ヘパリン類似物質外用液の乳剤性と水性の違いを解説

ヘパリン類似物質外用液の「乳剤性」と「水性」、2025年8月に一般名コードが分割されたことで調剤現場は大きく変わりました。基剤の違い・製品一覧・変更調剤の可否・選定療養の注意点まで、医療従事者が知っておくべき実務ポイントとは?

ヘパリン類似物質外用液の乳剤性と水性の違いと調剤実務のポイント

乳剤性と水性を間違えて調剤すると、患者に選定療養の特別料金を請求できなくなります。


この記事でわかること
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乳剤性・水性の基剤の違い

有効成分は同じヘパリン類似物質0.3%でも、油分の有無による基剤の差が使用感・保湿力の違いを生みます。

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2025年8月の一般名コード分割と製品一覧

令和7年8月14日に一般名処方マスタが更新。ヒルドイド・ラクール・NITが乳剤性、ニプロ・日医工・YDなどが水性に分類されました。

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変更調剤・疑義照会・選定療養の実務対応

乳剤性処方に対し水性を調剤するには疑義照会が必要。選定療養の特別料金徴収要否も状況により異なります。


ヘパリン類似物質外用液の乳剤性と水性の基剤の違いとは

ヘパリン類似物質外用液のローション剤には、「乳剤性」と「水性」の2種類があります。どちらも有効成分は同じ「ヘパリン類似物質0.3%」であり、血行促進・皮膚保湿という薬効成分としての効果に差はありません。つまり、薬効そのものは同等です。


では何が違うのかというと、基剤(製剤を作るための土台となる成分)の構成に差があります。乳剤性は「水中油型(O/W型)の乳剤性基剤」であり、白色ワセリンやスクワランなどの油分が添加剤として含まれています。これに対して水性は油分を含まず、水性基剤のみで構成されています。


この油分の有無が使用感の違いとして現れます。乳剤性は化粧品でいう「乳液」に近い感覚で、しっとりとした使用感が得られます。水性は「化粧水」に近い感覚で、サラサラとしてべたつきが少ない点が特徴です。乳剤性の方が油分を含む分、皮膚上での水分蒸発が緩やかになるため、より高い保湿持続効果が期待されます。


🌿 保湿力で選ぶなら乳剤性が基本です。


一方、水性は塗布後のさっぱり感が強いため、夏場や脂性肌の患者に好まれる傾向があります。また、ステロイド外用薬と混合して使用する場合などは、基剤の相性によって適するタイプが変わることもあります。医療従事者としては、患者の皮膚状態・季節・ライフスタイルに合わせた選択肢を提示できると、服薬アドヒアランスの向上にもつながります。


項目 乳剤性 水性
基剤の種類 水中油型(O/W型)乳剤性基剤 水性基剤
油分の有無 あり(ワセリン・スクワランなど) なし
使用感 しっとり(乳液に近い) さっぱり(化粧水に近い)
保湿持続力 高め 軽め
向いている季節・肌質 冬季・乾燥肌 夏季・脂性肌


薬効成分の保湿・血行促進作用が同等であるとしても、基剤の違いが患者の使い続けやすさに直結します。これが、今回の一般名コード分割の重要な背景にもなっています。


ヘパリン類似物質外用液の乳剤性・水性の製品一覧と見分け方

2025年8月14日(令和7年8月14日)の一般名処方マスタ更新を受け、各製品がどちらの区分に属するかが明確化されました。現場での混乱を防ぐためにも、製品ごとの分類を確実に把握しておく必要があります。


乳剤性に分類される製品は以下の通りです。


- ヒルドイドローション0.3%(マルホ・準先発品)
- ヘパリン類似物質ローション0.3%「ラクール」(三友薬品・後発品)
- ヘパリン類似物質ローション0.3%「NIT」(日東メディック・後発品)


