血管浮腫(血管性浮腫)とは、皮膚や粘膜の深部(真皮下層〜皮下組織)に浮腫が生じる病態です。 名前に「血管」と入っていますが、血管自体が腫れるわけではなく、血管の透過性亢進によって血漿成分が組織間隙に漏れ出すことが本質的なメカニズムです。
参考)HAE(遺伝性血管性浮腫)とは(特徴・患者数・症状) - 腫…
症状の特徴として、腫れは数時間以内に形成され、多くは2〜5日以内に自然消失します。 かゆみを伴わず、指で押しても圧痕が残らない非圧痕性の限局した腫脹が特徴的です。
好発部位は以下のとおりです。
参考)血管性浮腫|大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学
腸管に浮腫が起こると腹痛・嘔吐・下痢を呈し、急性腹症と誤診されるケースも少なくありません。 蕁麻疹と異なる点は表在性の紅斑・膨疹がなく、深部のみに浮腫が限局する点です。これが特徴です。
参考)遺伝性血管性浮腫|疾患情報【おうち病院】 / おうち病院 疾…
血管浮腫の種類は原因によって大きく異なり、治療方針も変わります。 まず大きな分類を整理します。
参考)血管性浮腫:どんな病気? 起こりやすい場所は? 検査や治療は…
| 種類 | 主な原因 | 特徴 |
|---|---|---|
| アレルギー性 | 食物・薬物・ラテックス | IgE介在性、じんましんを伴うことが多い |
| 非アレルギー性薬剤性 | ACE阻害薬・NSAIDs | ブラジキニン産生亢進、かゆみなし |
| 遺伝性(HAE) | C1-INH遺伝子異常 | 反復発作、家族歴あり |
| 後天性 | C1-INH消耗・自己抗体 | 基礎疾患(血液腫瘍など)に伴う |
| 特発性 | 不明 | 最も多く、原因特定困難 |
| 物理的刺激性 | 寒冷・振動・日光 | 誘因が明確 |
参考)血管性浮腫|大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学
ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)でも腸管血管性浮腫のリスクが認められており、2025年9月には厚生労働省より添付文書の改訂指示が出されています。 見落とさないよう注意が必要です。
参考)降圧薬で腸管血管性浮腫の報告、重大な副作用を改訂/厚労省|医…
遺伝性血管性浮腫(HAE)は指定難病の1つです。 C1インヒビター(C1-INH)の量または機能の異常によりブラジキニンが過剰産生され、血管透過性が高まることで浮腫が生じます。
参考)HAEの気道発作の救命は時間との勝負/CSLベーリング|医師…
HAEの症状で重要なのは「かゆみや赤みが出ない」という点です。 アレルギー性浮腫と異なり、抗ヒスタミン薬やアドレナリンが効きにくいため、アレルギーと思い込んでいると適切な治療が大幅に遅れます。
参考)遺伝性血管性浮腫について
発作の特徴は以下のとおりです。
参考)腎・高血圧内科|遺伝性血管性浮腫|順天堂大学医学部附属順天堂…
発症は幼少時から起こりえますが、10代ごろから症状が顕在化するケースが多いです。 HAEには遺伝子の種類によって腹部・顔面・舌など浮腫の好発部位に違いがあり、プラスミノーゲン遺伝子異常のHAEは特に舌浮腫を起こしやすいことが知られています。
参考)遺伝性血管性浮腫|疾患情報【おうち病院】 / おうち病院 疾…
日本国内での推定患者数は約2,500人(5万人に1人)ですが、現在確定診断・治療を受けている患者は約430人にとどまります。 未診断・未治療の患者が圧倒的多数という現実があります。
参考)推定患者数2500人の希少疾患「遺伝性血管性浮腫」に新薬続々…
HAEは発症から確定診断まで、日本では平均15.6年を要します。 欧米の平均(10年未満)と比較しても非常に長く、中には診断まで30〜40年かかった例も報告されています。
参考)HAEの検査・診断と治療
なぜここまで診断が遅れるのでしょうか?
浮腫が体の複数の部位に異なるタイミングで出現するため、「一連の症状」と気づかれにくいことが最大の理由です。 腹部浮腫は急性腹症、四肢浮腫は整形外科疾患、咽頭浮腫はアレルギーとして診察される場面が多く、それぞれの科で別々に対応されてしまいます。
参考)推定患者数2500人の希少疾患「遺伝性血管性浮腫」に新薬続々…
見逃しを防ぐための着眼点を以下に整理します。
このような患者には、血清C4値・C1-INH抗原量・C1-INH活性の測定が診断の糸口になります。
参考)HAEの検査・診断と治療
遺伝性血管性浮腫の診断・検査についての詳細情報はこちら。
HAEの検査・診断と治療|一般社団法人遺伝性血管性浮腫診断・治療研究機構
血管浮腫の治療は、原因の種類によって根本的に異なります。これが原則です。
アレルギー性の場合は抗ヒスタミン薬・ステロイド・エピネフリン(アナフィラキシー合併時)が有効です。 一方、ブラジキニン介在性(HAE・ACE阻害薬性)の場合はこれらが無効であり、誤って使用しても時間を無駄にするだけでなく患者の転帰を悪化させるリスクがあります。
HAEの急性期治療は近年大きく進歩しています。
参考)推定患者数2500人の希少疾患「遺伝性血管性浮腫」に新薬続々…
2018年以降、日本でもHAE治療薬の選択肢が急速に広がっています。 それ以前は28年間、新薬がなかった時代が続いていました。厳しいところでした。
参考)推定患者数2500人の希少疾患「遺伝性血管性浮腫」に新薬続々…
薬剤性血管浮腫(ACE阻害薬)への対応として最優先されるのは「原因薬剤の即時中止」です。 ただし、中止後も数日から数週間、症状が継続するケースがある点に注意が必要です。 ARBやDPP-4阻害薬でも中止後に発作が続いた症例報告があり、内服中止=即解決とはいえません。
参考)http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly21/18230831.pdf
気道閉塞を伴う重篤例の対応には、早期の気道確保(輪状甲状靭帯切開を含む)の準備が求められます。 咽頭浮腫は約20分で閉塞に至るため、「もう少し様子を見よう」という判断が致命的になりえます。迷わず対応することが条件です。
参考)https://www.radionikkei.jp/maruho_hifuka/maruho_hifuka_pdf/maruho_hifuka-171228.pdf
ACE阻害薬による血管性浮腫の機序や薬剤管理の詳細はこちら。
第7回 ACE阻害薬の血管浮腫はなぜ起こるの?|グッドサイクルシステム
HAEの患者・医療者向けの症状・生活情報はこちら。