看護師の85%が何らかの手荒れを経験しているのに、正しいケアで防げる割合は3割にも満たない。
医療現場では長年「保湿さえすれば皮膚トラブルは防げる」という認識が根付いてきました。しかし大学の最新スキンケア研究は、そこに明確な「条件」が存在することを示しています。
岡山大学は2025年9月、アルケア株式会社との共同研究として、皮膚バリア機能の中核指標である「経皮水分蒸散量(TEWL)」を、従来の15分以上かかる測定から、わずか5秒で推定できる計算モデルの開発を発表しました(Journal of Medical and Biological Engineering, Vol.45, 2025)。これは「電気の流れにくさ(電気抵抗)」と「電気の溜まりやすさ(電気容量)」という2つの電気的特性を組み合わせた手法です。この革新的な手法により、臨床現場でも皮膚バリア機能の定量的評価が現実的になります。
アルケア株式会社・岡山大学共同研究:皮膚バリア機能を5秒で数値化する計算モデル開発の詳細(2025年12月)
これは医療従事者にとって非常に重要な意味を持ちます。これまで皮膚の乾燥状態を「目で見て」「触って」確認してきたケアが、近い将来に客観的な数値で評価できるようになるのです。
一方、花王と帝京科学大学の共同研究(2025年6月)では、皮膚疾患のない敏感肌の方において、セラミドの特定種(セラミドNS・セラミドNP)のバランスが崩れていることで、角層細胞間脂質のパッキング構造が乱れ、バリア機能の低下につながることが新たに明らかになりました。つまり「保湿をしている」という行為だけでは不十分で、成分の種類まで考慮することが必要ということです。
花王・帝京科学大学共同研究:敏感肌のセラミドプロファイルと角層構造の変化に関する研究(2025年6月)
つまり「保湿=バリア維持」は必要条件に過ぎず、十分条件ではありません。これが基本です。
医療従事者における手荒れは、単なる美容問題ではなく職業的健康リスクです。金沢大学の調査では、看護師の91%に手荒れが認められています。また米国の調査では、看護師の85%が何らかの皮膚トラブルを経験しているとも報告されています。深刻ですね。
なぜ医療従事者はこれほど手荒れが多いのでしょうか?主要な原因は3つあります。
| 原因 | 詳細 |
|------|------|
| 頻回な手洗い | 1日に数十回の手洗いで皮脂・天然保湿因子(NMF)が流出する |
| アルコール手指消毒 | エタノールによる脂質溶解でバリア機能が急低下する |
| ハンドケア不足 | 消毒後の保湿習慣が徹底されていない現場が多い |
名古屋大学医学部附属病院では、医療従事者(看護師)を対象に「手荒れ予防・改善に役立つ皮膚外用剤(ハンドクリーム)の規格決定に関する研究」を実施しました。この研究では、市場に流通するほとんどのハンドクリームが「一般的な使用」を前提に規格されており、医療従事者が必要とする機能性とは乖離があることが指摘されています。つまり一般市販のハンドクリームは医療現場の手荒れに最適化されていないのです。
名古屋大学医学部附属病院:医療従事者の手荒れ予防に関する研究(倫理審査承認済み研究)
この現状を踏まえると、医療従事者が取るべきケアの方向性は明確です。アルコール消毒のたびに保湿剤を補うこと、そして「医療従事者向けに開発された」バリア機能補強型の製品を選ぶことが有効です。一般の美容用ハンドクリームとは別に、業務用途に設計された製品の活用を検討できます。手洗い後とアルコール消毒後の保湿が原則です。
「セラミド」という言葉は多くの医療従事者にも馴染みがあるでしょう。しかし、セラミドには実に12種類以上の分子種が存在することは意外と知られていません。これは驚きですね。
生化学的な観点から見ると、セラミドの中でも特に「アシルセラミド」と「結合型セラミド」が皮膚バリア形成に不可欠な役割を果たしています(日本生化学会誌掲載論文, 2024)。皮膚の角層は例えるなら「煉瓦とモルタル」の構造で、角層細胞(煉瓦)の間を埋めるモルタル部分が細胞間脂質であり、その主成分がセラミドです。このモルタルが崩れると、水分が逃げ放題になり、外部刺激も入り放題になります。
日本生化学会:セラミドによる皮膚バリア形成の詳細メカニズム(学術論文)
では「ヒト型セラミド」配合化粧品はどの程度有効なのでしょうか?
