ジメチルイソプロピルアズレンで褥瘡の創面を守る正しい使い方

ジメチルイソプロピルアズレン(アズノール軟膏)は褥瘡の創面保護に用いられる油脂性基剤の外用薬です。滲出液量や創の状態で使える場面が限られると知っていますか?

ジメチルイソプロピルアズレンで褥瘡の創面を正しく守るために

アズノール軟膏は「褥瘡なら何にでも使える」と思っていると、回復を遅らせる選択をしている可能性があります。


この記事の3つのポイント
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ジメチルイソプロピルアズレンの役割は「創面保護」だけ

アズノール軟膏の主な効果は上皮形成の補助と抗炎症作用による創面保護です。壊死組織除去や肉芽形成促進の主薬作用はなく、使う場面を間違えると治癒が進みません。

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滲出液が多い創には使えない

油脂性基剤である本剤は吸水性をほとんど持ちません。滲出液が多い褥瘡に使用すると周囲皮膚の浸軟を招き、創傷悪化のリスクがあります。

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DESIGN-Rで判断する正しい使用場面

急性期〜浅い褥瘡で、滲出液が少なくきれいな創(赤色期・白色期)に適応されます。ガイドラインの推奨度C1を踏まえた適切な使い分けが求められます。


ジメチルイソプロピルアズレンの成分特性と褥瘡治療における位置づけ

ジメチルイソプロピルアズレン(一般名)、商品名アズノール軟膏は、もともとカミツレ(カモミール)の精油成分から合成された非ステロイド系抗炎症薬です。主成分はアズレン骨格を持つ青色の結晶性化合物で、白色ワセリン・精製ラノリンを基剤として配合されています。ステロイドを含まないため、長期使用でも皮膚萎縮などの副作用が生じにくいことが現場での使用感として広く知られています。


油脂性基剤という点が最大の特徴です。これはつまり、油分のみで構成されており水となじまない疎水性の性質を持つということです。この疎水性が「創面の保湿・保護」という機能を生み出しています。少量の滲出液を創面にとどめ、乾燥から表皮を守りながら上皮化を補助します。


褥瘡治療における外用薬の分類を整理すると、ジメチルイソプロピルアズレンが担う役割が見えてきます。褥瘡外用薬には「壊死組織除去」「抗菌」「肉芽形成促進」「上皮形成促進」という4つの主薬作用がありますが、アズノール軟膏に期待できる主薬作用は「上皮形成(補助)」のみです。「肉芽形成促進」の作用は有していません。


つまり創面を保護しながら治癒をサポートする薬です。


日本褥瘡学会の「褥瘡予防・管理ガイドライン(第5版)」でも、急性期・浅い褥瘡の創面保護目的の外用薬として酸化亜鉛・白色ワセリンとともに推奨度C1で記載されています。C1は「根拠は限られているが行ってもよい」という位置づけです。強い推奨ではないものの、創面保護用途としての有用性が認められた薬剤であることは確かです。


なお、日本皮膚科学会の「褥瘡診療ガイドライン(第3版)2023年版」でも、浅い褥瘡・急性期褥瘡の外用薬選択肢として本剤が明記されています。この点で複数のガイドラインに根拠が示されているということです。


参考:マルホ 褥瘡辞典「慢性期褥瘡の局所治療」(医療関係者向けガイドライン解説)
https://www.maruho.co.jp/medical/jokusoujiten_fm/treat/treat1/page4.html


ジメチルイソプロピルアズレンが適応される褥瘡の状態とDESIGN-Rの見方

アズノール軟膏を適切に使うには、創の状態を正しくアセスメントすることが前提です。判断軸として現場で広く使われているのが「DESIGN-R®2020」による評価です。


創の色調と滲出液量の2つの軸で考えると整理しやすいです。まず色調については、「黒~黄色」は壊死・感染を示し、「赤~白」は肉芽形成~上皮化の段階を意味します。次に滲出液については「多い(ジュクジュク)」と「少ない(カサカサ)」の2段階に分けて評価します。


