感染病巣を放置したまま生物学的製剤を始めると治癒の機会を失います。
掌蹠膿疱症(palmoplantar pustulosis:PPP)は、手掌・足底に無菌性膿疱を繰り返す慢性炎症性疾患です。厚生労働省のレセプトデータでは国内に約14万人の患者が存在すると推計されており、罹患率は0.12〜0.14%とされています。中年女性に多く、喫煙率が高い点も特徴です。
QOLへの影響は侮れません。手のひら・足の裏という体重負荷がかかる部位に病変が生じるため、ステロイド外用の長期使用で皮膚萎縮が生じたり、亀裂による疼痛で日常動作が著しく障害されます。つまり「面積が狭い=軽症」ではないということですね。
PPPの病態形成にはIL-23/IL-17軸が中心的な役割を果たすことが明らかになっています。病変部の皮膚では、IL-17A、IL-17C、IL-17FのmRNA発現が健常皮膚と比較して顕著に亢進しており、Th17細胞からのIL-17産生を促進するIL-23が上流で炎症を駆動しています。
この免疫学的な知見が、IL-23およびIL-17シグナルを標的とする生物学的製剤の開発・承認へとつながりました。生物学的製剤が適応となるのは「外用療法・光線療法・内服薬など既存治療で効果不十分な症例」に限定されます。すべての患者に最初から使用するものではなく、ステップアップの終着点として位置づけるのが原則です。
10〜30%の患者では、胸鎖関節・胸肋関節などを中心とした骨関節炎(PAO:pustulotic arthro-osteitis)を合併します。大学病院ではPPP患者の約30%にPAOが確認されるとも報告されており、重症化すると器質的損傷が残るため早期の介入が重要です。生物学的製剤はPAOへの効果も期待されていますが、PAOに対しては保険承認がなく、TNF阻害薬を含め適応外使用の議論が続いています。
参考リンク(日本皮膚科学会 掌蹠膿疱症診療の手引き2022:PPPの病態・診断・治療方針の詳細が記載されています)
現在、PPPに対して厚生労働省が承認している生物学的製剤は以下の3剤です。それぞれ作用機序・投与タイミングが異なります。
| 薬剤名(一般名) | 標的 | 投与方法 | PPP承認年 | 維持期投与間隔 |
|---|---|---|---|---|
| <strong>トレムフィア® (グセルクマブ) |
抗IL-23p19 モノクローナル抗体 |
皮下注射 100mg |
2018年(PPP初承認) | 8週ごと(初回・4週後・以降8週ごと) |
| スキリージ® (リサンキズマブ) |
抗IL-23p19 モノクローナル抗体 |
皮下注射 150mg(75mg×2本) |
2022年(PPP承認) | 16週ごと(0・4週後・以降16週ごと) |
| ルミセフ® (ブロダルマブ) |
抗IL-17受容体A モノクローナル抗体 |
皮下注射 210mg |
2023年8月(PPP承認) | 2週ごと(初回・1週後・2週後・以降2週ごと) |
🔬 各薬剤の作用機序の違い
トレムフィアとスキリージはいずれもIL-23のp19サブユニットを標的とした抗体製剤です。IL-23を上流でブロックすることで、Th17細胞からのIL-17産生を間接的に抑制します。これに対し、ルミセフはIL-17受容体A(IL-17RA)に直接結合し、IL-17AだけでなくIL-17F、IL-17A/Fヘテロダイマーのシグナル伝達をすべてブロックします。つまり、IL-17軸のより下流・広範な遮断という点でルミセフは独自の位置づけです。
投与間隔が最も長いのはスキリージ(維持期16週)です。維持期の通院負担が最も少ない薬剤といえます。一方、ルミセフは2週間ごとの投与が必要であり、患者の自己注射の習熟度や通院環境を考慮して選択することが求められます。
⚠️ ルミセフの安全性上の注意点
ルミセフ(ブロダルマブ)は自殺念慮・自殺行動の報告があることから、リスク管理計画(RMP)に基づく適正使用が求められます。重篤な精神疾患の既往を有する患者への使用には慎重な判断が必要です。この点はトレムフィアやスキリージとは異なる安全性プロファイルであり、処方前に必ず確認が必要です。
参考リンク(ルミセフ掌蹠膿疱症の安全性情報:投与前チェックリストや患者説明資材の確認に役立ちます)
協和キリン「ルミセフ 掌蹠膿疱症を使用される方へ」公式サイト
生物学的製剤の導入前に、感染病巣の有無を評価することが原則です。これは日本皮膚科学会の手引き2022でも明示されており、「感染病巣がある場合、それを放置した状態で生物学的製剤や免疫抑制剤を投与することは問題がある」と記載されています。
日本人のPPP患者の3/4以上で、病巣感染が発症の契機になっているとされています。代表的な感染病巣は以下のとおりです。
病巣感染の見落としは治療機会の損失につながります。特に歯性病巣は無症状のことが多く、患者自身が「虫歯はない」と思っていても根尖病巣が存在するケースがあります。オルソパントモグラフィーによるX線評価や、歯科医による歯周ポケット計測を依頼することが推奨されます。
注意しなければならないのは、病巣治療後すぐに皮疹が改善するわけではないという点です。病巣除去後、皮膚・関節症状の寛解まで1〜2年を要することが一般的で、術後1〜2週で変化が見られないからといって「効果なし」と判断するのは早計です。この経過を医師・患者の双方が理解していないと、不必要な段階で生物学的製剤に移行してしまうリスクがあります。
病巣除去を先行させ、それでも症状が持続する難治例に対して生物学的製剤を適用するのが原則です。
