「深い褥瘡ほど点数が高いとは限りません。」
DESIGN-R評価ツールは、日本褥瘡学会が2002年に開発・公表し、その後2008年に改訂された褥瘡重症度分類用スコアリングツールです。「DESIGN」は各評価項目の頭文字を取ったもので、Depth(深さ)・Exudate(滲出液)・Size(大きさ)・Inflammation/Infection(炎症/感染)・Granulation tissue(肉芽組織)・Necrotic tissue(壊死組織)の6項目に加え、2008年改訂でPocket(ポケット)が追加されて「DESIGN-R」となりました。
「R」はRating(重症度評価)を意味します。つまり合計スコアで経過を追う設計です。
それ以前の褥瘡評価は看護師や医師の主観的判断に頼る部分が大きく、同じ患者でも評価者によって記録が異なるという問題が現場で深刻化していました。DESIGN-Rの登場により、褥瘡の状態を数値化・標準化することが可能となり、多職種チームでの情報共有が格段に行いやすくなりました。
2022年にはさらに「DESIGN-R®2020」として改訂が行われ、深さの評価基準が一部変更されています。最新版では深さ(D)の項目において「d0」から「D5」までの7段階が設けられており、特に「d0」(皮膚損傷なし・発赤のみ)と「D3」(皮下組織までの損傷)の境界が明確化されました。これは意外と見落とされやすいポイントです。
ちなみに日本褥瘡学会の調査によれば、国内の医療機関において褥瘡対策に関する診療計画書の記録で最も使用されているツールがDESIGN-Rであり、急性期病院の90%以上で採用されているとされています。これほど普及したツールであれば、正確な使い方を習得することは医療従事者として非常に重要です。
参考:日本褥瘡学会の学術情報・改訂版ガイドラインに関するページ
日本褥瘡学会公式サイト(DESIGN-Rツール・ガイドライン情報)
DESIGN-Rの評価項目は7つあり、それぞれに細かなサブスコアが設定されています。まず全体の構造を把握しましょう。
深さ(D/d)は最も判断が難しい項目のひとつです。d0(創なし・発赤)、d1(持続する発赤)、d2(真皮までの損傷)、D3(皮下組織までの損傷)、D4(皮下組織を超える損傷)、D5(関節腔・体腔に至る損傷)、DUTI(深さが判定不能)という7段階が存在します。注意すべきは、壊死組織や滲出液で創底が見えない場合は「DUTI(深さ判定不能)」と記録することが正しい運用である点です。無理に深さを推測して記録すると、後の経過評価を誤る原因になります。
深さの判定が不能なときはDUTIが正解です。
滲出液(E/e)は量で評価します。e0(なし)・e1(少量、毎日の交換不要)・E3(中等量、毎日交換が必要)・E6(多量、1日2回以上の交換が必要)の4段階です。滲出液の量は創の状態だけでなく、使用している被覆材の吸収能にも左右されるため、被覆材を外した直後の創の状態を観察することが基本です。
大きさ(S/s)は長径×短径(cm)で計算します。計算結果に応じてs0からS15まで点数が割り当てられており、面積が大きいほど点数は高くなります。ポイントは、長径と短径が必ずしも水平・垂直方向と一致しない点です。創の最大径を長径、それに直交する最大径を短径として計測します。
炎症/感染(I/i)は局所の炎症徴候と感染の有無を評価します。i0(局所炎症徴候なし)・i1(局所炎症徴候あり)・I3C(局所感染の明らかな徴候あり)・I3:CBT(臨界的定着疑い)・I9(全身炎症反応症候群を伴う感染)の5段階です。発赤・腫脹・熱感・疼痛・膿性浸出液の有無を系統的に確認しましょう。
肉芽組織(G/g)は創面に占める良性肉芽の割合で評価します。g0(創閉鎖または治癒)・g1(良性肉芽が創面の90%以上)・g3(良性肉芽が50%以上90%未満)・G4(良性肉芽が10%以上50%未満)・G5(10%未満)・G6(肉芽形成なし)の6段階です。肉芽の「色」も観察の重要な手がかりで、鮮赤色が良性肉芽、白色や暗赤色は不良肉芽として区別します。
壊死組織(N/n)はn0(壊死組織なし)・N3(柔らかい壊死組織あり)・N6(硬く厚い密着した壊死組織あり)の3段階です。デブリードマン(壊死組織除去)が行われた後には速やかに再評価することが求められます。
