全層植皮は「生着しにくいから顔以外は使えない」と思っていると、手術の選択肢を自ら狭めて患者の仕上がりに差が出ます。
植皮術は、皮膚が欠損した部位に自身の別部位から採取した皮膚を移植する手術です。その最大の分類基準が「採取する皮膚の厚さ」になります。
分層植皮(Split-thickness skin graft:STSG)は、表皮と真皮の浅い部分、具体的には皮膚全体の上半分ほど(約0.2〜0.3mm〜1mm程度)を専用の採皮刀(デルマトーム)で採取します。 採皮部位は残った真皮深層の細胞から自然に再生されるため、縫合は不要です。 wound-treatment(http://www.wound-treatment.jp/next/etc/997.htm)
全層植皮(Full-thickness skin graft:FTSG)は、表皮と真皮のすべての層をまるごと採取します。 真皮を全層含むため、採皮部位は自然には治癒できず、縫い縮める処置が必要になります。 hiro-clinic.or(https://www.hiro-clinic.or.jp/dermatology/full-thickness-skin-graft/)
つまり「どこまで皮膚を取るか」が最大の違いです。
以下の表に構造の違いをまとめます。
| 項目 | 分層植皮(STSG) | 全層植皮(FTSG) |
|---|---|---|
| 採取する厚さ | 表皮+真皮浅層(約0.2〜1mm) | 表皮+真皮全層 |
| 採皮部位の処置 | 縫合不要(自然治癒) | 縫い縮め必要 |
| 採取できる面積 | 広範囲可能 | 限られた部位・面積 |
| 毛根・脂腺の有無 | なし(または不完全) | あり(毛が生える可能性) |
毛根を含む点は見落としがちです。 全層植皮を顔面などに使う際は、採皮部位の毛の生え方を事前に確認しておくことが重要です。 wound-treatment(http://www.wound-treatment.jp/next/etc/997.htm)
実際には、厚めの分層植皮と全層植皮で生着に大きな差はないという報告があります。 生着の成否は植皮片の厚さだけでなく、母床の状態・固定の確実性・術後の安静度、そして術者の技量によっても大きく左右されます。 itotak.m78(http://itotak.m78.com/4nen3yama.html)
生着が問題ないのであれば、次に問題になるのが「収縮(拘縮)」です。
分層植皮は生着しやすい反面、生着後に大きく収縮するという特徴があります。 特に関節部位周辺に分層植皮を使うと、皮膚の突っ張り(拘縮)が機能障害につながるリスクがあります。一方、全層植皮は生着後の収縮が少なく、整容性・機能性ともに優れています。 hiro-clinic.or(https://www.hiro-clinic.or.jp/dermatology/full-thickness-skin-graft/)
色素沈着についても差があります。分層植皮は色素沈着が起きやすく、全層植皮は比較的少ないとされています。 顔面や手背など、目立つ部位ではこの差が患者の満足度に直結します。 itotak.m78(http://itotak.m78.com/4nen3yama.html)
収縮と色素沈着まで考慮するのが原則です。
どちらの術式を選ぶかは「欠損部の大きさ」「部位」「母床の状態」「整容上の優先度」の4つで判断します。 sudo-skinclinic(https://www.sudo-skinclinic.jp/keisei06.html)
分層植皮が適応になるのは、比較的広範囲の皮膚欠損です。 熱傷・外傷・腫瘍切除後の広い欠損部など、全層植皮では採皮面積が足りない場合に選択されます。体幹・四肢の非露出部で整容性よりも早期閉創が優先される場面では、第一選択になります。 itotak.m78(http://itotak.m78.com/hifugeka1.html)
全層植皮は、顔面・口唇・眼瞼・手など整容性・機能性が重視される部位に適しています。 特に眼瞼や口唇は、皮膚が薄く柔軟でなければ機能障害を招くため、全層植皮が不可欠な場面が多いです。 itotak.m78(http://itotak.m78.com/hifugeka1.html)
これは使えそうですね。
