後発品がないのに選定療養の対象にならず、患者負担が増えない薬があります。
ヒドロコルチゾン酪酸エステル軟膏の先発品は、鳥居薬品が製造・販売する「ロコイド軟膏0.1%」です。承認は2008年10月7日、薬価基準への収載は同年12月19日に行われました。成分名のヒドロコルチゾン(hydrocortisone)の「ロコ(lo)」と、ステロイドホルモンの総称「コルチコイド(corticoid)」を組み合わせて「Locoid(ロコイド)」と命名されており、局所作用型コルチコイドという薬の特性がそのまま名前に反映されています。
薬価は軟膏・クリームともに14.9円/gに設定されています。規格は5g製剤と10g製剤があり、1本あたりの薬価はそれぞれ74.5円・149円です。3割負担の患者がロコイド軟膏10gを1本処方された場合、薬剤費のみの自己負担は約44.7円という計算になります。これは原則として医療用医薬品であるため、市販では購入できません。
有効成分のヒドロコルチゾン酪酸エステルは、グルココルチコイド受容体に結合し、皮膚の血管を収縮させることで局所的な抗炎症作用を発揮します。皮膚の赤み・かゆみ・腫れといった炎症症状を抑える働きがあり、アトピー性皮膚炎や各種皮膚炎の治療で広く用いられています。これが基本です。
なお、名称が紛らわしい類薬として「酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン(パンデル、大正製薬)」があります。どちらも「ヒドロコルチゾン」を含む名称ですが、別成分・別ランクの薬剤であり、混同すると処方エラーに直結するため注意が必要です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 販売名(先発品) | ロコイド軟膏0.1%/ロコイドクリーム0.1% |
| 製造販売元 | 鳥居薬品 |
| 一般名 | ヒドロコルチゾン酪酸エステル軟膏 |
| 薬価 | 14.9円/g |
| 規格 | 5g製剤・10g製剤 |
| 先発・後発区分 | 先発品(後発品なし) |
| ステロイドランク | Ⅳ群(ミディアム) |
| 承認年月日 | 2008年10月7日 |
以前はアボコート軟膏0.1%(佐藤製薬)という後発品も存在していましたが、現在は終売となっています。ロコイド軟膏はジェネリックメーカーが製造を中止した結果、先発品のみが残存する状況に至りました。つまり「先発品(後発品なし)」という区分は、競合がなくなった結果として成立しているということです。
参考:ヒドロコルチゾン酪酸エステル軟膏の薬価比較(日経メディカル)
https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/compare/df9472c36b94a53c92716a057f88c932.html
2024年10月より導入された長期収載品に係る「選定療養」制度は、後発品が存在する先発医薬品を患者が希望した場合に、先発品と後発品の薬価差の4分の1を患者自身が追加で負担する仕組みです。例えば先発品が100円、後発品が60円であれば差額40円の1/4にあたる10円を、通常の1〜3割負担とは別に患者が支払います。意外ですね。
ここで重要なのが、ロコイド軟膏(ヒドロコルチゾン酪酸エステル軟膏)は「後発品なし」の区分であるため、この選定療養の対象には含まれないという点です。対象となるのはあくまで「後発品が存在する先発品(長期収載品)」であり、後発品がない薬はそもそも比較の対象がありません。これは選定療養制度を正確に理解していないと、患者への説明で誤案内につながるリスクがあります。
薬局や医療機関での実務上、患者から「先発品を希望したから追加料金がかかるのか」と問われるケースがあります。ロコイドに関しては「後発品が存在しないため、選定療養の対象外であり追加負担はない」と答えるのが正確です。これを混同して「先発品だから追加料金がかかる可能性がある」と説明してしまうと、患者の不信感や処方変更の誤ったリクエストにつながる可能性があります。
一方で、後発品が存在する類薬(例:同じミディアムランクのリドメックスやアルメタなど)は選定療養の対象になり得るため、薬剤師・医師ともに薬剤ごとの後発品の有無を把握しておくことが実務上の判断に直結します。「後発品なし=選定療養なし」が原則です。
参考:厚生労働省・後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39830.html
ステロイド外用薬は強さによって5段階に分類されており、ロコイド(ヒドロコルチゾン酪酸エステル)はⅣ群「ミディアム(Medium)」に位置します。5段階の上から数えると4番目、下から数えると2番目の強さです。同じランクの薬剤には、キンダベート(クロベタゾン酪酸エステル)やアルメタ(アルクロメタゾンプロピオン酸エステル)、リドメックス(酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン)などがあります。
| ランク | 呼称 | 代表的な薬剤例 |
|---|---|---|
| Ⅰ群 | ストロンゲスト | デルモベート、ジフラール |
| Ⅱ群 | ベリーストロング | フルメタ、アンテベート |
| Ⅲ群 | ストロング | リンデロンV、エクラー |
| Ⅳ群 | ミディアム | ロコイド、アルメタ、キンダベート |
| Ⅴ群 | ウィーク | プレドニゾロン、コルテス |
ミディアムランクという位置づけから、ロコイドは皮膚が薄い部位や刺激に敏感な乳幼児・小児に対しても使用できるとされています。これは使えそうです。顔・頸部・腋窩・陰部など皮膚が薄く薬剤の経皮吸収が高まりやすい部位においても、適切な量・期間で使用する限りは比較的安全性が高いと評価されています。小児科・皮膚科で最も処方頻度が高いミディアムクラスのステロイドとして現場での認知度も高い薬剤です。