ジメチルイソプロピルアズレンが最も力を発揮するのは、「創がきれいで、かつ乾いている(赤~白 + 滲出液少)」という状態です。具体的には次のような状況が該当します。


- 急性期褥瘡(発赤・紫斑・水疱)での創面保護
- 深部損傷褥瘡(DTI)が疑われる際の経過観察中の保護
- びらん・浅い潰瘍で壊死・感染がなく滲出液の少ない創
- 肉芽が十分形成され、上皮化を促進したい段階


DESIGN-Rの「大文字→小文字」の流れで例えると、「S(創面積)を縮小させる段階」で上皮形成促進を目的として使うイメージです。これが基本です。


一方、壊死組織が残存する「N」が大文字の段階や、感染兆候のある「I」が大文字の段階では、本剤は適切ではありません。正しい段階で適切な外用薬を選ぶことが、DESIGN-Rの「大文字を小文字にしていく」治療戦略の基本原則だからです。


油脂性基剤の特性上、滲出液量が多い褥瘡に使用した場合は創面周囲皮膚の浸軟(皮膚がふやけてダメージを受けた状態)を招きやすいことにも注意が必要です。滲出液が多い場合の適応外使用は、周囲皮膚のトラブルを引き起こすリスクがあります。


参考:全国在宅療養支援医協会「褥瘡の局所療法」(創の状態別の外用薬・ドレッシング選択指針)
http://www.zaitakuiryo.or.jp/zaitaku/files/jissai/003.html


ジメチルイソプロピルアズレンの正しい塗布方法と交換頻度の根拠

アズノール軟膏の塗布量について、見落としがちな重要なポイントがあります。外用薬全般に言えることですが、褥瘡処置においては「厚さ約3mm程度」をたっぷり塗布することが基本とされています。これはおよそクレジットカードの厚さの約2倍に相当します。


薄塗りでは基剤としての保湿・保護機能が発揮されません。基剤が薄い場合、外気との接触面が増えて創面が乾燥しやすくなり、上皮化を妨げることがあります。十分な量の塗布が条件です。


交換頻度については、原則として1日1回以上が推奨されています。ドレッシング材と組み合わせる場合、外用剤の交換はドレッシング材の交換タイミングに合わせる傾向がありますが、「外用剤は創内に塗布する」という原則があります。ガーゼ上に塗った薬剤は創内には届きにくいため、創底・創縁に確実に届けることが重要です。


また、アズノール軟膏はガーゼと組み合わせる場合に創面への固着が少ないという利点があります。油脂性基剤はガーゼと創の固着を防ぐ効果があり、交換時の剥離による創傷刺激を低減できます。これはケアの現場で見落とされがちなメリットです。


使い方のまとめとして押さえるべき3点は以下です。


| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 塗布量 | 厚さ約3mm程度、たっぷりと |
| 交換頻度 | 1日1回以上、滲出液状況により調整 |
| 塗布場所 | ガーゼではなく創底・創縁に直接塗布 |


ただし実際の交換頻度は創の状態・施設のルール・処方医の指示に従うことが大前提です。ここが原則です。


参考:ナース専科「外用剤の目的と塗布のタイミング」(外用剤の塗布方法・交換頻度の解説)
https://knowledge.nurse-senka.jp/225684/


ジメチルイソプロピルアズレンと他の褥瘡外用薬との使い分けの実践ポイント

現場で最も混乱しやすいのが「アズノール軟膏とプロスタンディン軟膏、どちらを使うか」という場面です。いずれも油脂性基剤で滲出液の少ない褥瘡に使われますが、主薬の作用が大きく異なります。


プロスタンディン軟膏(アルプロスタジル アルファデクス)はプロスタグランジンE1を含み、血管拡張・肉芽形成促進・上皮形成促進の作用を持ちます。一方、ジメチルイソプロピルアズレンは上皮形成補助と抗炎症・抗ヒスタミン作用を持ちますが、肉芽形成促進の作用は有していません。