重要な点は、市販のセラミド配合化粧品でも「植物性セラミド」「合成セラミド(擬似セラミド)」「ヒト型セラミド」などでは、構造や皮膚への適合性が大きく異なるという事実です。皮膚科学的に最も皮膚本来のセラミドに近く、細胞間脂質に組み込まれやすいとされるのはヒト型セラミドです。医療従事者が患者へのスキンケア指導を行う際には、この「セラミドの種類の違い」を念頭に置くことで、より適切な製品選択の提案が可能になります。セラミドの種類が条件です。
医療従事者が患者指導でよく伝える保湿ケアについて、いくつかの「見直し」が研究から提示されています。
🔹 「毎日の保湿でアトピー予防」は万能ではない
国立成育医療研究センターは2014年に「生後直後からの保湿でアトピー発症率が約30%低下する」という画期的な研究結果を発表しました。一方で、英国ノッティンガム大学が実施したBEEP試験(2022年発表)では、家族歴のあるハイリスク新生児に対し生後1年間保湿剤を毎日塗布しても、アトピー性皮膚炎への予防効果は認められなかったという逆の結果が出ました。
ケアネット:ノッティンガム大学BEEP試験「赤ちゃんへの毎日の保湿剤、アトピー性皮膚炎を予防しない」(2022年)
これはどういうことでしょうか?現時点では「保湿が有効なケースと有効でないケースの条件整理」が進んでいる段階と理解するのが適切です。保湿のタイミング・製品の種類・対象者の皮膚タイプによって効果は変わることを示しています。一方的に「保湿すれば予防になる」と患者指導することには、科学的に慎重であるべきです。
🔹 「水分補給=化粧水」は皮膚科学的に再検討が必要
東洋経済の専門記事(皮膚科学専門医監修)でも指摘されているように、化粧水で「水分を一時的に与える」ことでセラミドの働きが乱れる可能性が示唆されています。角質層が水分十分と誤認し、セラミドの産生が抑制されるというメカニズムが考えられているのです。皮膚科学的な基礎を持つ医療従事者が患者や同僚に対してスキンケアを語る際、こうした研究知見を踏まえた情報提供が求められます。
🔹 「83.7%の敏感肌は保湿をしているのにうるおいが持続しない」
PR TIMES(2025年9月)の調査では、「保湿効果を最重視している敏感肌の人のうち83.7%が、保湿ケアをしてもうるおいが持続しない」という結果が出ています。これは製品選択の問題である可能性が高く、成分・処方・使用手順の正確な理解が不可欠であることを示しています。「保湿している」ではなく「正しく保湿している」が大事です。
2025年以降、大学のスキンケア研究分野で急速に注目度が高まっているのが「皮膚マイクロバイオーム(皮膚常在菌叢)」の研究です。これは医療従事者にとっても知っておくべき知識です。
皮膚の表面には細菌・真菌などの微生物が数百種類以上常在しています。健常皮膚のマイクロバイオームは「天然のバリア」として機能しており、外来病原体の定着を阻止し、皮膚を弱酸性(pH4.5〜5.5程度)に保つ役割を担っています。
藤田医科大学の研究では、ニキビ(痤瘡)患者の皮膚において、細菌・真菌の菌叢解析を実施した結果、皮膚表面と毛孔内部でマイクロバイオームの組成が大きく異なることが判明しました。これはニキビ治療のアプローチに対して新たな視点を提供するものです。
藤田医科大学:ニキビにおける皮膚菌叢解析の研究成果(皮膚科学分野での上位掲載)
では、医療従事者の手指消毒はマイクロバイオームにどう影響するのでしょうか?アルコール手指消毒を頻回に使用すると、病原体だけでなく有益な常在菌も除去され、マイクロバイオームの多様性が低下します。これが慢性的な手荒れや接触性皮膚炎の一因とも考えられています。これは見落とされがちな観点です。
マイクロバイオームの観点から見た場合の対策として、プロバイオティクスやポストバイオティクスを含む製品が注目されています。皮膚常在菌(特に表皮ブドウ球菌)の正常化を支援する成分が配合されたスキンケアは、手指消毒後の皮膚環境の回復を助ける可能性があります。「常在菌の保護」という視点が今後のケアの基準になるかもしれません。マイクロバイオームが次の鍵です。
大学のスキンケア研究が臨床現場に普及するためには、「研究成果の情報をどう医療従事者が受け取り、活用するか」という教育的側面が重要になります。これは独自の視点です。
現状では、医療従事者向けのスキンケア教育は皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCナース)など専門資格保有者が担うことが多く、一般の看護師や医療スタッフには十分な情報が届いていないケースがあります。東京工科大学の応用生物学部化粧品コースは「肌や美しさ、化粧品について科学的な視点から学ぶ日本で唯一のコース」として知られていますが、こうした知識は医療系の大学カリキュラムには現状ほとんど組み込まれていません。
東京工科大学応用生物学部化粧品コース:化粧品・皮膚科学の学術的アプローチの概要
一方、島根大学医学部は患者向けに「アトピー素因や乾燥肌には徹底した保湿で皮膚のバリアを保つことが重要」というコラムを公開し、医師・看護師などの医療従事者が患者の皮膚ケア指導を行う上での一般的ガイダンスを提供しています。これはいいことですね。
島根大学医学部附属病院:医師・看護師向けの保湿と皮膚バリアに関する患者指導コラム
今後、大学発の皮膚科学研究が医療従事者の標準教育に統合されていくことで、より多くの患者が科学的根拠に基づいたスキンケア指導を受けられるようになることが期待されます。医療従事者自身が「研究の最前線」をキャッチアップすることが、そのための最初の一歩です。皮膚科学の知識のアップデートが大切です。
具体的な学習リソースとしては、日本香粧品学会の年次教育セミナーや、日本皮膚科学会のガイドラインが信頼できる情報源として挙げられます。メールマガジンやウェブサイトで最新情報を定期的に確認する習慣が役立ちます。研究の最新情報を追うことが医療の質向上につながります。

【ドクターズコスメ】 イースペシャル ベーシックケアライン 大人のゆらぎ肌 セット 3点 ( クレンジング & 化粧水 & クリーム) [美容皮膚科医開発] スキンケアセット ギフト 保湿 乾燥 低刺激 敏感肌 ドクターエリ dr.eri 国内生産