PHNにはNSAIDsがよく効く、と思っていませんか?実は、NSAIDsとアセトアミノフェンはPHNに対して「無効」とガイドラインに明記されています。
帯状疱疹後神経痛(postherpetic neuralgia:PHN)は、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化後、皮疹が治癒した後も痛みが持続する神経障害性疼痛です。日本ペインクリニック学会のペインクリニック治療指針では、PHNの発症後の期間による定義に一定の根拠はなく、発症後1か月・3か月・4か月・6か月とする複数の報告があります。現在は「帯状疱疹発症後90〜120日以上経過しても痛みが続く場合」をPHNと定義するケースが多く、VAS値40(0〜100mm表記)以上の強い痛みを基準とする場合もあります。
PHNの痛みの性質は一様ではありません。持続する灼熱痛、発作性の電撃痛、そして軽微な刺激(衣服の摩擦や冷風など)によって増強するアロディニアが三大症状とされています。アロディニアは健常な皮膚触覚刺激でも激痛を引き起こすため、日常生活の著しい障害につながります。これが難治性と言われる理由です。
病理学的には皮膚から脊髄に至るまでの末梢神経および中枢神経が広範に障害されており、神経細胞の消失と神経線維の脱髄が確認されています。侵害受容性疼痛とは本質的に異なる「神経障害性疼痛」であるため、通常の鎮痛剤では対応できないことを、担当医療者は常に意識する必要があります。つまり、PHNの病態は「炎症ではなく神経損傷」が原則です。
| 年齢層 | PHN移行率の目安 |
|---|---|
| 50歳以上(全体) | 約20% |
| 60〜65歳 | 約20% |
| 70歳以上 | 18.5%以上(一部研究では急上昇) |
| 80歳以上 | 約30% |
PHNのリスク因子として、高齢・急性期の強い痛み・皮疹の重症度・前駆痛の存在・免疫抑制療法・喫煙などが挙げられます(2025年のメタ解析結果より)。
参考:日本ペインクリニック学会 ペインクリニック治療指針(帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛)
https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/pdf/shi-guide06_12.pdf
帯状疱疹後神経痛の薬物療法は、日本ペインクリニック学会の「神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン」に基づいて行われます。まず強調すべきことは、NSAIDsとアセトアミノフェンはPHNに対して無効とガイドラインに明記されている点です。また、NMDA受容体拮抗薬も無効とされており、これらを漫然と処方し続けるのは適切ではありません。
ガイドラインが定める第一選択薬は以下の通りです。
ミロガバリン(タリージェ®)は、プレガバリンと同じカルシウムチャネルα2δ-1サブユニット結合薬ですが、α2δ-1サブユニットへの選択性がより高い特徴を持ちます。2019年に国内で承認され、糖尿病性末梢神経障害性疼痛とPHNを対象とした臨床試験でも有効性が確認されています。眠気やめまいなどの副作用プロファイルについてはプレガバリンと比較研究が進んでいる段階であり、患者背景に応じた選択が求められます。
第二選択薬としては、SNRIであるデュロキセチン(三環系抗うつ薬が無効または副作用が強い場合)が位置づけられています。SSRIは三環系抗うつ薬より効果が劣るとされており、PHNへの積極的な使用は推奨されていません。これは意外な事実です。
オピオイド(モルヒネ NNT:2.8、オキシコドン NNT:2.5、トラマドール NNT:4.8、フェンタニルパッチ)はPHNに対して効果が認められているものの、長期投与の安全性と依存リスクから「第三選択」に位置づけられています。痛み治療専門医への紹介を検討の上、治療目標を設定してモニタリングすることが推奨されます。
また、国際的なガイドラインではリドカインパッチが安全性の観点から第一選択に位置づけられていますが、本邦では未発売のため現時点で使用できません。バルプロ酸ナトリウムやカルバマゼピンは、PHNには推奨されていない点も注意が必要です。オピオイドは第三選択が原則です。
参考:日本ペインクリニック学会 ペインクリニック治療指針 改訂第6版(帯状疱疹後神経痛 薬物療法)
https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/pdf/shi-guide06_12.pdf
神経ブロック療法はPHN治療において補助的な役割を担いますが、そのエビデンスレベルは薬物療法ほど高くはありません。日本ペインクリニック学会の指針では、「帯状疱疹後神経痛に対する神経ブロックの効果を示す報告は少ない」と明記されており、他治療で効果が乏しく、かつ過去に神経ブロックを受けたことがない症例に対しては、経験豊富な専門医のもとで試みる価値があるとされています。
急性期(発症から2週間〜1か月以内)においては話が異なります。急性期の強い痛みは、それ自体がPHN移行の危険因子であるため、硬膜外ブロックや傍脊椎神経ブロックを積極的に施行することが推奨されています。実際に、傍脊椎神経ブロック(局所麻酔薬+ステロイド薬)の単回投与でも、6か月後のPHN発症を有意に減少させたという質の高い報告があります。急性期の神経ブロックは、PHN予防の観点から重要です。
