酸性洗浄剤 |
| ステロイド長期使用中の患者 | 皮膚菲薄化・バリア機能低下 | 弱酸性洗浄剤 |
| アトピー性皮膚炎の患者 | もともとpHバランスが崩れやすい | 弱酸性洗浄剤(合成界面活性剤量に注意) |
| 褥瘡・創傷周囲皮膚 | バリア機能が著しく低下 | 弱酸性・低刺激性の皮膚洗浄剤 |
一方で、健康な皮膚を持つ成人や、汚れがひどい部位には弱アルカリ性の石鹸の方が洗浄力が高く、適切なケースもあります。患者の皮膚状態を的確にアセスメントし、洗浄剤を選ぶことが基本です。
ディアケア「高齢者への石鹸・皮膚洗浄剤の使用について」(高齢者の皮膚の特性とpH回復能力の低下、弱酸性洗浄剤の推奨について詳しく解説)
医療従事者にとって、手洗いは一日に何十回と行う行為です。手指衛生の遵守は感染対策の根幹ですが、頻繁な手洗いは手荒れを招き、逆に感染リスクを高めることが知られています。手荒れした皮膚は細菌の温床になりやすく、また手洗いの実施意欲(コンプライアンス)を低下させるという報告もあります。
手荒れは感染対策の敵です。
名古屋市立大学看護学部の研究では、添加物含有ハンドソープ(ビオレu)と無添加・無香料ハンドソープ(バブルガード)を比較したところ、除菌効果に有意差はなかったものの、水分量の変化について一部の条件で有意差が認められました(すすぎ30秒の条件でバブルガードの方が手の水分量が有意に高い値を示した)。この結果は、香料・添加物の有無が手肌の水分量に影響する可能性を示唆しています。
さらに同研究では、すすぎ時間が60秒になると皮膚のpHが有意に変動するという結果も出ています。つまり、「よくすすぐほど清潔」とは必ずしも言えず、すすぎすぎも手荒れを誘発するリスクがあるということです。
手洗い後の保湿ケアも欠かせません。医療現場では、手洗い後のハンドクリームや保湿ローションの使用が手荒れ予防に効果的であることが複数の研究で示されています。特に水分保持力の高い保湿成分(グリセリン・尿素・ヘパリン類似物質など)を含む製品が、バリア機能の回復を助けます。
手指衛生と手肌ケアはセットで考えることが大切で、弱酸性石鹸の選択はその一環として位置づけられます。なお、WHO手指衛生ガイドラインでは手洗い後に速乾性擦式アルコール製剤を使うことも推奨されており、石鹸の種類だけでなくアルコール消毒との組み合わせも意識する必要があります。
名古屋市立大学看護学部「除菌効果と手肌への影響からみた効果的な手洗い方法の検討」(ハンドソープの種類とすすぎ時間による除菌率・水分量・pHの比較研究)
「弱酸性=安全・低刺激」という認識は医療現場でも一般的ですが、実はこの認識に隠れた落とし穴があります。
弱酸性の石鹸(特にボディソープやハンドソープのタイプ)は、pHが低いため通常の天然脂肪酸系石鹸のように泡立てることができません。そのため、洗浄力を確保するために「合成界面活性剤」を多く配合する必要があります。合成界面活性剤は汚れを落とす力は高い一方、皮脂膜まで取り除きすぎることがあり、配合成分によっては接触性皮膚炎やアレルギー反応を引き起こすリスクがあります。
一方、弱アルカリ性の固形石鹸(純石けん分98%以上のもの)は、天然油脂とアルカリを反応させて作った脂肪酸塩が主成分です。この脂肪酸塩は皮膚のpHに触れると中和されて洗浄力を失うため、肌に石鹸成分が残留しにくい特性があります。また、純石鹸は合成界面活性剤を含まないため、成分の点では肌への負担が少ないとも言えます。
これは使えそうです。
実際の石鹸選びで確認するポイントをまとめました。
「弱酸性」というラベルだけで判断するのではなく、成分を確認した上で使用場面に合わせた石鹸を選ぶことが、真の意味での「効果的な弱酸性石鹸の活用」につながります。
皮膚科情報「乾燥肌に『弱酸性洗顔料』の選択肢。でも注意点あり。」(弱酸性石鹸に含まれる合成界面活性剤のリスクについて皮膚科医が解説)
ここまでの内容を整理します。弱酸性石鹸の効果について医療従事者が押さえておくべき要点は次の通りです。
まず、除菌効果の観点では、弱酸性石鹸とアルカリ性石鹸の間に研究上の有意な差はありません。愛媛県立医療技術大学の研究では、両者ともに99%前後の除菌率を示しており、清拭場面での除菌効果はどちらもほぼ同等と理解しておくべきです。
次に、皮膚への影響という観点では、患者の皮膚状態によって選択すべき石鹸が変わります。高齢者・浮腫・ドライスキン・アトピー性皮膚炎など、バリア機能が低下している患者には弱酸性の洗浄剤が推奨されます。健康な皮膚であれば、弱アルカリ性石鹸の使用後でも数時間でpHは回復します。
患者アセスメントが条件です。
また、「弱酸性=低刺激」という思い込みには注意が必要です。弱酸性を実現するための合成界面活性剤の配合が、場合によっては皮膚刺激や手荒れを誘発することがあります。成分表示を確認し、純石けん分の高い製品や保湿成分配合の製品を状況に応じて使い分けることが重要です。
最後に医療従事者自身の手指衛生についても触れておきます。手荒れは細菌の定着を促し、感染伝播リスクを高めます。手洗いの際は弱酸性・無添加ハンドソープの活用を検討し、洗浄後は速やかに保湿ケアを行うことが、感染対策と自身の健康管理の両面から大切です。
「弱酸性だから良い」でも「アルカリ性だから悪い」でもなく、患者の状態と使用場面に応じた科学的根拠に基づいた選択が、医療従事者としての正しい判断です。
独立行政法人地域医療機能推進機構四日市羽津医療センター認定看護師だより「スキントラブルをおこしている皮膚はアルカリ性に傾いています」(皮膚pHと感染リスク・洗浄剤選択の医療現場向け解説)

【医薬部外品】顔ダニ・ニキビ対策 薬用洗顔石鹸 115g|殺菌・消炎 有効成分配合|毛穴汚れ・皮脂をすっきり洗浄|薬用フェイスプロテクトソープ|男女兼用