正しく使えば安全と思われがちな増粘剤ですが、適切な濃度管理を怠ると肺炎リスクが増加するという報告があります。
「とろみをしっかりつければ安全」という考え方は、医療・介護の現場に根強く残っています。しかし実際には、粘度が高すぎる食事は咽頭に残留しやすく、その残留物が誤嚥性肺炎の原因になり得ることが複数の研究で示されています。
日本摂食嚥下リハビリテーション学会の調査では、とろみ濃度が「濃いとろみ」レベルを超えると、嚥下後の咽頭残留量が「中間のとろみ」の約1.5〜2倍に増加することが報告されています。残留した液体はその後、夜間就寝時などに気道へ流れ込む可能性があり、誤嚥性肺炎の潜在的なリスク要因となります。
これは見落とされがちな事実です。
さらに、高粘度のとろみ剤は摂取量そのものを減少させるという問題もあります。食欲低下や飲水量の減少につながり、脱水症状や栄養不足を招くケースが臨床の場で報告されています。特に高齢患者や慢性疾患を持つ患者では、1日あたりの水分摂取量が推奨量(体重1kgあたり約30mL)を大きく下回るリスクが高くなります。
つまり「安全のために濃くする」という判断が、別のリスクを生み出すということです。
粘度の設定にあたっては、言語聴覚士(ST)による嚥下機能評価を経て、患者個人の嚥下能力に合った濃度を選択することが原則です。施設全体で一律の濃度を設定している場合は、定期的な評価と見直しの仕組みを導入することが推奨されます。
市販されている増粘剤には大きく分けて「デンプン系」「グアーガム系」「キサンタンガム系」の3種類があります。それぞれ粘度の安定性や唾液との反応性、温度変化への耐性が大きく異なります。この違いを理解せずに製品を選んでいると、意図しない濃度変化が生じ、患者に危険をもたらす可能性があります。
デンプン系の増粘剤は、温度が下がると粘度が上昇し、温かい状態で調製した際とはまったく異なるテクスチャーになりやすい特性があります。意外ですね。病院や施設で配膳に時間がかかる場合、患者が口にする時点では当初の設定より濃くなっているケースが珍しくありません。
一方、キサンタンガム系の増粘剤は温度変化に対して比較的安定しており、60℃〜常温の範囲で粘度変動が少ないとされています。ただし、唾液中のアミラーゼとの反応による粘度低下が生じにくい反面、口腔内での広がりが悪く、高齢者や口腔乾燥がある患者には使いにくいと感じられることがあります。
グアーガム系は消化管内でのゲル形成が強く、一部の患者では消化器症状(腹部膨満感・下痢など)を引き起こすことが指摘されています。特に過敏性腸症候群や炎症性腸疾患を持つ患者への使用には注意が必要です。
製品ごとの特性把握が条件です。
施設内で使用する増粘剤を選定・変更する際には、製品の添付文書だけでなく、各製品の「溶解時間」「温度安定性」「唾液との反応性」を確認したうえで、実際の使用環境(配膳時間・提供温度)に合わせた選択をすることが重要です。製品を変更した際には必ず再評価を行い、以前と同じ操作量でも粘度が変わる可能性があることをスタッフ間で共有してください。
日本では長らく「薄いとろみ・中間のとろみ・濃いとろみ」という3段階の分類(日本摂食嚥下リハビリテーション学会2013年基準)が使われてきました。しかし、2017年に国際的な嚥下食分類フレームワーク「IDDSI(International Dysphagia Diet Standardisation Initiative)」が公表され、世界的には0〜7の8段階による統一基準への移行が進んでいます。
問題になるのは、施設間や職種間での「とろみ」の基準が統一されていない状況です。例えば、自宅でキサンタンガム系の「中間のとろみ」を使用していた患者が入院した場合、病院側がデンプン系の「中間のとろみ」を提供すると、実際の粘度が大きく異なる可能性があります。これが嚥下機能に合わない食事形態の提供につながり、誤嚥リスクを高める原因になります。
これは施設をまたぐ連携の盲点です。
