接触皮膚炎の感作相でランゲルハンス細胞を除去するとアレルギー反応が増悪するケースがあります。
ランゲルハンス細胞(Langerhans cells:LCs)は1868年、当時ベルリン大学の医学生だったPaul Langerhansによって表皮有棘層で発見されました。発見当初、その樹枝状の突起が神経細胞に見えたため、長年にわたって神経系の細胞と誤認されていたという事実はあまり知られていません。
約100年後の1973年、Steinman博士が「樹状細胞」という概念を確立し、ランゲルハンス細胞は樹状細胞の一員として再評価されました。Steinman博士はこの業績でノーベル医学・生理学賞を受賞しています。以降、LCsは長年にわたって「樹状細胞の亜群」として分類されてきました。これが医療従事者の間で定着した「常識」です。
ところが近年、この分類に大きな疑問が投げかけられています。研究が進むにつれ、LCsの発生起源や維持機構がほかの樹状細胞と根本的に異なることが明らかになってきました。
主なポイントは以下のとおりです。
これらの発見から2014年、LCsをその発生起源の観点から「組織在住マクロファージ」に分類すべきとの説が提唱されました。脳のミクログリア、肝臓のKupffer細胞と同じカテゴリーに位置づけるという考え方です。つまり「LCs∈マクロファージ」説の登場です。
結論は出ていません。現在も議論が続いている分野です。ただ確かなのは、LCsを「単純な樹状細胞の亜群」として捉えるのは現時点では不十分であり、発生起源・機能・病態それぞれの文脈から多角的に理解することが求められているという点です。
2017年に理化学研究所のグループが転写因子Runxのサブユニット「Cbfβ2」がLCsの分化に重要な役割を果たすことを発見しました。Cbfβ2欠損マウスでは、本来なら生後数日以内に消失するLCs前駆細胞様細胞が成体の表皮に維持され続けることが確認されています。この研究はLCsの分化メカニズムの解明という点で、アトピー性皮膚炎など皮膚疾患の新規治療法開発への応用が期待されています。
理化学研究所 2017年プレスリリース「ランゲルハンス細胞の分化機構を解明」は、LCsの発生・分化に関する一次情報として非常に有用です。
理化学研究所:ランゲルハンス細胞の分化機構を解明(2017年)
皮膚は「免疫臓器」です。消化管や肺と並ぶ最大の免疫バリアであり、3層の防御機構を備えています。第一・第二バリアが角質層とタイトジャンクションによる物理的防御であるのに対し、第三のバリアが免疫学的防御、すなわちLCs・樹状細胞・マクロファージらの役割です。
表皮に存在するLCsは、表皮全細胞の約2〜3%を占めます。数字に換算すると、皮膚1mm²あたりに約1,000個のLCsが存在する計算になります。はがき1枚(約148×100mm)の表皮には1,480万個ものLCsが網目状に配置されているわけです。この密なネットワークにより、表皮全体が免疫学的に「監視」されています。
機能的な役割分担はこうなっています。
ここで重要なのが、樹状細胞とマクロファージの根本的な違いです。樹状細胞は抗原を取り込むと活性化し、リンパ管を経由して所属リンパ節へと移行します。そこでナイーブT細胞と直接相互作用してエフェクターT細胞の分化を誘導します。一方、マクロファージは抗原を貪食しても「局所に留まる」のが基本です。
樹状細胞が「哨戒から報告まで行う機動型」であるのに対し、マクロファージは「現場を守る駐在型」と言えます。どちらかが優れているわけではなく、両者の協調が機能的な免疫応答を生み出します。
また近年、真皮樹状細胞と組織在住マクロファージが協力して形成する「誘導型皮膚リンパ組織(iSALT:inducible skin-associated lymphoid tissue)」が注目されています。炎症時、血管周囲マクロファージがCXCL2というケモカインを産生して真皮樹状細胞を血管周囲へ集積させ、そこへ流入してきたエフェクターT細胞に抗原提示するという仕組みです。この構造は皮膚メラノーマ(黒色腫)の腫瘍免疫とも関連しており、免疫チェックポイント阻害薬の効果の場として現在注目されています。
皮膚免疫における樹状細胞とマクロファージのサブセット・役割分担については、京都大学グループによる以下の総説が体系的にまとめられています。
医療従事者の多くがLCsについて持っているイメージは「皮膚免疫の主役として免疫を正の方向に誘導する」というものではないでしょうか。実は、この認識は今日の研究では大幅に修正されています。
転換点は2005年です。LCsのみを特異的に除去できる遺伝子改変マウスが作製され、in vivoでの機能評価が初めて可能になりました。アメリカ・フランス・オランダの3グループが接触皮膚炎モデルでLCsを除去した実験を同時期に実施しましたが、その結果は互いに異なっていました。
3グループの結果が三者三様だった事実は、皮膚免疫研究者に大きな衝撃を与えました。接触皮膚炎の感作相ではLCsが必須ではなく、場合によってはむしろ免疫を抑制している可能性が示されたのです。
