損傷皮膚に塗ると、尿素の吸収率が正常皮膚の約6倍になり患者に強い副作用が出ます。
ケラチナミンは1977年5月に「ケラチナミンコーワ軟膏」として販売が開始された、歴史ある角化症治療剤です。その後、2005年に医療事故防止を目的とした厚生省医薬安全局長通知第935号に準拠し「ケラチナミンコーワ軟膏20%」へと販売名が変更されました。
さらに2012年2月、第十六改正日本薬局方の製剤総則の改正に伴い、剤形の整理が行われました。これにより現在の「ケラチナミンコーワクリーム20%」という販売名に落ち着いています。軟膏とクリームは製剤的に異なる剤形ですが、今日でも「ケラチナミン軟膏」という呼称が現場で広く使われ続けているのが実情です。
最新の添付文書は2023年5月改訂(第1版)です。これは旧来の記載要領から2019年施行の新たな添付文書記載要領に対応した改訂で、項目構成や表記が整理されています。医療従事者は必ずPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)の医薬品情報検索ページで最新版を確認することが求められます。
添付文書が更新される前の古い情報を参照し続けることには、見落としリスクがあります。特に注意が必要な点をまとめると下記の通りです。
| 変更年 | 内容 |
|---|---|
| 2005年 | 販売名を「コーワ軟膏20%」へ変更 |
| 2012年2月 | 剤形の日局改正に伴い「コーワクリーム20%」へ変更 |
| 2023年5月 | 新添付文書記載要領(2018年版)に準拠した第1版へ改訂 |
「ケラチナミン軟膏」という旧称が根強く使われているため、処方箋や記録に記載する際は正式な販売名「ケラチナミンコーワクリーム20%」を使うことが基本です。
参考:ケラチナミンコーワ軟膏20% 販売名変更のご案内(興和株式会社)
https://medical.kowa.co.jp/asset/pdf/info/kco_1206.pdf
添付文書に記載された効能または効果は、以下の7疾患です。
- 🔹 魚鱗癬(有効率86.9%、122例中106例)
- 🔹 老人性乾皮症(有効率87.9%、157例中138例)
- 🔹 アトピー皮膚(有効率72.3%、159例中115例)
- 🔹 進行性指掌角皮症(主婦湿疹の乾燥型)(有効率68.5%)
- 🔹 足蹠部皸裂性皮膚炎(有効率75.0%)
- 🔹 掌蹠角化症(有効率64.5%)
- 🔹 毛孔性苔癬(有効率55.3%)
729例を対象とした国内臨床試験(二重盲検比較試験を含む)での総合有効率は76.0%(554例)でした。魚鱗癬・老人性乾皮症では特に有効率が高く、87〜88%に達しています。これはコンクリートの表面がコーティングで滑らかになるイメージに近く、肥厚した角質層が薄く整えられていく作用をそのまま数字が示しています。
用法および用量は「1日1〜数回、患部に塗擦する」と規定されており、1回の使用量の上限は設定されていません。これは一見シンプルに見えますが、「1日数回」という幅がある記述は患者説明時に具体的な回数と量を指示する責任が処方医・薬剤師側にあることを意味します。「数回の範囲で適切に指導する」が原則です。
添付文書上、効能または効果に関連する注意事項は設定されておらず、用法および用量に関連する特別な注意も設定されていません。そのため、各疾患で追加の用量調整が必要な条件は記載されていません。ただし、インタビューフォーム(IF)には詳細な薬学的情報が記載されているため、用量に迷う場面ではIFも併せて参照することが有用です。
参考:ケラチナミンコーワクリーム20% 添付文書(KEGG掲載、興和株式会社)
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00060503
添付文書における禁忌(使用してはいけない部位)は一点のみです。「眼粘膜等の粘膜には使用しないこと」、理由は「尿素により粘膜機能を障害する」と明記されています。これが絶対禁忌の全てです。
禁忌が1つしかないからといって安全性が高いとは限りません。
適用上の注意(14項)として、以下の2点が重要です。
- ⚠️ 潰瘍、びらん、傷面への直接塗擦を避けること(14.1.1)
- ⚠️ 本剤を手指につけて眼に触れないこと(14.1.2)
この2点は禁忌ではなく「避けること」という表現ですが、臨床上は禁忌に準じる重大な注意事項です。皮膚科外来で患部を観察せずに「塗ってください」と指示するだけでは不十分であり、傷面の有無を確認することが必要です。
さらに特定の背景を有する患者に関する注意(9.1項)として2点が挙げられています。
| 対象 | 注意内容 |
|---|---|
| 使用部位に炎症、亀裂のある患者(9.1.1) | ぴりぴり感等を生ずる |
| 皮膚刺激に対する感受性が亢進している患者(9.1.2) | ぴりぴり感等を生ずる |
