「皮膚に発疹がなければ全身性アミロイドーシスは否定できる」は誤りで、発疹のない症例でも皮膚生検でアミロイド沈着が証明された報告があります。
アミロイドとは、βシート構造をもつ線維状の異常タンパク質です。このアミロイドが皮膚を含む全身臓器の細胞外に沈着し、多彩な機能障害を引き起こす疾患群をアミロイドーシスといいます。皮膚病変においては、アミロイドが皮膚のみに限局する「限局性皮膚アミロイドーシス」と、全身性アミロイドーシスの症状の一部として皮膚に病変が現れる「全身性アミロイドーシスに伴う皮膚病変」の2つに大別されます。
限局性皮膚アミロイドーシスはさらに複数の病型に分かれます。最頻型は斑状アミロイドーシスで、全体の約58%を占めます。次いで斑状・丘疹状アミロイドーシス(17%)、アミロイド苔癬(14%)、肛門・仙骨部皮膚アミロイドーシス(11%)の順となっており、「アミロイド苔癬が最も多い」という思い込みは統計的に誤りです。
各病型の前駆タンパク質も重要です。アミロイド苔癬・斑状アミロイドーシス・肛門仙骨部型では表皮ケラチン由来のアミロイドが沈着します。一方で結節性皮膚アミロイドーシスでは免疫グロブリン軽鎖(AL)由来であり、約7%が経過中に全身性ALアミロイドーシスへ移行しうることが知られています。これが原則です。
皮膚アミロイドーシスの特徴として、皮疹形状が非常に多彩である点があります。丘疹・斑・結節・皮膚萎縮・網状・紫斑・水疱・色素脱失など、臨床像は病型によって大きく異なります。強いかゆみを伴うことが多い一方、結節型ではかゆみをほとんど伴わないなど、症状の幅も広い点に注意が必要です。
病型分類を整理すると以下のとおりです。
参考:皮膚アミロイドーシスの病型分類と臨床像について(北海道大学皮膚科教材より)
皮膚アミロイドーシス各論PDF(北海道大学皮膚科)
臨床現場で皮膚アミロイドーシスを疑う際の視診・触診ポイントを病型ごとに整理します。限局性アミロイドーシスの中でも最頻のアミロイド苔癬では、下腿前面や前腕伸側・上背部を中心に、3〜8mm大の淡褐色〜灰褐色の孤立性角化性丘疹が多発します。丘疹は触るとザラザラとした感触があり、いわゆる「おろし金様局面」を呈することがあります。これが基本です。
次に斑状アミロイドーシスですが、こちらは肩甲部を中心に、みそ汁のシミのような細かい点状・網目状の褐色斑が拡がるのが特徴です。1つ1つの病変は直径2〜3mm程度(ちょうど大豆の断面ほど)ですが、融合して広い範囲に及ぶこともあります。強いかゆみを伴うにもかかわらず、「色素沈着」「乾燥肌」として見過ごされやすいです。意外ですね。
全身性ALアミロイドーシスの皮膚所見はさらに複雑です。眼瞼周囲や頸部・腋窩に光沢のある黄白色丘疹が散在し、軽い外力で紫斑(pinch purpura)が生じます。これはアライグマの目に似ることから「ラクーンアイ」とも呼ばれ、ALアミロイドーシスにおいて約40%の症例で確認される特異性の高い所見です。巨舌もほぼ同様に重要で、約20%に認められます。
一方で、ALアミロイドーシスを疑いながらも皮膚所見をみておらず、発疹が確認できなかった場合でも絶対に安心してはいけません。無疹部であっても皮膚生検でアミロイドの沈着が証明されることがあるからです。この事実が臨床上重要な点です。発疹のない全身性アミロイドーシス症例では、上背部・腹部・仙骨部・下腿前面・前腕伸側など複数箇所のパンチ生検が推奨されています。
視診所見として見逃しやすいのが、強皮症様の手指硬化・爪変形・脱毛といった所見です。ALアミロイドーシスでは手指へのアミロイド沈着により全身性強皮症に酷似した皮膚硬化が生じることがあり、強皮症として誤診されるケースもあります。皮膚症状が多彩である点を念頭に置いた全身観察が重要です。
参考:日本皮膚科学会総会 教育講演「アミロイドーシス」全文(北里大学皮膚科)
第120回日本皮膚科学会総会 教育講演PDFアミロイドーシス(北里大学 小原宏哉)
病理組織学的診断は、アミロイドーシスの確定診断において唯一の方法です。これが条件です。臨床像だけでは病型の確定はもちろん、限局性と全身性の鑑別すら不可能であることを改めて認識することが重要です。
まず通常のHE染色(ヘマトキシリン・エオジン染色)では、アミロイドはエオジンに染まる「無構造な淡紅色の物質」として観察されますが、この段階ではアミロイドと特定することは困難です。アミロイドの確認には専用の染色が必要です。
コンゴーレッド染色は最も標準的なアミロイド染色法であり、アミロイドが橙赤色に染色されます。さらに偏光顕微鏡下では「緑色の複屈折(apple-green birefringence)」を示すことが同定の決め手となります。ただし、症例によってはコンゴーレッドの染色性が非常に弱い場合があるため、偏光顕微鏡による確認を省略してはいけません。必須です。
コンゴーレッドと同等の有用性をもつ染色法として、ダイレクト・ファースト・スカーレット(DFS)染色があります。電子顕微鏡では幅8〜15nmの分枝のない線維構造として同定されます。これらの染色所見を確認後、次のステップとして免疫組織化学染色で前駆タンパク質を同定し、病型を確定させます。
病理組織におけるアミロイドの沈着部位も診断上の重要な鍵となります。