参考リンク(掌蹠膿疱症の治療における病巣感染の役割について詳しく解説されています)
掌蹠膿疱症コミュニティ「治療法について」(医療従事者も参照できる情報量)
2025年3月、PDE4阻害薬であるオテズラ錠(アプレミラスト)が「局所療法で効果不十分な掌蹠膿疱症」に対して適応追加承認を取得しました。これはPPP治療の選択肢を大きく広げるものです。これは使えそうですね。
オテズラは生物学的製剤ではなく低分子化合物(小分子薬)に分類されます。PDE4(ホスホジエステラーゼ4)を阻害することで細胞内cAMP濃度を上昇させ、TNF-α、IL-17、IL-23などの炎症性サイトカイン産生を抑制します。経口投与(1日2回内服)であることが最大の特徴です。
生物学的製剤3剤とオテズラの主な違いを整理しましょう。
| 項目 | 生物学的製剤 (トレムフィア・スキリージ・ルミセフ) |
オテズラ (アプレミラスト) |
|---|---|---|
| 薬剤分類 | 生物学的製剤(注射剤) | PDE4阻害薬(経口薬) |
| 投与方法 | 皮下注射(自己注射または院内) | 内服(1日2回) |
| 適応条件 | 既存治療で効果不十分 | 局所療法で効果不十分 |
| 処方施設 | 生物学的製剤使用承認施設のみ | 一般皮膚科クリニックでも可 |
| 患者負担(3割) | 毎月数万円〜(高額療養費制度対象) | 月約16,632円(高額療養費対象外になる場合も) |
| 主な副作用 | 感染症リスク増加(結核・帯状疱疹等) | 消化器症状(悪心・下痢)、頭痛 |
生物学的製剤の薬剤費は月数万円規模になるため、多くの患者で高額療養費制度の対象となります。一方、オテズラは3割負担で月約16,632円程度(薬剤費のみ)となり、高額療養費の適用外になるケースもある点に注意が必要です。とはいえ、感染症スクリーニングや定期採血が不要な点、一般クリニックで処方できる点は患者・医師双方の負担軽減になります。
オテズラと生物学的製剤のどちらを選択するかは、病巣感染の有無、合併症、患者の通院環境、希望などを総合的に判断します。生物学的製剤は高い有効性が期待できる一方、投与前の結核スクリーニング・B型肝炎ウイルスマーカーの確認など、安全性チェックが必須です。
参考リンク(2025年3月のオテズラ掌蹠膿疱症適応追加承認の詳細について確認できます)
アムジェン「オテズラ掌蹠膿疱症適応追加について」(医療従事者向け)
生物学的製剤は強力な免疫調節作用を持つため、投与前の適切なスクリーニングと投与後の継続的なモニタリングが不可欠です。これが基本です。
📋 導入前に確認すべき主な検査・評価項目
📊 投与後のモニタリング
生物学的製剤投与後は定期的な採血による感染症・肝機能・血算のチェックが必要です。また、PPP特有の重症度評価にはPPPASI(Palmoplantar Pustulosis Area and Severity Index)が用いられており、治療効果の客観的指標として活用します。
生物学的製剤は有効性が高い一方で、感染症(特に上気道感染、肺炎、帯状疱疹)のリスクが上昇することが知られています。投与中に発熱・咳嗽・倦怠感などの感染症状が現れた場合は、速やかに評価・対応する体制を整えておくことが求められます。
投与後6〜12週での効果判定が目安です。3剤ともに臨床試験では16〜24週時点での有意な皮疹改善が確認されていますが、効果発現まで時間を要することを患者に事前に説明し、早期中断を防ぐことも重要な関わりです。
なお、生物学的製剤の使用は原則として「生物学的製剤使用承認施設」に限定されるため、処方環境の整備・施設認定の有無を確認しておくことが前提になります。
参考リンク(Mindsガイドラインライブラリ:掌蹠膿疱症診療の手引き2022の位置づけと内容を確認できます)
Mindsガイドラインライブラリ「掌蹠膿疱症診療の手引き2022」
PAOを合併するPPP患者への生物学的製剤の選択は、皮膚症状単独のケースとは考え方が異なります。意外ですね。
PPPに対して承認を持つ3剤(トレムフィア・スキリージ・ルミセフ)は、いずれも現時点でPAOそのものへの保険承認は取得していません。PAOに対しては、海外ではNSAIDsが無効なケースにTNF阻害薬(インフリキシマブ・アダリムマブ等)を二次治療として適応外使用する例が報告されており、TNF阻害薬が骨病変・皮膚病変の双方に有効とするエビデンスが蓄積されつつあります。
一方、2025年に発表された症例報告では、ビメキズマブ(IL-17A/F二重阻害薬)でPAOの治療に成功したケースも報告されており、IL-17阻害系の製剤がPAOに対しても有望である可能性が示唆されています。現在、ルミセフ(ブロダルマブ)はIL-17RAに結合し、IL-17AとIL-17Fの両方のシグナルをブロックするため、PAO合併例において理論的に有効性が期待される薬剤のひとつです。ただしエビデンスの蓄積はまだ途上であり、PAO合併患者に対する薬剤選択は個々の症例に即した慎重な判断が必要です。
PAO合併例の管理における実務上のポイント
PPP治療で生物学的製剤を導入する際、皮疹の改善だけでなく骨関節症状の経過も定期的に評価するプロセスを組み込むことが、長期的なQOL管理の観点から重要です。生物学的製剤の選択は皮疹重症度・PAO合併の有無・感染病巣の状況・患者背景を総合して判断するという姿勢が原則です。
参考リンク(PAOへの生物学的製剤の使用実態と最新の知見について確認できます)
掌蹠膿疱症コミュニティ「掌蹠膿疱症性骨関節炎の治療2019」