患者が飲んでいるサプリのせいで、処方薬の血中濃度が10倍以上に跳ね上がることがあります。
ナリンゲニンは、グレープフルーツやオレンジ、トマトなどに含まれるフラバノン系フラボノイドの一種です。 化学的にはフラバンの構造を持ち、植物化学物質(フィトケミカル)に分類されます。 近年は単体サプリメントとして市販される機会が増え、医療現場でも患者から質問を受けるケースが多くなっています。 ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B2%E3%83%8B%E3%83%B3)
グレープフルーツの苦味成分として知られるナリンジン(naringin)が腸内や肝臓で加水分解されると、アグリコン型のナリンゲニンになります。 つまり、グレープフルーツジュースを飲むことでも体内でナリンゲニンが生成されるわけです。これが重要なポイントです。 pharm.or(https://www.pharm.or.jp/words/word00822.html)
サプリとしてのナリンゲニンは、純度の高い形で摂取できる点が食品と異なります。医薬品ではないため、品質管理の基準が製品によって大きく異なる点も医療従事者が把握しておくべき情報です。以下に基本情報を整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分類 | フラバノン系フラボノイド |
| 主な食品源 | グレープフルーツ、オレンジ、トマト |
| 前駆体 | ナリンジン(腸・肝臓でナリンゲニンに変換) |
| 規制区分 | 食品・サプリメント(日本では医薬品ではない) |
| 関連機能性表示食品 | ナリンジン含有の血糖管理サプリ(大正製薬など) |
brand.taisho.co(https://brand.taisho.co.jp/livita/lineup/glucocare_tablet_kuuhuku/)
研究報告が多い作用から順に見ていきましょう。まず抗炎症・抗酸化作用です。 rainafterfine(https://rainafterfine.com/2022/12/22/%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B2%E3%83%8B%E3%83%B3/)
ナリンゲニンは炎症性サイトカイン(MCP-1、MCP-3、IL-6など)の発現を抑制し、免疫細胞の脂肪組織への浸潤を減らすことがマウス実験で確認されています。 また、リソソーム依存性のサイトカインタンパク質分解を促進する「抗サイトカイン作用」は、アピゲニンやクルクミンとは異なるユニークな機序として注目されています。 つまり抗炎症メカニズムが独自性を持つということです。 kaken.nii.ac(https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-15K18949/15K18949seika.pdf)
血糖管理の面では、ナリンジン(ナリンゲニンの前駆体)が機能性表示食品として実用化されています。プラセボ対照試験で「12週間摂取後の空腹時血糖値が有意に低下」という結果が得られており、インスリン分泌促進因子の分解阻害と血液から組織への糖取り込み促進という2つの機序が示されています。 brand.taisho.co(https://brand.taisho.co.jp/livita/lineup/glucocare_tablet_kuuhuku/)
関節リウマチのモデル動物を使ったメタ分析では、ナリンゲニンが炎症性サイトカイン・酸化ストレスマーカー・関節病理を調節し、強力な抗関節炎効果を示すことも確認されています。 これは使えそうです。 academia.carenet(https://academia.carenet.com/share/news/8f1aa66e-1c0d-4b06-b603-625e6d198841)
ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B2%E3%83%8B%E3%83%B3)
ただし、現時点でヒトを対象にした大規模ランダム化比較試験(RCT)のデータは限られています。動物実験や試験管レベルの研究が主体であるため、患者への情報提供時には「現時点では研究段階が中心」という旨を正確に伝えることが大切です。
参考:天王寺こいでクリニック(心療内科・神経内科・栄養療法)によるナリンゲニンの詳細な薬理作用解説
ナリンゲニン | 天王寺こいでクリニック 心療内科・神経内科・栄養療法
ここが医療従事者にとって最も重要な部分です。
ナリンゲニンはCYP1A2の阻害剤として作用することが確認されています。 さらにその前駆体であるナリンジンを含むグレープフルーツ成分は、CYP3A4を強力に阻害することでも有名です。 CYP3A4阻害の原因化合物として「ナリンジンとそのアグリコンであるナリンゲニンが候補物質」と日本薬学会も明記しています。 pharm.or(https://www.pharm.or.jp/words/word00822.html)
CYP3A4阻害の臨床的影響は深刻です。強い阻害薬は相互作用を受けやすい基質薬のAUCを10倍以上に上昇させる(CL/Fを1/10未満に低下させる)ことがあります。 カルシウム拮抗薬(ニフェジピン、フェロジピンなど)をグレープフルーツジュースと一緒に飲むと最大血中濃度が著しく増加することは広く知られていますが、ナリンゲニンサプリでも同様のメカニズムが働く可能性があります。 厳しいところですね。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc0233&dataType=1&pageNo=3)