このように、同じ「皮膚生検」であっても沈着部位の読み方が限局性と全身性の分岐点となります。つまり沈着部位の評価が原則です。診断にあたっては皮膚科医・病理医・内科医が連携して評価することが理想的であり、皮膚病変を発見した非皮膚科医も積極的に皮膚科へのコンサルトを検討すべきです。
なお、全身性アミロイドーシスのスクリーニング目的では腹壁脂肪吸引による皮下脂肪組織の生検も行われます。侵襲が小さく外来でも実施可能であり、特にATTRアミロイドーシスや心アミロイドーシスの疑い例での初期スクリーニングとして活用されています。
参考:コンゴーレッド染色とDFS染色の比較、アミロイド沈着の組織学的評価
アミロイド染色—コンゴー赤染色とDFS染色の比較(医書.jp)
「皮膚は全身を映す鏡」という言葉がありますが、アミロイドーシスの文脈では、皮膚症状が全身疾患に先行する最初のサインとなることが少なくありません。この視点は、皮膚科以外の医療従事者にとっても非常に重要です。
全身性アミロイドーシスの中で最頻度はALアミロイドーシスです。免疫グロブリン軽鎖(κ鎖またはλ鎖)を前駆蛋白とするこのタイプは、多発性骨髄腫や形質細胞異常症を基礎疾患に持つことが多く、60歳代に好発します。心臓・腎臓・消化管・肝臓・末梢神経と多彩な臓器障害を呈しますが、注目すべきは皮膚症状の出現率です。原発性ALアミロイドーシスでは65%に皮膚発疹が認められると報告されており、これは見逃すには惜しい数字です。
全身性アミロイドーシスで特に見落としやすい皮膚所見は以下のとおりです。
次に重要な鑑別疾患との整理です。アミロイド苔癬はアトピー性皮膚炎との合併が臨床上よく知られており、成人アトピー性皮膚炎の約0.8%にアミロイド苔癬が合併するという報告があります。アトピー性皮膚炎に合併したアミロイド苔癬は発症年齢が若く、下肢に症状が出やすいという特徴があります。かゆみが主訴でアトピー性皮膚炎と思われていた患者に、実はアミロイド苔癬が合併していたというケースは日常診療においても存在します。
反応性AAアミロイドーシスは、関節リウマチ・SLE・結核などの慢性炎症性疾患に続発します。血清アミロイドA蛋白(SAA)が前駆物質となります。ただし、このタイプでは皮疹の形成はきわめてまれであることも覚えておいてください。
透析アミロイドーシス(β2ミクログロブリンアミロイドーシス)は長期血液透析患者で認められ、手根管症候群・関節障害が主体となりますが、皮膚症状として紅斑・丘疹・紫斑・皮下結節を呈することがあります。
全身性への移行リスクが特に高いのが結節性皮膚アミロイドーシスです。約7%が経過中にALアミロイドーシスへ移行することが知られており、定期的な内臓精査が必要な病型といえます。「皮膚限局だから安心」とは限りません。
参考:全身性アミロイドーシスの皮膚病変と鑑別の解説
皮膚アミロイドーシスの臨床解説(看護roo!)
皮膚アミロイドーシスの治療は「沈着したアミロイドを除去する」ことを主目的には設計されていません。これが現実です。基本的には症状コントロールを目標とした対症療法が中心となります。
限局性皮膚アミロイドーシス(アミロイド苔癬・斑状アミロイドーシスなど)に対しては、まずステロイド外用薬が第一選択となります。比較的強いランクのステロイド(strong〜very strongクラス)を使用することが多く、炎症とかゆみを抑制します。ただし、長期外用では皮膚萎縮・毛細血管拡張・色素脱失などの局所副作用が問題となります。副作用が出た場合は一時休薬し、再燃が著しい場合には免疫抑制薬の全身投与を検討します。
免疫抑制薬外用としてタクロリムス軟膏(プロトピック)も有用で、ステロイド様の皮膚萎縮を起こさないというメリットがあります。一方で、塗布後の灼熱感や紫外線曝露への注意が必要で、日焼けサロン・海水浴などは避ける指導が必要です。
難治例に対しては以下の治療が報告されています。
近年の重要な知見として、アミロイド苔癬と発汗障害の関連が注目されています。2020年の報告では、アミロイド苔癬の病変部は健常部に比べて発汗が有意に低下しており、ヘパリン類似物質の密封療法により病変の改善と発汗機能の回復が同時に得られたとされています。かゆみの悪循環を断つためにも、スキンケアによる保湿と発汗障害への介入が重要な治療戦略の一つとなってきています。これは使えそうです。
生活指導の観点からも重要な点があります。ナイロンタオルや硬いタオルでの過度な擦り洗いは斑状アミロイドーシスの原因となります。また、かゆみからの掻破行動はアミロイド苔癬を増悪させるため、抗ヒスタミン薬の内服によるかゆみ管理と合わせて、「掻かない」習慣づけが不可欠です。患者指導の場面では、こうした機械的刺激の回避を具体的に伝えることが重要です。
全身性アミロイドーシスの一環として皮膚病変がある場合には、基礎疾患の治療(多発性骨髄腫に対する化学療法など)が優先されます。ALアミロイドーシスは未治療では余命が1年未満とされる重篤な疾患であるため、皮膚所見からこれを疑った場合には速やかに血液内科・循環器内科などの専門科へ紹介することが求められます。皮膚科医・非皮膚科医を問わず、「皮膚所見の早期発見→専門科紹介」の流れを常に念頭に置くことが、患者のアウトカム改善につながります。
参考:皮膚アミロイドーシスの治療・生活指導・スキンケアについて
皮膚アミロイドーシスの概要・治療解説(メディカルノート)