プロバイオティクスだけ処方すれば腸内環境は十分に改善できると思っていませんか?実は、プロバイオティクス単独投与では定着率が最大で約30〜40%にとどまるという報告があります。
シンバイオティクス(Synbiotics)という言葉を一度は耳にしたことがあるでしょう。しかし、プロバイオティクス・プレバイオティクスとの違いをすらすら説明できる医療従事者は、実は思いのほか少ないのが現状です。
まず3つの概念を整理します。プロバイオティクス(Probiotics)は「適切な量を摂取したとき宿主に健康上の利益をもたらす生きた微生物」と定義されます。代表例はラクトバチルス属(乳酸菌)やビフィズス菌です。一方、プレバイオティクス(Prebiotics)は「宿主の腸内微生物によって選択的に利用され、宿主に健康上の利益をもたらす基質」と定義され、フラクトオリゴ糖(FOS)・イヌリン・ガラクトオリゴ糖(GOS)などが代表例です。これらは生きた菌ではありません。
つまり端的に言えば、プロバイオティクスは「菌そのもの」、プレバイオティクスは「菌のエサ」です。そしてシンバイオティクスは、この2つを組み合わせたものを指します。ただし重要な点があります。2019年にISAPP(国際プロバイオティクス・プレバイオティクス科学協会)が発表した合意声明では、シンバイオティクスを「相補的シンバイオティクス」と「相乗的シンバイオティクス」の2種類に分類しました。
相補的シンバイオティクスは、プロバイオティクスとプレバイオティクスをそれぞれ独立した機能のまま組み合わせたものです。一方、相乗的シンバイオティクスは、含まれるプレバイオティクスが同じ製品内のプロバイオティクスを選択的に利用することで相乗効果を生む組み合わせを指します。後者は「組み合わせ自体に科学的根拠」が求められます。
これが原則です。「とりあえずプロバイオティクスとプレバイオティクスを同時に使えばシンバイオティクス」という認識は、科学的には不正確といえます。
| 用語 | 定義 | 代表例 |
|---|---|---|
| プロバイオティクス | 健康に有益な生きた微生物 | ラクトバチルス属、ビフィズス菌 |
| プレバイオティクス | 腸内有益菌のエサとなる基質 | FOS、イヌリン、GOS |
| シンバイオティクス | 上記2つの組み合わせ(相乗効果が条件) | 各種機能性食品・サプリメント・医薬品 |
参考:ISAPP 2019合意声明 シンバイオティクスの定義と分類についての国際的合意
作用メカニズムを理解すれば、なぜ単独投与より効果が高いケースがあるのかが明快になります。これは使えそうです。
プロバイオティクスを単独で経口投与した場合、胃酸・胆汁酸の影響を受けながら消化管を通過し、大腸に到達する菌数は元の菌数の一部に限られます。さらに大腸に到達しても、既存の腸内フローラとの競合が生じるため、定着率が低くなることが課題でした。
シンバイオティクスにおいては、プレバイオティクスが大腸内で投与されたプロバイオティクスの「足場」を作ります。具体的には、フラクトオリゴ糖などのプレバイオティクスが大腸まで未消化のまま到達し、ビフィズス菌など特定の有益菌の増殖を選択的に促します。この選択的増殖の促進は、有害菌の競合排除にもつながります。
腸内フローラの多様性が高まるということですね。腸内フローラの多様性が高い状態は、免疫系の適切な調整・短鎖脂肪酸(酪酸・プロピオン酸など)の産生増加・腸管バリア機能の強化と密接に関係しています。特に酪酸は、大腸粘膜細胞のエネルギー源として機能し、腸管バリアを維持するタイトジャンクションの発現を促進することが複数の研究で示されています。
また、短鎖脂肪酸の増加は腸管内pHを低下させ、大腸菌やClostridium difficileといった病原性菌の増殖を抑制する効果も期待されています。これは感染症リスクの高い入院患者に対するシンバイオティクス投与が注目される根拠の一つです。
作用の流れをまとめると次の通りです。
「理論はわかった。でも実際の臨床でどう使うのか?」という疑問は自然です。近年、シンバイオティクスの臨床エビデンスは急速に蓄積されており、医療現場での活用場面が具体化してきています。
まず注目されているのが、術後感染予防への応用です。消化器外科の分野では、術前・術後にシンバイオティクスを投与することで術後感染性合併症の発生率が低下するという複数のRCT(ランダム化比較試験)の結果が報告されています。2012年のJournal of Parenteral and Enteral Nutrition誌に掲載されたメタアナリシスでは、腹部手術患者へのシンバイオティクス投与が感染性合併症を有意に減少させたことが示されました。
次に注目されるのがIBS(過敏性腸症候群)への応用です。IBSはプライマリケアでも頻繁に遭遇する疾患ですね。一部のシンバイオティクス製品では、腹部膨満感・便通異常の改善に有効であるというエビデンスが蓄積されています。ただし、IBS-C(便秘型)とIBS-D(下痢型)で反応する菌種や組み合わせが異なるケースがあるため、個別対応が重要です。
さらに、ICU(集中治療室)での重症患者における腸内フローラ維持・感染予防目的でのシンバイオティクス活用も研究が進んでいます。長期の抗菌薬投与や経腸栄養による腸内フローラ破壊を最小化する観点から、早期のシンバイオティクス投与が検討されています。