kaken.nii.ac(https://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI-PROJECT-24790182/247901822012hokoku/)
患者がグレープフルーツジュースを飲んでいないかを確認するのと同様に、ナリンゲニンやナリンジン含有サプリの服用有無も服薬チェックの対象として含めることが原則です。
参考:日本薬学会によるグレープフルーツと医薬品の相互作用の解説(CYP3A4阻害とナリンジン・ナリンゲニンの役割)
グレープフルーツ | 公益社団法人 日本薬学会
参考:厚生労働省・科研費研究によるナリンゲニンとピオグリタゾンの相互作用の可能性
ナリンゲニンとピオグリタゾン・薬物相互作用研究 | KAKEN
「フラボノイドはどれも同じ」という認識は間違いです。
ナリンゲニンはアピゲニンやクルクミンと同じ天然抗炎症成分でも、サイトカイン阻害の機序が異なります。具体的には、ナリンゲニンはサイトカインmRNAの発現阻害だけでなく、リソソーム依存性のサイトカインタンパク質分解を促進するという二重の機序を持ちます。 この点がナリンゲニン固有の特徴です。 rainafterfine(https://rainafterfine.com/2022/12/22/%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B2%E3%83%8B%E3%83%B3/)
患者タイプ別に考えると、以下のような整理ができます。
| 患者タイプ | 注意点・考え方 |
|---|---|
| 2型糖尿病でピオグリタゾン服用中 | ナリンゲニンサプリとの併用で血中濃度上昇の可能性あり。服用中止または処方医への確認を推奨 |
| 高血圧でCa拮抗薬服用中 | グレープフルーツと同様のCYP3A4阻害リスク。過度の血圧低下に注意 |
| 関節リウマチで抗炎症薬服用中 | 動物実験レベルでの有効性は示唆されているが、既存薬との相互作用リスクを優先評価 |
| 生活習慣病予防目的(薬なし) | 血糖・コレステロール管理を補助する可能性。ただしRCTエビデンスは限定的と伝える |
| 妊娠中・授乳中 | サプリ形態での安全性に関する信頼できるデータが乏しく、原則として避けるよう指導 |
mhlw-grants.niph.go(https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2004/044041/200401139A/200401139A0011.pdf)
また、ホップ由来の「8-プレニルナリンゲニン」は植物性エストロゲン(フィトエストロゲン)活性を持ち、更年期症状の緩和や骨粗鬆症予防への応用が研究されています。 これは通常のナリンゲニンとは異なる成分ですが、患者が混同しやすい点のため注意が必要です。 ememari(https://ememari.com/pages/our-expert01)
患者から「ナリンゲニンサプリを飲んでもいいですか?」と聞かれた場合に一番有用なアクションは、「現在処方されている薬のリストとサプリ名を照らし合わせること」です。薬物相互作用データベース(Di-Directなど)で即座に確認する習慣をつけておくと、患者への回答がより迅速かつ正確になります。
研究の進展は目覚ましい状況です。
COVID-19への対応として、ナリンゲニンがウイルスの主要プロテアーゼである3-キモトリプシンを阻害すること、またACE2受容体への結合を阻害する可能性が複数の研究で示されています。 これはパンデミック以降に急増した研究テーマのひとつです。C型肝炎ウイルスに感染した肝細胞でウイルス産生を減らす作用についても、臨床研究段階に入っています。 ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B2%E3%83%8B%E3%83%B3)
神経系への作用についても注目されています。ナリンゲニンは自閉症に対する保護作用が指摘されており、その作用機序はまだ解明されていませんが、神経炎症の抑制が関与すると推測されています。 また自閉症以外にも認知機能保護への応用が期待されています。 rainafterfine(https://rainafterfine.com/2022/12/22/%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B2%E3%83%8B%E3%83%B3/)
がん領域では、関連フラボノイドのキサントフモール(ホップ由来)が複数のがん細胞に対してアポトーシス誘導作用を示すことが報告されており、同じフラバノン系のナリンゲニンも抗腫瘍作用を持つことが複数の研究で示唆されています。 ただし、これも現時点での研究段階を患者に正確に伝えることが条件です。 ememari(https://ememari.com/pages/our-expert01)
参考:J-GLOBALによる心血管疾患予防におけるナリンゲニンとナリンギンの前臨床レビュー(英文・機械翻訳あり)
心血管疾患予防におけるナリンゲニンとナリンギン:前臨床レビュー | J-GLOBAL
参考:CareNet(医療従事者向け)によるナリンゲニンの関節リウマチ動物モデルでの抗炎症効果メタ分析報告
ナリンゲニン、関節リウマチ動物モデルで有望な抗炎症効果を示す | CareNet