水性に分類される製品は以下の通りです。


- ヘパリン類似物質ローション0.3%「ニプロ」(ニプロ・後発品)
- ヘパリン類似物質ローション0.3%「ニットー」(東亜薬品・後発品)
- ヘパリン類似物質ローション0.3%「日医工」(帝國製薬=日医工・後発品)
- ヘパリン類似物質ローション0.3%「YD」(陽進堂・後発品)


ポイントは、先発品であるヒルドイドローションが乳剤性であるのに対し、後発品の多くが水性である点です。意外ですね。


手元の製品が乳剤性か水性かを確認する最も確実な方法は、電子添文(添付文書)を参照することです。「3.2 製剤の性状」の欄に「基剤の種類」として「水中油型の乳剤性基剤」または「水性」と明記されています。2025年6〜7月にかけて各社の電子添文が改訂されており、この時点から基剤の種類が明記されるようになりました。添付文書の確認が基本です。


なお、日東メディックから出ている「NIT」と「ニットー」という2製品は非常に紛らわしいですが、「NIT」が乳剤性、「ニットー」が水性と、同一メーカーで正反対の分類になっています。発音も外観も似ているため、在庫管理・調剤時に特に注意が必要です。


一般名コードについても整理しておきます。旧コード「3339950QZZZZ」が1つしかなかったのが、現在は以下の2つに分割されています。


一般名コード 一般名(標準的な記載)
3339950QAZZZ 【般】ヘパリン類似物質外用液0.3%(乳剤性)
3339950QBZZZ 【般】ヘパリン類似物質外用液0.3%(水性)


レセコンや医事システムの更新が遅れている場合、旧コードのままで運用されているケースも散見されます。自施設のシステムが最新マスタに対応しているかを確認することが、実務上のトラブル防止につながります。


参考:日本皮膚科学会が厚生労働省へコード分割を要望した経緯と通知内容が記載されています。


ヘパリンの一般名コード切り分けについて|公益社団法人日本皮膚科学会


ヘパリン類似物質外用液の乳剤性と水性が分割された背景と目的

なぜ今になって一般名コードが分割されたのでしょうか? その背景には、2024年10月から本格導入された「長期収載品の選定療養制度」が深く関係しています。


選定療養制度の導入以降、患者に先発品(ヒルドイドローション)を処方する際、薬局では後発品との差額を「特別の料金」として患者から徴収できるようになりました。しかし従来、一般名コードが「ヘパリン類似物質外用液」として1つしかなかったため、乳剤性と水性を一括りに扱わざるを得ませんでした。つまりコードが同一のせいで、医師が乳剤性を意図して処方しても、薬局で水性の後発品が調剤されるケースが生じていたということです。


この問題を受け、日本皮膚科学会と日本臨床皮膚科医会の連名で厚生労働省に対してコードの分割を要望しました。その要望が認められ、2025年8月14日付で一般名処方マスタが更新されたのです。


コード分割の実現は薬局業務にとって決して小さな変更ではありませんでした。実際に2025年8月14日の情報がSNS上で広まった際、多くの薬剤師がX(旧Twitter)上で対応策を議論したほどです。分割は突然の告知ではなかったものの、準備期間が短く、現場では混乱が生じた薬局も少なくありませんでした。


もっとも、この変更の本質的な目的は「処方医の意図を正確に反映した調剤を実現すること」にあります。それ自体は患者にとっても医師にとっても望ましいことです。これは使えそうです。


参考:一般名処方マスタの更新内容や変更調剤の考え方が詳説されており、薬剤師向けの実務理解に役立ちます。


ヘパリン類似物質外用液の一般名マスタの分離について徹底解説!|あすやく


ヘパリン類似物質外用液の乳剤性・水性の変更調剤と疑義照会の考え方

一般名コードが分割されたことで、変更調剤のルールも変わりました。この点を正確に理解していないと、誤った調剤や不要な疑義照会を行ってしまうリスクがあります。


基本的な考え方は以下の通りです。処方箋に「【般】ヘパリン類似物質外用液0.3%(乳剤性)」と記載されている場合、薬局は乳剤性の製品を調剤しなければなりません。乳剤性と水性は一般名コードが異なるため、在庫の都合などで水性に変更する場合は疑義照会が必要となります。逆に、水性が処方されている場合も同様です。これが原則です。