現在の主流的な解釈はこうです。接触皮膚炎の原因抗原であるハプテン(金属や香料など低分子物質、分子量<1,000)は容易に表皮から真皮へ到達します。したがって、感作相では真皮樹状細胞が抗原提示細胞としての主要な役割を担い、LCsは必ずしも必要ではないというものです。惹起相においても同様に、LCsが必須でないことが報告されています。
一方、タンパク抗原(花粉・ダニなど、分子量>10,000)が関与するアトピー性皮膚炎(AD)モデルではLCsが必須です。タンパク抗原は角層に留まりやすく、LCsが樹状突起を角質層側へ伸ばして抗原を捕捉するためです。LCsを除去したADモデルマウスでは、臨床症状の改善のみならず、抗原特異的IgEの誘導もほとんど見られなくなります。
さらに注目すべきは、LCsのATP分解機能です。亜鉛欠乏による皮膚炎の病変部ではLCsが存在しないことが観察されており、正常時においてLCsは、表皮角化細胞が産生する炎症促進性のATPを積極的に分解することで局所炎症を抑制しているとの報告があります。また紫外線照射後のモデルでは、LCsが産生するIL-10が免疫抑制を誘導することも知られています。
つまりLCsは「免疫を促進も抑制もできる」多機能細胞です。LCsの機能の方向性は、周囲のケラチノサイトが産生するサイトカインシグナルなど、皮膚微小環境によって規定されると考えられています。
LCsの過去・現在・未来を網羅した講演記録として、京都大学・椛島教授(当時)による第64回日本アレルギー学会教育講演が参考になります。
日経ラジオ:ランゲルハンス細胞—過去、現在、未来(京都大学大学院 椛島健治教授 講演録 PDF)
皮膚内のマクロファージは単一の細胞集団ではありません。大きく「炎症性単球由来のM1型」と「組織在住のM2型」に区別されており、この極性化の違いが皮膚免疫制御の鍵を握っています。
M1型マクロファージは感染や炎症の急性期に皮膚へ浸潤します。Ly6c陽性CCR2陽性CX3CR1陰性の単球が分化したもので、TNFαやIL-6などの炎症性サイトカイン、活性酸素を産生して初期の炎症誘導を担います。攻撃型です。
M2型マクロファージは皮膚に元々常在するLy6c陰性CCR2陰性CX3CR1陽性の組織在住型で、TGFβやVEGFを産生し、血管新生・コラーゲン合成・再上皮化を促進します。組織修復型です。創傷治癒が正常に進むためには、炎症期のM1優位な環境から修復期のM2優位な環境へのシフトが適切なタイミングで起きることが必要です。
興味深いことに、マウスの慢性アレルギー性皮膚炎モデルでは、好塩基球が皮膚局所で分泌するIL-4がM1型からM2型へのマクロファージの表現型変化(極性転換)を誘導することが報告されています。マクロファージが固定された性質の細胞ではなく、微小環境に応じてダイナミックに性質を変える「可塑性」を持つことを示す知見です。
血管周囲に存在するマクロファージは特に注目されています。これらは真皮内に独特の配置を持ち、CXCL2産生を通じた樹状細胞集積制御(iSALT形成)に関与するだけでなく、好中球の皮膚への流入制御という予想外の機能も持ちます。黄色ブドウ球菌のα溶血毒素によって血管周囲マクロファージが消失すると、ケモカイン産生が失われて好中球の流入が障害され、ブドウ球菌の排除が困難になるという報告があります。これは臨床的にも重要な知見です。
M1/M2分類はあくまで概念的なモデルです。実際の生体内ではより複雑なサブセットが存在し、ヒトにおける詳細な機能はまだ解明途上です。ただしこの概念を理解しておくことで、皮膚炎・創傷治癒・感染症の病態を「どの極性のマクロファージが優位か」という視点から読み解けるようになります。
M1/M2マクロファージのマーカーや表現型については以下の資料が参考になります。
Bio-Rad:マクロファージ分極化のM1/M2サブセットと表現型(PDF)
LCsが関与する疾患として臨床的に最も重要なのが、ランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans Cell Histiocytosis:LCH)です。この疾患は長らく免疫・炎症性疾患として捉えられてきましたが、近年の遺伝子解析により「腫瘍性疾患」として再定義されつつあります。これは診断・治療の考え方に直結する転換です。
LCHの発生率は15歳未満の小児で年間100万人あたり約5〜9人、15歳以上では100万人あたり約1人と報告されています(比較的まれな疾患です)。骨・皮膚・肺・下垂体などに病変が生じ、単一臓器病変から多臓器浸潤までスペクトラムは幅広い。
