乾癬の維持療法で300mgペンを処方し続けると、患者の年間薬剤費は150万円を超えることがあります。
セクキヌマブ(商品名:コセンティクス、製造販売:ノバルティスファーマ)は、IL-17Aを選択的に阻害するヒト型モノクローナル抗体製剤です。2015年に国内で承認されて以来、乾癬領域を中心に幅広い自己免疫疾患に適応が広がっています。
現在、国内で流通している剤型は3種類です。
| 販売名 | 薬価 | 3割自己負担(参考) |
|---|---|---|
| コセンティクス皮下注75mgシリンジ | 40,144円/筒 | 約12,043円 |
| コセンティクス皮下注150mgペン | 71,469円/キット | 約21,441円 |
| コセンティクス皮下注300mgペン | 138,249円/キット | 約41,475円 |
上記はあくまで薬剤費のみの金額です。実際の患者負担は診察料・検査料などを加えた合計で算出されます。
生物学的製剤の処方において、薬価の把握は処方前の必須事項です。たとえば尋常性乾癬の成人患者に300mgを標準スケジュール(初回~4週後まで毎週、以降4週毎)で投与した場合、導入期(最初の5回分)だけで薬剤費は138,249円×5=約69万1,245円になります。維持期に入っても4週毎に約13万8,249円が発生するため、年間ベースでの薬剤費は優に100万円を超えます。これは300mg×1キット/回で計算した場合です。
患者の経済的負担が大きくなる点が実感しやすいですね。
ただし、国民皆保険制度と高額療養費制度の組み合わせにより、実際の自己負担額は大幅に軽減される点を医療従事者として正確に伝えることが重要です。
参考リンク(薬価情報の確認に有用)。
KEGGくすりデータベース:セクキヌマブの剤型・薬価一覧
「適応症が変わると、使う用量も変わる」というのは、セクキヌマブの処方を組み立てるうえで非常に重要なポイントです。用量が変われば薬価負担も変わります。医療従事者はここを正確に把握しておく必要があります。
現在の国内承認適応は以下のとおりです。いずれも「既存治療で効果不十分な」という条件が付きます。
- 尋常性乾癬
- 乾癬性関節炎(関節症性乾癬)
- 膿疱性乾癬
- 強直性脊椎炎
- X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎
🔸 適応別の標準用量の違い(成人)
| 適応症 | 標準用量 | 月換算薬剤費(維持期・参考) |
|---|---|---|
| 尋常性乾癬・乾癬性関節炎・膿疱性乾癬 | 1回300mg(4週毎) | 約138,249円 |
| 強直性脊椎炎・体軸性脊椎関節炎 | 1回150mg(4週毎) | 約71,469円 |
つまり、乾癬と脊椎関節炎では維持期の1回薬剤費がおよそ2倍異なります。 乾癬では300mgが標準、強直性脊椎炎や体軸性脊椎関節炎では150mgが標準です。
ただし、乾癬においても体重が低い患者さんや寛解維持期の患者さんでは、医師の判断で150mgへの減量投与が選択されることがあります。用量調整の根拠となる臨床試験データを熟知したうえで、個別に判断することが求められます。
また、小児(6歳以上)への適応については、2021年9月に乾癬・乾癬性関節炎・膿疱性乾癬が追加承認されました。この小児適応では体重によって使用する剤型が分かれています。体重50kg未満では75mgシリンジ(薬価40,144円)、体重50kg以上では150mgペン(71,469円)を使用します。小児への処方が想定される施設では、75mgシリンジの在庫管理と患者への自己注射指導体制の整備が必要です。
意外ですね。剤型の違いが「用量調整の柔軟性」だけでなく、薬価管理にも直結しているということです。
参考リンク。
今日の臨床サポート:コセンティクスの適応・用量詳細(添付文書ベース)
生物学的製剤を処方する際、医師や薬剤師が患者に対してきちんと伝えるべき情報のひとつが「高額療養費制度」です。薬価が高額であることを伝えるだけでは不十分で、実際の自己負担がいくらになるかを具体的にイメージさせることが、治療継続率の向上につながります。
高額療養費制度では、1か月あたりの自己負担額に「上限(自己負担限度額)」が設けられています。 たとえば70歳未満・年収370〜770万円の標準的な所得区分では、月の医療費(3割負担)が80,100円+(医療費−267,000円)×1%という計算式で上限が定まります。セクキヌマブ300mgを乾癬に使用し、その月に4本投与するケース(導入期)では薬剤費だけで55万円以上になりますが、高額療養費制度を適用すれば窓口負担は大幅に圧縮されます。
実務上のポイントは次の3点です。
- 限度額適用認定証を事前に保険者から取得してもらうことで、窓口での一時的な高額支払いを回避できる