では、処方箋に乳剤性の記載がないまま「ヘパリン類似物質外用液」とだけ記載されているケースはどうでしょうか? この場合、コードの特定ができないため、疑義照会を行い処方医に乳剤性・水性のどちらかを確認する必要があります。コードの明確化は調剤の安全性に直結します。


ただし、複数の医療機関や薬局によっては、患者の希望を確認した上で乳剤性から水性、または水性から乳剤性への変更を「問い合わせ簡素化プロトコル」の中に盛り込んでいるケースもあります。たとえば、兵庫県の淡路医療センター版プロトコルでは、患者の希望がある場合の乳剤性⇔水性の変更を可としています。こうした施設間の協定を事前に整備しておくことで、現場の煩雑さを大幅に軽減できます。


また、2025年9月4日付の日本薬剤師会通知(日薬業発第203号)では、疑義照会なしで調剤できる条件が具体的に示されています。チェックリストとして整理すると以下のようになります。


  • ✅ 処方箋に「(乳剤性)」または「(水性)」の記載がある → その区分の製品を調剤する(同一区分内での後発品変更はOK)
  • ✅ 処方箋に区分の記載がない → 疑義照会必須
  • ✅ 在庫不足などで異なる区分へ変更したい → 疑義照会が必要(プロトコル締結がある場合を除く)


参考:日本薬剤師会が都道府県薬剤師会に向けて発出した変更調剤の取り扱い通知です。実務判断の根拠として重要です。


一般名処方マスタの更新について(日薬業発第203号)|広島県薬剤師会


ヘパリン類似物質外用液の乳剤性・水性と選定療養・特別料金の実務注意点

2025年8月の一般名コード分割で最も注意が必要な実務上のポイントが、選定療養における「特別の料金」の徴収可否です。これを正確に把握していないと、本来徴収すべき料金を取りこぼすか、逆に徴収してはいけない場面で徴収してしまうという2つのリスクが生じます。


日本薬剤師会通知(日薬業発第203号)によると、考え方は以下の2パターンに整理されます。


まず①のケースです。処方箋に「【般】ヘパリン類似物質外用液0.3%(乳剤性)」と記載されており、かつ薬局に乳剤性の後発品の在庫がない場合、「医療上の必要性から乳剤性のまま調剤しなければならない」という理由で準先発品(ヒルドイドローション)を調剤したならば、選定療養の「特別の料金」を徴収する必要はありません。特別料金なしが原則です。


次に②のケースです。同じく乳剤性の処方に対し、処方医が水性への変更調剤を可としているにもかかわらず、患者の希望によって乳剤性の準先発品(ヒルドイドローション)を選択した場合は、「特別の料金」を徴収する必要があります。


つまり、「医療上の必要性で仕方なくヒルドイドを使った場合」か「患者が自分で希望してヒルドイドを選んだ場合」かによって、料金の扱いが180度変わります。患者への説明内容と調剤記録を丁寧に残しておくことが、後のトラブル防止に不可欠です。


また、もう1つ見落としやすいのが「水性の後発品が軒並み限定出荷中」という供給状況の問題です。2025年時点で、ヘパリン類似物質外用液の後発品は複数品目が限定出荷または出荷停止状態に置かれており、乳剤性・水性いずれかの在庫確保が困難な薬局も少なくありませんでした。在庫管理の見直しが急務です。


こうした現場の実情を踏まえ、処方医との連携・情報共有を密にすることが、薬局としての対応力強化につながります。また、自院のレセコンが旧来のコード(3339950QZZZZ)のまま乳剤性として一括変換されている設定になっていないかも、必ず確認してください。


参考:ヘパリン類似物質外用液の製品一覧・一般名コード・薬価・先後発情報をまとめて確認できる医薬品データベースです。


ヘパリン類似物質外用液の一般名コード分割|データインデックス