保険適応のある疾患は以下の通りです。
アトピー性皮膚炎への使用も広く行われており、特に小児の体幹・四肢・顔面の皮疹に対して第一選択として処方されるケースが多いです。ステロイドランクだけで薬剤を判断しがちですが、塗布部位によって実際の吸収率・効果は大きく変動します。顔面では吸収率が体幹の約6倍、陰部ではさらに高くなるため、同じⅣ群でも部位によってはⅢ群相当の効果を発揮することもあります。ランクだけで判断すると不十分ということですね。
参考:日本皮膚科学会 皮膚科Q&A(軟膏とクリームの違い)
https://qa.dermatol.or.jp/qa39/q01.html
ロコイドには軟膏とクリームの2剤形があり、同じ有効成分・同じ薬価でありながら基剤の違いによって使用感・皮膚への浸透性・適応部位のニュアンスが異なります。軟膏は油脂性基剤で水を含まず、皮膚保護・保湿効果が高い一方でべたつきを感じやすいです。クリームはO/W型(水中油型)の乳化基剤で、塗り広げやすくさらっとした使用感が特徴ですが、刺激感が生じる可能性がやや高くなります。
皮膚科の現場では、ロコイド軟膏または同種ステロイド外用薬を保湿剤(ヒルドイドソフト軟膏・白色ワセリン等)と混合して処方するケースがあります。混合調剤には薬剤師として注意が必要な配合変化の問題があります。軟膏同士(油脂性基剤同士)は比較的混合しやすいですが、軟膏とクリームを混合すると乳化が壊れ、安定性が低下するリスクがあります。混合は慎重にが原則です。
具体的には、ロコイド軟膏を白色ワセリンや亜鉛華軟膏と混合する処方は一定の実績がありますが、クリーム剤との混合や、まったく基剤が異なる製剤との混合は配合変化を確認してから対応する必要があります。薬剤師が混合調剤の可否を確認するためには、各メーカーのインタビューフォームや「じほう 軟膏・クリーム配合変化ハンドブック」等を参照するのが実用的です。
参考:マルホ株式会社・皮膚外用剤の基礎知識 混合処方の問題点
ロコイド軟膏(ヒドロコルチゾン酪酸エステル)は比較的安全性が高いとされるミディアムランクの外用ステロイドですが、長期使用・広範囲使用・密封療法(ODT)を行った場合には副作用リスクが上がります。副作用への注意は必須です。
主な局所性副作用として以下が知られています。
禁忌は明確に把握しておく必要があります。
妊婦・授乳婦への使用については、大量・長期・広範囲の使用は避けるという指針が基本です。オムツ装着部位への使用では密封状態になりやすく、吸収が増大するため塗布量を通常より少なめにすることが推奨されています。また乳幼児は皮膚の体表面積比が成人より大きく、同じ量の薬剤でも全身への影響が相対的に大きくなりやすい点に注意が必要です。
もう一点、医療従事者がしばしば見落としがちなのが「ニキビ病変の潜在」です。顔・背中など脂漏部位の湿疹様病変にロコイドを処方した場合、アクネ菌の感染症であるニキビが潜在していると、ステロイドの免疫抑制作用によってニキビが増悪するケースがあります。痒疹や接触皮膚炎との鑑別を十分に行った上で処方することが重要です。厳しいところですね。
参考:ロコイド軟膏0.1% くすりのしおり(患者向け情報)
https://www.rad-ar.or.jp/siori/search/result?n=14854
2024年以降、処方箋の一般名処方が加速しています。ロコイドのように成分名が長いステロイド外用薬においては、一般名処方された処方箋を受け取った薬局での対応に注意が必要です。「ヒドロコルチゾン酪酸エステル軟膏0.1%」と一般名で書かれた処方箋の場合、後発品が現時点では存在しないため、必然的にロコイド軟膏0.1%(先発品)を調剤することになります。
ここで医療従事者が知っておくべき実務上のポイントがあります。処方箋応需時、後発品のない先発品であっても患者には「後発品はないため、この薬は1種類しかありません」という説明が必要です。「後発品に変更できますか?」という患者の質問に対して、「この薬は後発品がないのでこれのみになります」と答えるだけでよいです。選定療養の対象外であることを同時に伝えると、患者の安心感につながります。
また、一般名処方では薬の名称が長くなることから「ヒドロコルチゾン酪酸エステル」と「酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン(パンデル)」の混同が起きやすい点を、処方側・調剤側双方が意識する必要があります。成分名が似ているために疑義照会が必要なケースも出てきます。名称の確認は1工程増やすだけで大きなミスを防げます。
さらに、2008年に承認されたロコイド軟膏は現在も包装表示の変更など継続的なアップデートがあります。2024年4月には包装表示変更が実施されており、院内採用薬の外観確認・薬品名確認のルーティンを定期的に行うことが推奨されます。これだけ覚えておけばOKです。
実務的な対応フローとして整理すると、以下のステップが参考になります。
参考:ステロイド外用剤(皮膚科領域)の一般名処方について(北信総合病院)
https://www.hokushin-hosp.jp/cms/wp-content/uploads/2024/07/ステロイド外用剤(皮膚科領域)の一般名処方についてv.2.pdf
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【第(2)類医薬品】セロナ軟膏(20g(セルフメディケーション税制対象))【セロナ】[ステロイド ミディアム ヒドロコルチゾン酪酸エステル]