同じⅢ群のステロイドでも、顔に塗ると副作用リスクが手足より10倍以上高くなります。
ステロイド外用薬は、抗炎症作用の強さによって日本ではⅠ群(ストロンゲスト)〜Ⅴ群(ウィーク)の5段階に分類されています。この分類は『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2024』でも採用されており、臨床現場における薬剤選択の基準として広く使われています。一方、米国では7段階分類(ultra high potency〜lowest potency)が使用されているため、海外文献を参照する際は注意が必要です。
5段階それぞれの代表的な製剤を以下にまとめます。
| ランク | 英名・強さ | 代表的な製剤(商品名) | 備考 |
|---|---|---|---|
| <strong>Ⅰ群 | Strongest(最も強い) | デルモベート®、ダイアコート® | 医療用のみ。OTC販売なし |
| Ⅱ群 | Very Strong(非常に強い) | アンテベート®、フルメタ®、マイザー®、リンデロンDP®、トプシム®、ネリゾナ®、テクスメテン®、パンデル® | 医療用のみ。OTC販売なし |
| Ⅲ群 | Strong(強い) | リンデロンV®、ベトネベート®、メサデルム®、ボアラ®、エクラー®、フルコート® | OTC(市販)あり |
| Ⅳ群 | Medium(普通) | ロコイド®、アルメタ®、キンダベート®、リドメックス®、オイラゾン® | OTC(市販)あり |
| Ⅴ群 | Weak(弱い) | プレドニゾロン®、ヒドロコルチゾン | OTC(市販)あり |
Ⅰ群・Ⅱ群のストロンゲストとベリーストロングは医療用医薬品のみの取り扱いです。ドラッグストアで購入できるOTC医薬品は、Ⅲ群(ストロング)以下の3ランクに限られています。つまり、強力な2ランクは必ず医師の管理が条件です。
なお、医薬品のチューブにはランクの表示がないケースが多く、現場での混乱や取り間違いが起きやすい点も現実です。患者への服薬指導の際には、「手足用」「顔用」などのシールを活用する工夫も有効です。これは使えそうですね。
参考:日本皮膚科学会によるアトピー性皮膚炎診療ガイドライン(2024年版)が公開されており、ランク選択の基準が記載されています。
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2024(日本皮膚科学会)|ランク選択の根拠やプロアクティブ療法の推奨がまとめられています
ランクを正しく選ぶためには、「皮疹の重症度」だけでなく「塗る部位」を必ず考慮する必要があります。これがランク選択の原則です。
ステロイド外用薬の皮膚吸収率は、部位によって大きく異なります。前腕(腕)を基準値1.0とした場合の吸収率は以下のとおりです。
| 部位 | 腕を1とした吸収率 | ランク選択の目安 |
|---|---|---|
| 🔴 陰部(陰嚢) | 42倍 | 原則としてⅤ群(ウィーク)以下 |
| 🔴 顎・下顎部 | 13倍 | Ⅳ群(ミディアム)以下を推奨 |
| 🟠 前頭部(おでこ) | 6倍 | Ⅳ群(ミディアム)以下を推奨 |
| 🟠 頭皮 | 3.5倍 | Ⅲ〜Ⅳ群で検討 |
| 🟡 背部 | 1.7倍 | 症状に応じてⅡ〜Ⅲ群 |
| 🟢 前腕(腕) | 1.0(基準) | 症状に応じてⅡ〜Ⅲ群 |
| 🔵 足の裏 | 0.14倍 | Ⅰ〜Ⅱ群を使うことも |
陰部の吸収率42倍という数値は非常に重要です。腕に対してハガキ1枚分の面積に塗った場合でも、陰部では同じランクの薬が40枚分以上に相当する量を体内に届けるイメージです。副作用リスクを理解した上でランクを選ぶ必要があります。
足の裏は逆に吸収率が0.14倍と非常に低く、角質層が厚いため薬が届きにくい部位です。そのため、手掌・足底の角化型病変にはあえてⅠ〜Ⅱ群の強いランクを選択することが合理的な場合もあります。強いから危険とは限りません。
顔には原則ミディアム(Ⅳ群)以下を使うことが推奨されていますが、眼周囲には特に注意が必要です。眼周囲へのステロイド塗布は眼圧上昇や緑内障のリスクが高まることが知られており、ランクが高いほど・塗布期間が長いほどリスクが増します。これは必須の知識です。
参考:部位別の吸収率と使用上の注意がわかりやすく解説されています。
身体の各部位のステロイドの吸収の違いは?(シオノギヘルスケア)|部位別吸収率と1ランク弱いステロイドを使う場面について解説
ランク分類では同じ群に分類されていても、「剤形(基剤)の違い」によって実際の薬効や副作用の強さが変わります。これはランク一覧だけを見ていると見落としやすいポイントです。意外ですね。
剤形には主に軟膏・クリーム・ローション・ゲル・テープ剤などがあります。皮膚への刺激性と吸収のしやすさは概ね以下の傾向があります。
