ブフェキサマク軟膏の作用と販売中止の経緯を解説

ブフェキサマク軟膏(アンダーム)はなぜ2010年に販売中止となったのか?接触皮膚炎リスクや作用機序、代替薬の選択まで医療従事者向けに詳しく解説します。

ブフェキサマク軟膏の基礎知識と販売中止の全経緯

アトピー性皮膚炎の患者に塗るほど、かえって症状が悪化する薬が存在しました。


🔑 この記事の3つのポイント
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ブフェキサマクは非ステロイド性NSAIDsの外用剤

COXを阻害しプロスタグランジン合成を抑制する酸性NSAIDsで、1977年に医療用医薬品として発売。アトピー性皮膚炎や帯状疱疹など幅広い皮膚疾患に使用されていました。

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接触皮膚炎リスクが便益を上回り2010年に販売中止

欧州医薬品庁(EMA)が2010年4月に販売許可中止を勧告。日本国内での重篤副作用報告7件を踏まえ、帝國製薬など各社が自主的に販売を終了しました。

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代替薬への切り替えが必要

同系統のNSAIDs外用剤としてはイブプロフェンピコノール(ベシカム)などが存在しますが、アトピー性皮膚炎への外用NSAIDs全般の使用は現在のガイドラインでも推奨されていません。


ブフェキサマク軟膏とは何か:成分・剤形・作用機序

ブフェキサマク(bufexamac)は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の一つであり、酸性NSAIDsに分類される外用成分です。1966年にベルギーのBuu-Hoiらによって開発されたp-ブトキシフェニル酢酸のヒドロキサム酸誘導体であり、その化学式はC₁₂H₁₇NO₃、分子量は223.27 g/molです。


作用機序はほかの酸性NSAIDsと同様で、アラキドン酸からプロスタグランジン(PG)への変換を担う酵素シクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害することにより、プロスタグランジンの合成を妨げます。これにより、PGが引き起こす炎症・発赤・腫脹・疼痛・瘙痒などの症状を緩和するとともに、軽度の解熱作用も示します。つまりCOX阻害が主な抗炎症のカギです。


日本では帝國製薬株式会社から「アンダーム軟膏5%」および「アンダームクリーム5%」として販売され、後発品としてアンホリル(岩城製薬)、エンチマック(大洋薬品工業)、サリベドール(マイラン製薬)、デルキサム(小林化工)、ヒフマック、ルブラゾン(池田薬品工業)など複数のジェネリックも流通していました。これは業界全体で計7社にわたる広範な流通でした。


白色から微黄白色の結晶性粉末で、わずかに特異な臭いを持ちます。N,N-ジメチルホルムアミドに溶けやすく、メタノールやエタノールにはやや溶けにくい性質があります。外用剤としての単独使用を前提に設計されており、製剤の濃度は5%に統一されていました。


抗炎症作用の強さはステロイド外用薬に比べると弱く、比較的軽症の湿疹や顔面の湿疹・帯状疱疹に対して選択されることが多い薬剤でした。「副作用の少ない抗炎症外用剤」という位置づけが当時は一般的でしたが、この認識が後の問題につながっていきます。意外ですね。


ブフェキサマク軟膏の効能・効果と使用されていた疾患

ブフェキサマク軟膏の効能・効果は、軟膏とクリームで若干異なっていました。軟膏では急性湿疹・接触皮膚炎・アトピー性皮膚炎・おむつ皮膚炎・日光皮膚炎・酒さ様皮膚炎・口囲皮膚炎・帯状疱疹・熱傷(第I・II度)・皮膚欠損創と、幅広い皮膚疾患が適応として承認されていました。クリームでは熱傷と皮膚欠損創が除かれ、軟膏よりも少ない適応範囲となっていました。


用法は1日1〜数回の患部塗布が基本で、必要に応じてODT(密封包帯法)も行われていました。ODT療法を用いることで薬剤の浸透率が高まり、より強い効果が期待できる反面、感作リスクも上昇するとされています。ODTとの組み合わせは注意が必要です。


特にアトピー性皮膚炎に対しては、「ステロイド外用薬を使いたくない患者・保護者」への代替として処方されるケースが多く見られました。当時の臨床現場では、ステロイド忌避の傾向を持つ患者への「逃げ場」的な選択肢として重用されていたのです。


しかし日本小児科学会や皮膚科学会は後に、「アトピー性皮膚炎において接触皮膚炎のリスクが高く、かえって症状を悪化させる可能性がある」と警告するに至ります。治療のために処方した薬が疾患を悪化させるという、臨床的に非常に重要な問題点です。これが後の販売中止勧告に直結しました。


帯状疱疹への使用も広く行われており、後遺神経痛部位への外用が試みられていましたが、ここでも接触皮膚炎のリスクは同様に存在していました。文献には「帯状疱疹の皮疹部を避けて生じたブフェキサマク軟膏による接触皮膚炎」という症例報告も存在しています。


帝國製薬公式:医療用ブフェキサマク外用剤の販売中止の決定について(製品一覧・背景含む)


ブフェキサマク軟膏の副作用:接触皮膚炎から接触皮膚炎症候群まで

ブフェキサマクの最大の問題点は、治療対象である湿疹・皮膚炎の原因そのものになり得るという逆説的な副作用です。副作用の中でも最も臨床的に重要なのが、アレルギー性接触皮膚炎です。