シンプルに整理すると、以下の図式になります。


| 薬剤 | 肉芽形成促進 | 上皮形成促進 | 基剤の性質 |
|---|---|---|---|
| アズノール軟膏 | なし | ○(補助) | 油脂性(保湿) |
| プロスタンディン軟膏 | ○ | ○ | 油脂性(保湿) |
| オルセノン軟膏 | ○ | ○ | 乳剤性(補水) |
| アクトシン軟膏 | ○ | ○ | 水溶性(吸水) |


肉芽形成が不十分な深い褥瘡には、本剤の単独使用では力不足です。上皮化を促したい段階(創が赤く、きれいで、浅く、滲出液が少ない状態)にこそ、アズノール軟膏の出番があります。


さらに、創の感染がある場面では本剤を使うべきではありません。感染・炎症が疑われる場合は抗菌作用を持つゲーベンクリームやカデキソマー・ヨウ素などへの切り替えが求められます。感染兆候の見落としは治癒を大幅に遅らせます。


アズノール軟膏の最大の強みは「副作用の少なさと皮膚への低刺激性」です。脆弱な皮膚を持つ高齢者や長期療養患者にとって、刺激が少なく安全に使える保護薬として価値があります。繰り返し使っても皮膚萎縮リスクが低い点は、現場として大きなメリットです。


参考:アルメディアweb「外用薬が褥瘡に効くメカニズム」(褥瘡外用薬の基剤・主薬分類と使い分け解説)
https://www.almediaweb.jp/pressureulcer/maruwakari/part6/02.html


ジメチルイソプロピルアズレンを使う褥瘡ケアで医療従事者が見落としがちな落とし穴

アズノール軟膏を使った褥瘡ケアの現場では、特定のパターンでミスが起きやすいことがわかっています。医療従事者として意識すべき落とし穴を整理します。


落とし穴①:滲出液が増えてきたのに薬を切り替えない


褥瘡の状態は日々変化します。最初は滲出液が少なかった創でも、感染が加わったり体位変換が不十分だったりすることで滲出液が増加することがあります。にもかかわらず「アズノール軟膏で処置している」と慣例的に継続すると、油脂性基剤が増えた滲出液に対応できず、創傷悪化を招きます。毎日の観察が重要です。


これは見落としやすいポイントです。


落とし穴②:褥瘡そのものの原因除去が不十分なまま外用薬に頼る


どれだけ適切な外用薬を使っても、褥瘡の根本原因(圧迫・ずれ・摩擦)が取り除かれなければ治癒は進みません。ガイドラインでも「褥瘡発生原因の追求および除去が重要」と明記されています。体圧分散マットレスの使用・適切な体位変換(標準は2時間以内ごと、適切なマットレス使用時は4時間以内)を怠ったまま外用薬の種類だけを議論しても意味がありません。外用薬は補助手段です。


落とし穴③:壊死組織期にアズノールを使い続ける


黒色壊死(DESIGN-R:N4以上)の段階でアズノール軟膏を使っても、壊死組織を除去する作用がないため治癒につながりません。この段階ではブロメライン軟膏やゲーベンクリームが必要です。「なんとなく軟膏を塗っている」状態になっていると、本来の治療機会を逃すことになります。


落とし穴④:栄養管理を疎かにする


褥瘡は局所ケアだけで治すものではありません。低栄養状態では創傷治癒に必要なタンパク質・ビタミンC・亜鉛などが不足し、どんな外用薬も効果が減弱します。日本褥瘡学会のガイドラインでも栄養状態の評価・改善は推奨されています。外用薬の選択とあわせてNSTや栄養士との連携を検討することが求められます。


病棟・施設で褥瘡ケアの担当者が定期的に創状態を多職種で共有できる仕組みを作ることが、これらの落とし穴を防ぐ実践的な対策につながります。


参考:レバウェル看護「褥瘡治療薬の使い分け」(薬剤師が解説する褥瘡外用薬4分類の実践ガイド)