- 軟膏:刺激性が最も低く、びらん部位・傷がある部位にも使いやすい。ただし、べたつきが強い
- クリーム:軟膏より伸びがよく広範囲に使いやすい。ただし、刺激性は軟膏より高い。ただれ・びらんには使いにくい
- ローション:頭皮など毛髪部位に使いやすい。さらっとした使用感。刺激性は3剤形の中で最も高い
- テープ剤(エクラープラスター等):密閉効果で吸収が大幅に高まる。OTD(閉鎖密封療法)と同様の効果で、使用部位と使用期間の管理が特に重要
一般的に「軟膏<クリーム<ローション」の順で皮膚への刺激性が強くなります。刺激性が基本です。
また、保湿剤との混合について補足しておきます。「保湿剤と混ぜると効果が薄まる」と誤解している患者も少なくありませんが、2〜4倍程度に希釈したくらいではステロイドの抗炎症作用は弱まらないことが分かっています。混合しても効果は変わりません。ただし、むやみな混合は皮膚刺激や配合変化のリスクもあるため、処方意図を確認した上で対応することが大切です。
参考:剤形の違いと混合処方に関する詳細な解説は以下でも確認できます。
早見表あり:ステロイド外用薬の使い分けのポイントと強さランク(m3.com薬剤師)|保湿剤との混合でランクが変わらない根拠と剤形選択のポイントが詳しく解説されています
ランクを正しく選んでも、塗布量が不適切だと効果が得られません。これが服薬指導で見落とされやすいポイントです。
「FTU(フィンガーチップユニット)」は、塗り薬の適切な使用量を示す指標です。口径5mmのチューブから、大人の人差し指の先端〜第一関節まで押し出した量が1FTUで、重量にすると約0.5gに相当します。この1FTUで、大人の手のひら2枚分(体表面積の約2%)の面積を塗ることができます。
| 部位 | 成人の目安FTU量 |
|---|---|
| 顔&首 | 2.5 FTU |
| 上肢(片側) | 3 FTU |
| 下肢(片側) | 6 FTU |
| 体幹(前面) | 7 FTU |
| 体幹(背面) | 7 FTU |
副作用を恐れて「薄く少なく塗る」患者は非常に多く、これが治療効果の低下・症状の長期化につながります。適量を守れば過度な心配は不要です。
目安として「塗った後に皮膚がしっとりする程度」の量が必要とされています。薄くのばしすぎるとムラが生じ、炎症の回復が遅れます。FTUという具体的な指標を服薬指導で積極的に使うことが、患者のアドヒアランス向上につながります。
なお、ローションの場合は1円玉大の量が1FTUの目安です。ローションは異なる基準が条件です。小児ではFTUの量も年齢・部位によって異なるため、小児への指導時は特に注意して情報提供することが必要です。
参考:FTUの概念と部位別の使用量目安は以下で確認できます。
皮膚用薬(塗り薬)ってどのくらいの量を塗るのがいいの?(第一三共ヘルスケア・ひふ研)|FTUの図解と部位別使用量が詳しく説明されています
従来のステロイド外用療法(リアクティブ療法)は「症状が出たら塗る、治ったらやめる」というアプローチでした。しかし、アトピー性皮膚炎の患者では「治ったように見える皮膚」にも微弱な炎症が残存していることが多く、すぐに再燃してしまうというサイクルが繰り返されがちです。痛いところですね。
これに対して「プロアクティブ療法」は、以下のステップで再燃を未然に防ぐ治療戦略です。
- ステップ①(寛解導入期):ステロイド外用薬を連日塗布し、まず炎症を完全にコントロールする
- ステップ②(維持期):炎症が落ち着いた後も、週2〜3回の間欠的な塗布を継続。保湿スキンケアを並行して行う
- ステップ③(長期安定):最終的に保湿剤のみで皮膚の安定を維持できる状態を目指す
『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2024』でも推奨されているこの療法では、週2〜3回のステロイド塗布を一定期間続けても副腎機能に不可逆的な影響は生じないことが確認されています。長期安全性が示されているということですね。
重要なのは「プロアクティブ療法で使用するランクは、必ずしも高強度である必要はない」という点です。寛解導入時に使ったランクをそのまま週2〜3回に減らすケースもあれば、1段階下のランクに切り替えてから維持するケースもあります。ランクの選択は継続管理でも常に見直すことが原則です。
プロアクティブ療法の知識を持っているかどうかで、患者の再燃頻度と治療満足度が大きく変わります。これは使えそうです。ランク一覧を「初期選択のツール」としてだけでなく、「長期管理の中でどう動かすか」という視点で活用することが、より質の高い服薬指導につながります。
参考:プロアクティブ療法の実際のステップと根拠については下記で詳しく確認できます。