日本では、特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品として一定のエビデンスが認められた製品も市場に流通しています。医療従事者として患者への栄養指導や補足的なサポートを行う際は、エビデンスの水準を確認してから製品を推薦することが求められます。
エビデンスの確認が条件です。
| 応用領域 | 期待される効果 | エビデンスレベルの目安 |
|---|---|---|
| 消化器外科(術前後) | 術後感染性合併症の低減 | 複数のRCT・メタアナリシスあり |
| IBS(過敏性腸症候群) | 腹部症状の改善 | 菌種・個人差あり、継続研究中 |
| ICU・重症管理 | 腸内フローラ維持・感染予防 | 研究蓄積段階 |
| 高齢者・免疫低下患者 | 免疫機能の補助・便通改善 | 観察研究・介入研究あり |
参考:日本消化器病学会 機能性消化管疾患診療ガイドライン(IBS領域の記述を含む)
日本消化器病学会 機能性消化管疾患診療ガイドライン2020(IBS)
シンバイオティクスを患者や施設で活用する際には、製品選択の基準を持つことが重要です。組み合わせなら何でも良いわけではありません。
まず確認すべきは「相乗的シンバイオティクス」か「相補的シンバイオティクス」かという点です。前述の通り、本来の意味での相乗効果を期待するなら、含まれるプレバイオティクスが同一製品内の菌株を選択的に活性化するという根拠が必要です。この点が明示されていない製品は、相補的なものにすぎない可能性があります。どちらが悪いというわけではありませんが、期待する効果と選ぶ製品が一致していることが大切です。
次に確認したいのは、菌株レベルでのエビデンスです。「ビフィズス菌配合」という表示だけでは不十分で、「Bifidobacterium longum BB536」のように菌株名(ストレイン)まで記載されている製品の方が科学的根拠を確認しやすくなります。菌株によって効果の特性は大きく異なるからです。これが基本です。
また、保存条件も重要です。プロバイオティクスは生きた菌であるため、光・熱・湿度に弱い種類があります。製品によっては「要冷蔵」の条件が必要なものもあり、病院や施設での管理体制に合った製品を選ぶ必要があります。フリーズドライ製法による常温保管可能な製品も増えてきており、管理のしやすさも選択基準の一つになります。
さらに免疫抑制患者やICU患者へのプロバイオティクス投与については、菌血症・真菌血症のリスクも考慮が必要です。健康な成人では問題にならない場合でも、重篤な免疫抑制状態や腸管バリア機能が著しく低下した患者では、注意が必要なケースがあります。使用前にリスク・ベネフィットを評価することが必須です。
参考:国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN)の「健康食品」の安全性・有効性情報
健康食品の安全性・有効性情報(NIBIOHN)- プロバイオティクス・プレバイオティクス関連情報
医療現場では、患者がサプリメントや機能性食品を自己判断で購入・摂取するケースが少なくありません。腸活ブームの影響で「ヨーグルトを毎日食べています」「腸活サプリを飲んでいます」という患者の声を聞く機会も増えています。
ここで医療従事者に求められるのは、正確な情報をわかりやすく伝えるコミュニケーション力です。「シンバイオティクスはプロバイオティクスとプレバイオティクスの組み合わせです」という知識を持つことと、それを患者に伝えることは別の技術です。
患者に説明する際は、次のような言い換えが有効です。「腸内の善玉菌を増やす菌(プロバイオティクス)と、その菌のエサになるもの(プレバイオティクス)を一緒に摂ると、より効果的に腸内環境が整いやすいです。それがシンバイオティクスです」というように、専門用語を使わずに説明することで患者の理解と納得を促せます。
腸内環境の改善は時間がかかります。プロバイオティクスの摂取開始から効果が安定して現れるまでに、一般的に数週間から1〜2ヶ月程度かかるとされています。患者が「1週間飲んで変わらないからやめた」という状況を防ぐためにも、期待値の管理が医療従事者の重要な役割です。
また、シンバイオティクスはあくまでも腸内環境の維持・改善を補助するものであり、疾患の治療を置き換えるものではないという点も明確に伝えることが必要です。特に消化器疾患の既往がある患者に対しては、主治医と連携した上での情報提供が基本になります。
継続的な摂取が条件です。効果的な腸内環境の維持には、一時的な摂取よりも食生活全体のバランス(食物繊維の摂取量・水分摂取・運動習慣)との組み合わせが重要であることも、患者指導に盛り込みたい視点です。
シンバイオティクスの知識を持つ医療従事者が増えることで、患者への情報提供の質が高まり、不必要なサプリメントへの過剰支出や、反対に必要なサポートを受けられないケースの減少につながります。正確な理解が、医療の現場での信頼構築に直結します。
参考:日本栄養士会 腸内フローラと栄養管理に関する情報
公益社団法人 日本栄養士会 – 栄養管理・栄養指導に関する情報(腸内細菌・機能性食品の活用を含む)
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