ポケット(P/p)はp0(なし)・P6・P12・P24の4段階で、創縁からの最大距離と幅から計算した面積(長径×短径−創の大きさ)を基準に判定します。これが実はもっとも測定誤差が生じやすい項目です。
つまり7項目すべての正確な観察が評価精度の鍵です。
DESIGN-Rのスコアは各項目の数値を合計して算出します。理論上の最高点は66点(深さDUTIの場合は除外)とされており、点数が高いほど褥瘡の重症度が高いことを意味します。ただし、ここで注意が必要な点があります。
深さ(D/d)の項目は合計点数に含めないのが原則です。
これは日本褥瘡学会が示している重要なルールです。深さは褥瘡の「治癒経過」を正確に反映しないことがあるため、経時的なスコア変化を追う際には深さを除いた6項目の合計で比較することが推奨されています。実際の現場ではこの点を知らずに深さも含めて合計点を比較してしまい、「スコアが下がったから改善した」と誤判断するケースが報告されています。
経過モニタリングでは、少なくとも週1回の定期評価が推奨されています。毎回同じ担当者が評価することが理想ですが、夜勤・日勤・交代勤務が多い病棟では現実的に難しいことも多いです。そこで有効なのが、写真撮影と評価記録の同時実施です。創傷部位を定期的に写真に残し、評価時のスコアと照合することで、評価者が変わっても経過の比較が正確に行えます。
スコアの変化の解釈についても整理しておきましょう。一般的には、1週間で合計スコアが3点以上低下した場合は「改善傾向あり」、逆に3点以上上昇した場合は「悪化傾向あり」と判断する目安が用いられています。ただし、デブリードマン後や感染加療後は一時的にスコアが変動することがあるため、単純な数値比較だけでなく、治療内容の文脈とあわせて解釈することが大切です。
また、DESIGN-Rのスコアは診療報酬の算定にも関係しています。「褥瘡ハイリスク患者ケア加算(500点)」の要件として、DESIGN-Rによる評価実施と記録が含まれています。つまり正確なDESIGN-R評価は患者ケアの質だけでなく、病院の収益にも直結する業務です。
スコア変化は文脈と一緒に読むことが条件です。
参考:褥瘡対策に係る診療報酬および評価に関する情報
厚生労働省医療保険・診療報酬に関する情報ページ
DESIGN-R評価の最大の課題のひとつが、評価者間ばらつき(inter-rater variability)です。同じ創傷を複数のスタッフが評価すると、スコアが2〜5点異なることは珍しくありません。特にばらつきが大きいとされる項目は、肉芽組織(G)の割合判定と、炎症/感染(I)の段階判定です。
どういうことでしょうか?肉芽の「90%以上」と「50〜90%」の境界は視覚的な判断に頼らざるを得ず、経験年数や観察習慣によってスタッフ間で大きな差が生まれます。炎症徴候の「局所のみ」と「全身炎症あり」の判定も同様で、全身状態の把握なしには正確な評価ができません。
評価者間ばらつきを最小化するための実践的なアプローチとして、以下の方法が有効です。
これは使えそうです。特に画像付き評価カードは、日本褥瘡学会から「褥瘡状態評価スケール(DESIGN-R®2020)ガイド」として入手可能であり、病棟での活用を推奨します。
また、電子カルテシステムに組み込まれたDESIGN-R評価入力フォームを活用することも効果的です。各項目の選択肢に簡単な説明文が付いているシステムであれば、入力時の判断の根拠を統一しやすくなります。評価ツールとの相性が良いシステムについては、各医療機関のICT担当や医療情報部門に相談して確認しましょう。
評価の一貫性を保つことが、経過判断の精度を守る原則です。
DESIGN-Rはあくまで「現在の褥瘡状態の評価ツール」であり、褥瘡リスク評価ツール(OHスケール、ブレーデンスケールなど)とは役割が異なります。この2つを混同して運用してしまうケースが現場でしばしば見られます。重要な違いとして整理しておきましょう。
つまり、両ツールは補完関係にあります。