最大の転換点は2010年代初頭のBRAF遺伝子変異の発見です。LCH症例の約57〜60%にBRAF V600E変異が検出されることが明らかになり、この疾患のドライバー変異が同定されました。さらにBRAF以外にもMAP2K1(MEK1)などMAPKシグナル経路の変異が次々と報告され、LCHが骨髄性未熟樹状細胞の腫瘍性増殖を基盤とすることが確立されてきました。ちなみにLCH細胞の遺伝子発現プロファイルの網羅的検討からは、LCH細胞が表皮のランゲルハンス細胞ではなく、骨髄由来の骨髄性未熟樹状細胞に類似していることも示されています。これもまた「LCsと樹状細胞の関係」に関する重要な知見です。
BRAF変異の発見はすぐに治療に応用されました。BRAF阻害薬(ベムラフェニブ、ダブラフェニブ)やMEK阻害薬を用いた標的療法が、難治性・再発性LCHの成人および小児を対象に試験されており、予後改善への期待が高まっています。液体生検(血液中の循環腫瘍DNAを検出)によりBRAF V600E変異を非侵襲的に検出する方法も報告されており、治療効果モニタリングへの応用が検討されています。
従来の治療はビンカアルカロイド+ステロイドによる化学療法が基本でした。これに加えてBRAF阻害薬という選択肢が加わったことは、LCH診療を大きく変えつつあります。ただし標的薬の投与量や治療期間・長期安全性については、特に小児領域でまだ検討が続いています。
LCHの発生率や治療に関する最新情報は、日本小児がん研究グループ(JCCG)の情報が参考になります。
日本小児がん研究グループ(JCCG):ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)の解説
LCHにおけるBRAF変異と標的療法の最新動向については、日本組織球性腫瘍研究会(JAHN)のページも有用です。
JAHN(日本組織球性腫瘍研究会):最新学術情報(医療者向け)
ここまで整理してきた3細胞の特性を踏まえ、現在研究・臨床の両面で注目されている応用的な視点を紹介します。
まず、LCsを利用した経皮ワクチンへの応用が挙げられます。LCsは表皮全面に網目状に分布し、タイトジャンクションを超えて角質層まで樹状突起を伸ばして抗原を取り込む特殊な能力を持ちます。これは皮膚から免疫応答を誘導できることを意味します。今後、LCsの機能をうまく利用した経皮的ワクチン療法(注射を必要としないワクチン投与経路)の開発への期待があります。アトピー性皮膚炎における皮膚感作の機序解明とも深く関連するテーマです。
次に、免疫チェックポイント阻害薬と皮膚免疫の関係です。iSALT(誘導型皮膚リンパ組織)構造は、ヒトの皮膚メラノーマ(黒色腫)病変周囲にも確認されており、腫瘍周囲リンパ組織構造(TLS)として腫瘍予後と相関することが示されています。PD-1阻害薬などの免疫チェックポイント阻害薬の治療前後でこの構造がどう変化するかについて、現在も研究が進んでいます。樹状細胞・マクロファージによるiSALT形成が腫瘍免疫を支える場となっているとすれば、これらの細胞の機能解明は腫瘍免疫療法の最適化にも貢献することになります。
さらに、LCsの免疫抑制機能は慢性炎症性皮膚疾患の治療戦略と接点を持ちます。LCsがIL-10産生やATP分解を通じて炎症を収束させる機能を持つことから、この機能を人工的に亢進させることができれば、アトピー性皮膚炎や乾癬など難治性炎症性皮膚疾患に対する副作用の少ない新規治療法の開発につながる可能性があります。
これら3細胞は互いに独立した存在ではなく、皮膚という共通の舞台で精密に協調しながら機能しています。ランゲルハンス細胞が「樹状細胞なのかマクロファージなのか」という二択で悩む必要はないかもしれません。発生起源・機能・病態それぞれの文脈に応じて柔軟に解釈することが、現代の皮膚免疫学では求められています。
皮膚免疫における3細胞の比較をまとめると以下のようになります。
| 項目 | ランゲルハンス細胞 | 真皮樹状細胞 | 皮膚マクロファージ |
|---|---|---|---|
| 主な局在 | 表皮(有棘層) | 真皮 | 真皮(血管周囲など) |
| 発生起源 | 卵黄嚢・胎児肝(非骨髄性) | 骨髄由来 | 卵黄嚢・胎児肝・骨髄(組織依存) |
| 主な表面マーカー | CD1a・Langerin・MHC class II・Birbeck顆粒 | CD11c・MHC class II(サブセットにより異なる) | CD68・CX3CR1・F4/80 |
| 抗原提示能 | あり(主に蛋白抗原・脂質抗原:CD1a) | 非常に高い(クロスプレゼンテーション含む) | あり(効率はDCより低い) |
| 遊走性 | 抗原取り込み後にリンパ節へ遊走 | 主に局所に留まる | |
| 接触皮膚炎での役割 | 必須ではない(抑制的に働く可能性) | 感作相・惹起相で主要な役割 | iSALT形成に必須 |
| 骨髄補充 | 定常状態ではほぼなし(自律増殖) | 常に骨髄から補充 | 組織・状況依存 |
MSD Manualsプロフェッショナル版では、皮膚樹状細胞やマクロファージを含む免疫系細胞の概要を日本語で確認できます。
MSD Manualプロフェッショナル版:免疫系を構成する細胞(樹状細胞・マクロファージ含む)