DPP-4阻害薬を中止するだけで軽症例の2割近くが改善します。
水疱性類天疱瘡の治療選択には、まずBullous Pemphigoid Disease Area Index(BPDAI)による客観的な重症度評価が不可欠です。BPDAIは①皮膚におけるびらん・水疱、②皮膚における膨疹・紅斑、③粘膜におけるびらん・水疱の3項目に分けて評価します。
参考)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_19349
各項目は眼、鼻腔、頬粘膜など12の部位ごとに点数を算定し、それぞれ0~120点のスコアをつけます。最も高い項目の点数で重症度を判定するのが原則です。
参考)https://hokuto.app/calculator/8u2cCTSUhiFP6KPBth7P
軽症の水疱性類天疱瘡では、即座にステロイド内服を開始する必要はありません。ガイドラインは複数の治療選択肢を提示しており、患者の背景や病状に応じた柔軟な対応が求められます。
外用ステロイドとして、プロピオン酸クロベタゾール0.05%クリームの全身塗布が有効です。1日40gのクリームを塗布し12ヶ月かけて減量する方法と、より少量の1日10~30gを塗布し4ヶ月で減量する方法のいずれも有効かつ安全とされています。
代替療法として、テトラサイクリン500~2,000mg/日またはミノサイクリン100~200mg/日とニコチン酸アミド500~2,000mg/日の併用があります。ただし、これらは水疱性類天疱瘡に対して保険適用外の処方となる点に注意が必要です。抗炎症性抗菌薬のドキシサイクリン200mg/日も、経口ステロイドと比較して許容可能な短期的コントロールが得られ、長期的な安全性に優れています。
DPP-4阻害薬関連の水疱性類天疱瘡では、「まず薬剤中止」が基本方針です。2023年補遺版のガイドラインでは、DPP-4阻害薬関連の水疱性類天疱瘡は、DPP-4阻害薬の中止だけで軽症~中等症の約17.6%が軽快すると示されています。
このため、この病気を疑う場合は、DPP-4阻害薬の中止が差し支えない症例では中止、あるいは他系統の薬剤への変更を行います。変更後に自然に治癒する症例も存在しますが、全例が薬剤中止・変更だけで治るわけではありません。
少し様子を見ても改善しない、あるいは悪化していく症例では、通常の水疱性類天疱瘡に準じた治療を開始します。DPP-4阻害薬関連症例では、紅斑の少ない「非炎症型」が約70%を占め、血中の自己抗体や好酸球数が少ないという特徴があります。発症機序や病態が通常の水疱性類天疱瘡と異なる可能性があるため、より負担の少ない治療選択が期待されています。
参考)https://shimoyama-naika.com/diabetes/pemphigoid/
日本皮膚科学会が公開している類天疱瘡診療ガイドライン補遺版には、DPP-4阻害薬関連症例の詳細な対応指針が記載されています。
日本皮膚科学会「類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン補遺版」
中等症~重症の水疱性類天疱瘡では、中等量~高用量のステロイド内服が治療の主体となります。プレドニゾロン換算で0.5~1.0mg/kg/日が標準的な投与量です。
参考)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_19349
具体的には、体重60kgの患者であればプレドニゾロン30~60mg/日となり、プレドニン5mg錠で6~12錠/日に相当します。経口プレドニゾロンは0.5mg/kg/日の用量で、ほとんどの症例を十分にコントロールでき、高用量の経口ステロイドと比較して有害作用が軽減されます。これだけ覚えておけばOKです。
水疱や紅斑の新生がみられなくなれば徐々に減量し、0.1mg/kg/日以下を目標に減量します。最終的に内服を中止できる例も多いです。
参考)類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む。)(指定難病162) &#…
重症例や治療抵抗例では、追加治療が必要になります。アザチオプリンなどの免疫抑制薬をステロイド減量目的で併用しますが、水疱性類天疱瘡への適用は保険外となります。ステロイドパルス療法、免疫グロブリン大量静注(IVIG)療法、血漿交換療法などの選択肢があり、いずれも保険適用です。
ステロイド治療に抵抗性を示す症例や、ステロイド減量が困難な症例では、免疫抑制薬の併用が検討されます。アザチオプリンは最も頻繁に選択される免疫抑制薬ですが、水疱性類天疱瘡に対する保険適用はなく、適応外使用となる点に注意が必要です。
ステロイドパルス療法は、迅速な寛解導入が必要な重症例に対して実施されます。高用量のステロイドを静脈内投与することで、短期間で症状をコントロールします。厳しいところですね。
血漿交換療法は、急速に悪化する例や難治例に対して選択される治療法です。太い血管にカテーテルを挿入して行う透析のような治療で、血中の自己抗体を物理的に除去します。
参考)水疱性類天疱瘡
免疫グロブリン大量静注(IVIG)療法も、重症例や難治例に対する治療選択肢の一つです。これらの追加治療はいずれも保険適用があり、通常のステロイド治療で効果が不十分な場合に段階的に導入されます。
参考)水疱性類天疱瘡
天疱瘡・類天疱瘡の患者向け情報として、日本血液製剤機構が免疫グロブリン療法に関する詳細な解説を提供しています。
日本血液製剤機構「免疫グロブリン療法を受ける患者さんとご家族へ」
類天疱瘡診療ガイドラインは、「治療選択を強制するものではなく、医師の裁量を制限するものでもない」と明記しています。患者個々の背景、特に年齢・基礎疾患・服薬中の他剤に配慮した柔軟な対応が求められるのが原則です。
高齢者の限局性症例では、外用療法のみで十分にコントロールできる例も存在します。特に男性の高齢者例では、限局性水疱性類天疱瘡と同様に外用のみで管理可能な症例があります。
参考)水疱性類天疱瘡のステロイド療法に関する2,3の考察 (臨床皮…
低蛋白血症を伴う例では、ステロイド内服に際して重篤な結核を併発する危険があり、INAHの併用が望ましいとされています。このような合併症リスクを考慮した予防的介入も、個別化医療の重要な要素です。
参考)水疱性類天疱瘡のステロイド療法に関する2,3の考察 (臨床皮…
水疱性類天疱瘡の治療では、重症度評価と患者背景の両面から総合的に判断し、最適な治療戦略を選択することが求められます。ガイドラインは標準的な指針を示しつつも、臨床現場での判断の自由度を保持しており、エビデンスと臨床経験を統合した診療が可能です。
日本皮膚科学会が提供する類天疱瘡の診断と治療に関する包括的なガイドラインは、診療の質を向上させるための重要なリソースです。