DESIGN-Rのスコアと介入計画を連動させるには、スコアの「どの項目が悪化しているか」を起点に対策を考えることが有効です。例えば、滲出液(E)が多い場合は被覆材の選択見直しや交換頻度の調整、感染徴候(I3C以上)がある場合は創培養の実施や抗菌薬の検討、ポケット(P)が形成されている場合は体位変換の角度・頻度の再検討などが導かれます。
スコアの項目別分析が、ケア計画の見直し起点になります。
さらに注目されているのが、チーム医療における「DESIGN-Rスコアの情報共有フロー」の整備です。看護師が評価したスコアを医師・管理栄養士・理学療法士・薬剤師がそれぞれの専門的視点から解釈し、多職種で協議するプロセスが褥瘡回診(褥瘡ラウンド)として制度化されている病院では、褥瘡の治癒日数が有意に短縮するというデータも出ています。
実際に2019年に発表された多施設研究では、褥瘡回診を月2回以上実施している病院群は、月1回未満の病院群に比べてDESIGN-Rスコアの改善速度が約1.4倍速かったという報告があります。多職種連携の効果が数字で示されているわけです。
DESIGN-Rのスコア推移を定期的に院内で集計し、病棟別・褥瘡部位別のデータとして可視化することも品質改善に役立ちます。医療の質向上に関わる委員会(QI活動や看護部の褥瘡対策委員会)にスコアデータを提出し、院内ベンチマークとして活用する取り組みが、先進的な医療機関では広がっています。
参考:多職種連携・褥瘡回診の実践に関する研究情報
日本褥瘡学会誌(褥瘡回診・多職種連携に関する研究論文多数掲載)
長年DESIGN-Rを使用している医療従事者でも、知らずに繰り返しているミスがあります。ここでは特に影響が大きい実務上の注意点を整理します。
ミス①:発赤をd1に分類するべきか迷う
持続する発赤(d1)か、それとも単なる一過性の発赤(d0)かの判断には、「30分以内に発赤が消えるかどうか」という確認が役立ちます。体位変換後30分経っても発赤が残る場合はd1と判断するのが実務的な目安です。
ミス②:ポケットを見落とす
ポケットは視覚だけでは発見しにくく、綿棒やゾンデ(探針)での触診を省略するとP0と誤記録されるリスクがあります。圧迫部位・骨突出部の辺縁は必ず触診で確認する習慣を徹底しましょう。
ミス③:感染と炎症の段階の読み違い
I3とI3Cの違いを混同しているスタッフが一定数います。I3Cは「臨界的定着(critical colonization)」を意味し、明らかな膿や蜂窩織炎がなくても治癒が停滞している状態を指します。これは2020年改訂で明確化された定義であるため、旧バージョンの基準で評価していると誤記録につながります。
厳しいところですね。2020年改訂の内容は改めて確認が必要です。
ミス④:写真と評価記録の不一致
写真は撮影したが評価記録と紐付けていない、または評価は記録したが写真がない、というケースは情報の断絶を招きます。できる限り評価記録と写真を同日・同一カルテ内に収めるルールを部署単位で設けることを推奨します。
ミス⑤:サイズ(S)計測時の基準点のずれ
長径の基準を「創の最大径」ではなく「身体の軸方向」と勘違いして計測しているスタッフがいます。正しくは創形状の最も長い部分を長径、それに直交する最大幅を短径として計測します。計測値のずれは面積計算に影響し、スコアに誤差を生じさせます。
ミス⑥:改訂版への移行が不完全
DESIGN(旧版)とDESIGN-R(2008版)、DESIGN-R®2020の3バージョンが混在している病院では、評価シートが混在していることがあります。現在の標準はDESIGN-R®2020であり、過去の版を使い続けることは評価基準のズレを生みます。使用中の評価シートのバージョンを必ず確認しましょう。
使用バージョンの統一が、正確な評価の条件です。
これらのミスはいずれも単独では小さな誤差に見えますが、複数が重なると「褥瘡が悪化しているのにスコアが下がっている」「改善していないのに治癒判定している」という重大な誤判断につながります。定期的な院内研修でDESIGN-Rの評価練習を実施し、スタッフ全員が同じ基準で評価できる環境を整えることが、最終的に患者のアウトカム向上につながります。
日本褥瘡学会ガイドライン・DESIGN-R®2020評価基準(公式ダウンロード情報)