2023年時点で日本摂食嚥下リハビリテーション学会はIDDSIの活用を推奨しており、一部の急性期病院・回復期リハ病院・介護施設での導入事例も増えています。しかし普及率はまだ限定的であり、多くの施設では依然として旧来の3段階基準が使われています。
施設間連携を行う際には、退院サマリーや栄養指示書に「使用製品名・使用量・提供時の温度・粘度確認方法」を明記することが安全のために求められます。IDDSI基準の数値(フォークドレインテストや注射器テストなどの客観的計測)を併記することで、受け取り側の施設でも正確に再現できます。
IDDSIフレームワークの詳細については、国際公式サイトの日本語リソースを確認することができます。
IDDSI公式サイト(日本語翻訳リソース含む):嚥下食の国際分類基準と各言語対応資料
増粘剤の危険性として、薬剤の吸収に影響を与える可能性は医療従事者の間でも十分に認識されていないことがあります。特にグアーガムやキサンタンガムなどの多糖類系増粘剤は、腸管内での薬剤吸収を遅延・阻害する可能性が示されています。
具体的な事例として、血糖降下薬(メトホルミン・アカルボースなど)をとろみ剤入り飲料と同時に服用した場合、薬剤の吸収プロファイルが変化する可能性が複数の薬学論文で指摘されています。同様に、甲状腺ホルモン製剤(レボチロキシン)やワルファリンなど、吸収率の変化が治療効果に直接影響する薬剤については特別な注意が必要です。
薬剤管理は慎重に行うのが基本です。
また、一部の増粘剤に含まれる添加物(カラギーナンなど)が腸粘膜の炎症を促進する可能性を示す基礎研究も存在します。ただし、これらはおもにin vitro(試験管内)または動物実験での知見であり、通常の使用量では臨床的に問題になるレベルではないという意見もあります。現時点では確定的な結論は出ていませんが、過剰な長期使用についての注意は適切です。
服薬と増粘剤を組み合わせる場面では、薬剤師との連携が欠かせません。処方内容を確認したうえで、「どの増粘剤を」「どのタイミングで」「どの薬剤と一緒に用いるか」を明確にしておくことが安全管理の一環です。特に経口摂取が困難な患者に対して錠剤粉砕・懸濁液での投与を行う場合は、増粘剤との混合物性状が適切かどうかも確認してください。
日本静脈経腸栄養学会雑誌(J-STAGE):嚥下調整食・栄養管理に関する学術論文データベース
増粘剤を長期的に使用する患者において、脱水リスクが高まることは見過ごされがちな問題です。とろみのついた飲料は飲みにくく感じられるため、患者の飲水量が自然と減少するケースが多く報告されています。特に認知機能が低下した高齢患者では、口渇の自覚そのものが乏しいことも多く、知らないうちに慢性的な脱水状態になることがあります。
ある施設での内部調査では、とろみ食・とろみ飲料を継続使用している入院患者のうち、約40%が1日の飲水目標量(体重50kgの場合、約1,500mL)を下回っていたというデータが出ています。脱水は血液濃縮・腎機能低下・薬剤の過剰効果など、多くの二次的リスクを引き起こします。
これは深刻な問題です。
さらに、長期にわたってとろみ飲料に依存することで、残存している嚥下機能が低下する「廃用性嚥下機能低下」のリスクも指摘されています。嚥下機能は使わないと衰えるため、必要以上に増粘剤を使い続けることが、かえって回復を妨げる可能性があります。これは、理学療法士や言語聴覚士と連携したリハビリプログラムとの兼ね合いを考える際に重要な視点です。
飲水量のモニタリングは定期的に行うのが原則です。
増粘剤を使用している患者については、摂取量記録(in/outバランス)を定期的に評価し、脱水の徴候(尿量減少・口腔乾燥・皮膚の張りの低下など)を見逃さない体制を整えることが推奨されます。また、嚥下機能の改善が見込まれる患者については、言語聴覚士の評価に基づいて増粘剤の段階的な減量・中止を検討することも、積極的なアプローチとして重要です。
日本摂食嚥下リハビリテーション学会公式サイト:嚥下調整食分類・ガイドラインの最新情報

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