アレルギー性接触皮膚炎は、ブフェキサマク成分が皮膚に繰り返し接触することで感作が成立し、再接触時に遅延型アレルギー反応(IV型)として発現するものです。感作が成立するまでは症状が出ないため、「何週間も問題なく使えていたのに、突然悪化した」というパターンが起きやすい点が特徴です。これは読者が実際に経験していた臨床パターンそのものです。


重症例では、外用部位を超えて遠隔部位や全身にまで皮疹が拡大する「接触皮膚炎症候群(generalized contact dermatitis)」へと発展することがあります。この状態では外用中止後も皮疹の遷延・拡大がみられ、発熱や全身倦怠感などの全身症状を伴うことも報告されています。一般的な「かぶれ」とは段違いの重症度です。


帝國製薬のプレスリリースによれば、日本国内における過去3年間(2007〜2010年)の重篤な接触皮膚炎に関する副作用報告は全社合計で7件でした。一見少ない数字に見えますが、欧州での規制状況・アトピー性皮膚炎での症状悪化・代替薬の存在などを総合的に判断した結果、販売中止が決定されています。7件という数字は氷山の一角とも考えられます。


そのほかの副作用として、一過性の刺激感・熱感・瘙痒(これは許容範囲とされていた)、過敏症(発赤・丘疹・腫脹・水疱)、および長期使用による色素沈着があります。特に色素沈着は長期外用患者では見た目の問題にもつながるため、患者QOLの観点からも看過できない副作用です。


厚生労働省・PMDA:重篤副作用疾患別対応マニュアル「薬剤による接触皮膚炎」(令和5年4月改定)—ブフェキサマクを含むNSAIDs外用剤の接触皮膚炎に関する詳細な対応方法が記載されています


ブフェキサマク軟膏が販売中止になった経緯:EMA勧告から日本の対応まで

ブフェキサマク外用剤の販売中止は、突然決まったわけではありません。問題の蓄積には長い歴史があり、2005年の時点で日本の添付文書「重大な副作用」の項に接触皮膚炎に関する記載が追記されています。すでにこの時点で警鐘が鳴らされていたのです。


転機となったのは2010年4月22日です。この日、欧州医薬品庁(EMA)がブフェキサマクの副作用リスクが治療上の便益を上回るとして、欧州全域に対して本剤の製造販売承認の取り消し勧告を行いました。EMAは処方医師に対して処方中止と代替薬への変更を、患者には主治医への相談を求めるという踏み込んだ内容で勧告を行っています。


この欧州での動きを受け、日本においても帝國製薬をはじめとする関係各社が2010年5月に自主的な販売中止を決定しました。続いて厚生労働省は2010年5月11日、一般用医薬品のブフェキサマク製剤についても全製品の販売終了を告知し、翌年2011年3月31日をもって保険収載薬としての地位も失うことになります。保険での処方もできなくなります。


注目すべき点は、この販売中止が日本の行政命令ではなく、メーカー側の自主的な判断によるものだったという事実です。市販後3年間の重篤副作用報告が7件にとどまっていたにもかかわらず、欧州規制・代替薬の存在・患者安全の観点から予防的に撤退を決断したことは、医薬品安全管理における重要なケーススタディとして現在も引用されています。


このプロセスは「事後対応型」から「予測・予防型」安全対策への転換を体現した事例として、厚生労働省の重篤副作用疾患別対応マニュアルでも参照されています。医療従事者にとって、薬剤の安全性評価は承認後も継続するものだという認識を再確認させてくれます。


ブフェキサマク軟膏廃止後の代替薬選択と医療現場への示唆

ブフェキサマク廃止後、「同系統の外用NSAIDs」という選択肢として残されているのはイブプロフェンピコノール(ベシカム軟膏5%・クリーム5%)などです。しかし、外用NSAIDs全般に対して現在の皮膚科診療ガイドラインは慎重な姿勢をとっています。代替薬も万能ではないということです。


「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」においても、NSAIDsの抗炎症効果はステロイド外用薬と比較して弱いとされており、特にブフェキサマクについては接触皮膚炎のリスクが稀ではなく、外用範囲を超えた皮疹拡大の重症例もみられると明記されています。現在のガイドラインでは、アトピー性皮膚炎における外用NSAIDsは原則的に使用しない方向での考え方が示されています。


では、ステロイドが使いにくい状況ではどうするのか。現在の皮膚科診療では、タクロリムス軟膏(プロトピック)やデルゴシチニブ軟膏(コレクチム)などの非ステロイド系免疫調節外用薬が選択肢として確立されています。これらはブフェキサマクとは全く異なる作用機序を持ち、長期使用データも蓄積されてきた薬剤です。適切な代替薬を選ぶことが重要です。


また、ブフェキサマクによる感作が成立した患者では、同成分を含む薬剤との再接触がたとえ微量でも症状を誘発する可能性があります。薬剤アレルギー歴の確認においては、すでに市場から撤退している薬剤であっても、過去の処方歴を丁寧に聴取することが求められます。


臨床現場において「もう販売されていないから確認不要」という思い込みは禁物です。感作は一生涯持続するものであり、パッチテストによるアレルゲン同定や、交差反応性のある成分の回避指導が必要になるケースは、今後も発生しうると考えるべきでしょう。感作の記憶は消えません。


日本皮膚科学会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024—NSAIDs外用薬の位置づけと推奨度が記載されています