- 多数回該当(同一世帯で12か月以内に3回以上高額療養費に該当した月)が適用されると、4回目以降は上限額がさらに引き下げられる。年収370〜770万円区分なら44,400円が上限になる
- 投与開始月のタイミング(月初か月末か)によって1か月に何本投与できるかが変わるため、月初開始のほうが導入期の自己負担が集中しにくい場合がある
これは使えそうです。 セクキヌマブは4週毎の投与ですが、初月の投与スケジュール(初回・1週後・2週後・3週後・4週後)によって、1か月内に複数本が入る月と1本だけの月が生まれます。患者ごとに月別の概算負担額をシミュレーションして伝えることが、治療継続のモチベーション維持につながります。
なお、マルホ株式会社が運営する「乾癬.com」では、コセンティクスの費用負担シミュレーターが公開されており、患者説明に活用できます。
参考リンク(費用シミュレーション)。
乾癬.com コセンティクス費用負担シミュレーター(マルホ)
参考リンク(高額療養費制度の基本)。
厚生労働省:高額療養費制度について(PDF)
令和8年度(2026年度)薬価改定は、2026年3月5日に官報告示されました。改定率は医療費ベースで▲0.86%、薬剤費ベースでは▲4.02%という水準です。
今改定の最大の特徴のひとつが「市場拡大再算定」の対象品目の整理です。 市場拡大再算定とは、薬価収載後に市場規模が大幅に拡大した医薬品の薬価を引き下げる制度です。令和8年度は13成分31品目が対象となりましたが、セクキヌマブ(コセンティクス)そのものは今次改定の市場拡大再算定対象ではありません。
ただし、注目すべき点があります。 今改定で市場拡大再算定の対象となったIL-23阻害薬のスキリージ(リサンキズマブ)の類似薬として、グセルクマブ(トレムフィア)などが新たな仕組みにより算定対象として評価されました。セクキヌマブを含むIL-17系阻害薬は今回は直接の対象にはなっていないものの、今後もNDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)を活用した使用量モニタリングが行われることが明確化されています。
市場拡大再算定では最大40%超の薬価引き下げが実施される場合もあります。 薬価算定の観点からは、今後の類似品への波及リスクを継続的に把握しておくことが重要です。
また、2026年6月1日から適用される費用対効果評価結果に基づく価格調整も告示されています(対象は内用薬2品目)。セクキヌマブは現時点でその対象外ですが、生物学的製剤全般に対する費用対効果評価の枠組みは今後強化される見込みであり、処方する医師・薬剤師にとっても制度の動向を追うことは処方判断の重要な背景知識となります。
参考リンク。
令和8年度薬価改定|市場拡大再算定の対象13成分31品目を徹底解説
薬価や経済性の観点だけでなく、セクキヌマブを処方する際に医療従事者がしっかり確認しておくべき安全性上の注意点があります。これらを見落とすと、治療中断・薬剤変更・入院対応など、かえって医療費を増大させる結果につながる可能性があります。
🔸 炎症性腸疾患(IBD)合併患者への注意
セクキヌマブの添付文書では「炎症性腸疾患の患者」は慎重投与とされています。IL-17Aは腸管バリア機能の維持にも関与しており、IL-17Aを阻害すると炎症性腸疾患が悪化したり、新規発症するリスクがあります。 実際に、乾癬治療中にセクキヌマブ投与後に潰瘍性大腸炎が新規発症した症例報告も国内学術誌に報告されています。
クローン病の活動期が明らかな患者には投与すべきではなく、他の生物学的製剤(TNF阻害薬など)への切り替えを検討することが原則です。 このリスクを処方前に評価しないと、のちに治療変更が必要になり、患者の余分な出費と身体的負担につながります。
🔸 感染症スクリーニングの徹底
投与前には結核スクリーニング(QuantiFERON検査またはツベルクリン反応)が必要です。活動性結核は禁忌であり、潜在性結核感染症では抗結核薬の予防投与を先行させる必要があります。また、B型肝炎ウイルスの既往感染者ではウイルス再活性化のリスクがあるため、HBs抗原・HBc抗体・HBs抗体の事前確認が欠かせません。
感染症スクリーニングは必須です。 これらを省略して開始した場合、重篤な感染症が発生すれば入院対応が必要になる可能性があり、医療費・患者の健康リスクともに深刻です。
🔸 生ワクチン接種の禁止
セクキヌマブ投与中はBCG・麻疹・風疹・水痘などの生ワクチンは接種不可です。患者が予防接種を検討する際に事前に確認・説明しなければ、本来不必要なリスクを招くことになります。特に小児患者(6歳以上)への適応が広がっている現在、保護者への説明を含めた対応が求められます。
厳しいところですね。 一方で、これらのスクリーニングと安全管理を確実に行うことが、長期的な治療継続と患者満足度の向上、ひいては医療費の無駄を防ぐことにつながります。
乾癬治療薬コセンティクスの副作用で炎症性腸疾患が確認された報告(Qlife)