採皮部位についても整理しておきましょう。全層植皮の採皮部位として頻用されるのは、耳の後ろ・鎖骨下・鼠径部・上眼瞼などです。 いずれも目立ちにくく、縫合瘢痕が許容できる部位が選ばれます。分層植皮は大腿部・臀部など広い平坦部位から採取するのが一般的です。 hiro-clinic.or(https://www.hiro-clinic.or.jp/dermatology/full-thickness-skin-graft/)
臨床上の違いだけでなく、診療報酬上の扱いにも明確な差があります。見落とすと算定漏れや過誤請求につながるため、正確に把握しておく必要があります。
分層植皮術は「K013 分層植皮術」として算定します。 全層植皮術は「J089-2 全層植皮術」として算定します。 shirobon(https://shirobon.net/medicalfee/latest/shika/r06_shika/r06s_ch2/r06s2_pa9/r06s29_sec1/r06s291_J089_2.html)
点数は以下の通りです。
| 面積区分 | 分層植皮術(K013) | 全層植皮術(J089-2) |
|---|---|---|
| 25cm²未満 | 3,520点 | 10,000点 |
| 25〜100cm²未満 | 6,270点 | 12,500点 |
| 100〜200cm²未満 | 9,000点 | 25,000点 |
| 200cm²以上 | 25,820点 | 40,290点 |
25cm²未満でも全層植皮は分層の約2.8倍の点数です。 術式の選択が診療報酬に直接影響するため、カルテへの術式の明記と記録の整合性が特に重要になります。 clinicalsup(https://clinicalsup.jp/jpoc/shinryou.aspx?file=ika_2_10_1_1_2%2Fk013.html)
広範囲皮膚欠損の場合、分層植皮術では頭頸部・左上肢・左下肢・右上肢・右下肢・腹部(胸部含む)・背部のうち、同一部位以外の2部位以上で実施した場合は各部位ごとに算定可能という規定があります。 これは見落としやすいポイントです。 clinicalsup(https://clinicalsup.jp/jpoc/shinryou.aspx?file=ika_2_10_1_1_2%2Fk013.html)
算定ルールの確認が条件です。
分層植皮には、採取した植皮片に網目状の切れ込みを入れて面積を拡大する「メッシュ植皮(mesh graft)」という応用技法があります。 これにより、採取面積の1.5〜9倍程度まで欠損部をカバーできます。 hospital.arao.kumamoto(https://www.hospital.arao.kumamoto.jp/health/health_talk/health_talk23.html)
広範囲熱傷では採皮できる健常皮膚が限られるため、メッシュ植皮は特に重要な選択肢です。ただし、メッシュの「格子模様」が残るため整容性は低下します。顔面・手背など目立つ部位への使用は避けるのが原則です。
意外な落とし穴があります。
実は臨床現場では、「分層植皮=広範囲・生着優先」「全層植皮=狭範囲・整容優先」という二項対立の思考が固定化しやすいです。しかし、母床の血流状態が不良な場合(放射線照射後・慢性潰瘍底など)は、どちらの術式を選んでも生着率が著しく低下します。 そのような母床に対しては、植皮前に陰圧閉鎖療法(NPWT)で母床を整える準備期間を設けることが生着率向上につながると報告されています。 itotak.m78(http://itotak.m78.com/4nen3yama.html)
術式選択だけでなく母床の準備が生着を左右する、という視点は検索上位記事にはあまり記載されない独自の重要ポイントです。
以下、権威ある参考資料として日本形成外科学会・日本皮膚科学会の文献を参照することを推奨します。
植皮の厚さと生着・収縮の関係について詳しく解説された査読済み論文です。医療従事者向けの基礎知識として有用です。
植皮術の種類・適応・手術手技について網羅的に記載された日本医事新報社のコンテンツです。研修医・専攻医の復習にも適しています。
分層植皮術(K013)の算定要件・注記を確認できる診療報酬点数表の公式参照ページです。
K013 分層植皮術 診療報酬点数表(clinicalsup.jp)