PHN期に適用される神経ブロックの候補としては、硬膜外ブロック、傍脊椎神経ブロック、神経根ブロック、各種末梢神経ブロック(肋間神経ブロック、三叉神経ブロックなど)が挙げられます。また、難治性のPHNに対してはパルス高周波法(pulsed RF)や脊髄電気刺激療法(SCS)の適用が検討されることがあります。SCSは発症から1年以内の早期症例に有効性が認められるという報告があります。
一方で、交感神経ブロックについては注意が必要です。歴史的に広く行われてきた手技ではありますが、PHNに対しては「交感神経ブロックは避ける」という報告もあり、急性期と慢性期で評価が異なります。交感神経ブロックの適用はケースバイケースです。
神経ブロックを施行する際は、抗凝固薬使用・免疫抑制状態・認知障害・全身状態不良といった条件を事前に確認することが安全管理の基本です。超音波ガイド下またはX線透視下での正確な手技が強く推奨されており、経験の少ない医師が単独で施行することは避けるべきです。
PHNの患者は高齢者が多く、薬物療法においても副作用のリスク管理が必須となります。特に三環系抗うつ薬の使用には慎重な姿勢が求められます。三環系抗うつ薬は大腿骨骨折や認知障害のリスクを増加させる可能性があり、心疾患・てんかん・緑内障を合併している患者には使用が制限されます。高齢者にはノルトリプチリンが推奨です。
プレガバリンやミロガバリン(タリージェ®)は腎排泄型であり、腎機能障害がある高齢者では用量調整が不可欠です。プレガバリンのめまい・傾眠・歩行困難といった副作用は、転倒・骨折リスクを直接高めます。骨折は高齢者の生命予後に直結するため、軽視できません。少量(25〜50mg/日)から開始し、効果と副作用のバランスを慎重に評価しながら漸増するアプローチが安全です。
オピオイドについても、高齢PHN患者では悪心・眠気・便秘・尿閉といった副作用が出やすく、少量から開始してモニタリングを強化することが重要です。また、PHN罹患患者の内服薬の添付文書には「自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意すること」という記載があるため、患者への説明とカルテへの記録も忘れずに行う必要があります。これは法的・倫理的な観点からも必須の対応です。
さらに、独居・介護力不足など外来通院が困難な場合は、入院での治療を積極的に検討します。認知症やうつ病、せん妄を合併している患者では、薬物選択や用量設定がさらに複雑になるため、多職種連携でのアプローチが有効です。PHNの治療は「薬の選択」だけでなく、「患者の生活環境」も含めた包括的アセスメントが条件です。
| 薬剤 | 高齢者での注意点 |
|---|---|
| アミトリプチリン | 骨折・認知障害リスク↑、心疾患・緑内障に禁忌 |
| ノルトリプチリン | アミトリプチリンより副作用少なく高齢者に推奨 |
| プレガバリン | 腎機能に応じた用量調整必須、転倒リスク↑ |
| ミロガバリン(タリージェ®) | 同上、漸増時の眠気・めまいに注意 |
| オピオイド | 悪心・眠気・便秘多発、少量から開始 |
PHNの治療において最も重要な原則は、「慢性化させない」ことです。そのためには急性期介入のタイミングが決定的な意味を持ちます。ガイドラインでは発症後72時間以内(遅くとも5日以内)の抗ウイルス薬全身投与を推奨度Aとして強く推奨しています。抗ウイルス薬はVZVによる神経損傷を抑制し、急性期の痛みと皮疹の回復を早めます。72時間以内の投与が基本です。
ただし、重要な注意点があります。コクランレビューをはじめとする複数の研究で「抗ウイルス薬はPHNへの移行を完全に予防することはできない」という結論が出ています。特にアシクロビルについては、急性症状への効果はあるものの、PHN予防効果はないとされています。バラシクロビルやファンシクロビルがPHNを予防するかどうかについても、現時点ではエビデンスが十分ではありません。
一方、経口ステロイド薬と抗ウイルス薬の併用は急性痛の軽減と日常生活への早期復帰を助けるという報告があります。しかし、ステロイド薬単独では「PHNの発症を予防できない」という質の高いエビデンス(Cochrane, G1)があり、あくまで急性期の症状管理を目的とした補助的使用に限定されます。
PHN予防で最も期待されているのは、ワクチン接種です。日本皮膚科学会「帯状疱疹診療ガイドライン2025」によると、米国の大規模研究(38,546人、平均3.1年追跡)で、水痘帯状疱疹生ワクチンにより帯状疱疹後神経痛の発症を約1/3に減少できたことが報告されています。本邦では2020年からサブユニットワクチン(シングリックス®)が使用可能となっており、より高い予防効果が期待されています。現行ガイドラインでは50歳以上への接種推奨が基本です。
急性期に見落とされがちな「積極的鎮痛」の重要性も強調されています。急性期の強い痛み自体がPHN移行の独立したリスク因子であるため、痛みを放置せずNSAIDs→オピオイド・プレガバリンへの早期エスカレーションを行うことが、結果的にPHN予防につながる可能性があります。早期からのプレガバリン投与でPHN発症率が減少したという後ろ向き研究もあり、実臨床では急性期からのプレガバリン早期導入を検討する価値があります。
参考:日本皮膚科学会 帯状疱疹診療ガイドライン2025(PHN予防・ワクチンに関する記述を含む)
https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/Taijouhoushin2025.pdf
参考:J-Stage 帯状疱疹診療ガイドライン2025(日本皮膚科学会雑誌掲載版)
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