「ぴりぴり感」という副作用が軽微に見えるかもしれませんが、患者への事前説明を怠ると「塗るのをやめてしまう」「自己判断で大量に塗り込む」という行動につながります。これはアドヒアランス低下に直結します。
「ぴりぴり感が出やすい人がいます」の一言が重要です。
参考:ケラチナミンコーワクリーム20% 添付文書PDF(興和株式会社)
https://medical.kowa.co.jp/asset/item/22/4-pt_053.pdf
添付文書の16項(薬物動態)には、医療従事者が見落としがちな重要データが記載されています。まず正常皮膚への吸収率から確認します。
モルモット正常皮膚にケラチナミン(14C-尿素含有、平均18.0〜19.2mg)を塗布した結果、5時間で15.4%、12時間で18.8%、24時間で21.3%の吸収率が確認されました。つまり、正常皮膚では24時間経過しても吸収率は約2割に留まります。
問題は損傷皮膚のデータです。
14C-尿素20%水溶液0.3mLをモルモットの損傷皮膚に5時間塗布したところ、吸収率は90.2%に達しました。正常皮膚の5時間後吸収率が15.4%であるのに対し、約6倍近い数値です。はがきの長辺(約15cm)と新幹線の長さ(約25m)ほどの差があるイメージです。それだけ違います。
この数値が意味することは明確です。潰瘍、びらん、傷面のある患者に誤って本剤を直接塗擦すると、通常の6倍近い尿素が体内に吸収されるリスクがあります。尿素は吸収後に腎臓から排泄されますが(塗布後0〜24時間で吸収量の16.8%が尿中排泄)、損傷皮膚での高吸収が副作用の強度に影響し得ます。
吸収データを知っていれば処方時の患者確認が変わります。
特に、在宅医療や入院中の患者で「傷と乾燥皮膚が混在している」状態では、どの部位に塗布するかを患者や介護者に具体的かつ明確に指示することが求められます。「傷のないところだけに塗る」という1センテンスの指導を加えることで副作用リスクを大きく下げられます。
参考:医薬品インタビューフォーム ケラチナミンコーワクリーム20%(興和株式会社)
https://medical.kowa.co.jp/asset/item/22/1-pi_053.pdf
特定の背景を有する患者への注意事項は、現場での処方判断に直接影響する項目です。添付文書には以下の通り記載されています。
妊婦(9.5): 「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用すること」
有益性優先での使用が認められているため「禁忌」ではありません。ただし、妊娠中の使用については個別の患者状況に応じた処方判断が必要です。「外用薬だから安心」という思い込みは危険ですね。
授乳婦(9.6): 「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」
乳腺部位への塗布が乳汁への移行につながるリスクも念頭に置く必要があります。授乳を継続するかどうかはケースバイケースが原則です。
小児・高齢者: 添付文書には小児や高齢者への特別な制限規定は設けられていません。ただし、高齢者は皮膚バリア機能が低下していることが多く、皮膚刺激感受性が亢進しやすい状態にあります。9.1.2の「皮膚刺激に対する感受性が亢進している患者」に該当しやすいため、初回使用時は少量から確認することが実践的な対応です。
| 患者背景 | 添付文書上の記載 | 実際の対応ポイント |
|---|---|---|
| 妊婦 | 有益性>危険性の場合のみ使用 | 使用部位・量を最小限に |
| 授乳婦 | 授乳継続または中止を検討 | 乳腺部への塗布を避ける |
| 小児 | 特記なし | 副作用の訴えに注意 |
| 高齢者 | 特記なし | 刺激感受性の亢進に注意 |
なお薬価は1gあたり4円(2023年時点)で、50g処方の場合の薬価は200円です。3割負担の患者負担額は60円程度であり、費用負担が少ない薬剤と言えます。ジェネリック品への変更でさらなる費用削減も可能です。
参考:ケラチナミン(角化症治療薬)についての医師解説ページ(巣鴨千石皮ふ科)
https://sugamo-sengoku-hifu.jp/medicines/keratinamin.html
添付文書11.2項(その他の副作用)に記載された副作用は、すべて皮膚系の局所反応です。全身性の重篤副作用はなく、この点は医療従事者として患者に説明しやすい特徴のひとつです。
| 発現頻度 | 副作用の内容 |
|---|---|
| 0.1〜5%未満 | ぴりぴり感、紅斑、そう痒感、疼痛、丘疹 |
| 0.1%未満 | 灼熱感、落屑 |
※発現頻度は承認時〜1982年8月までの調査データに基づく。
「0.1〜5%未満」という頻度は、100人使って1〜4人程度に出る可能性があるということです。学校のクラス40人で言えば、1〜2人が感じる可能性があるイメージです。
これらの副作用が生じた場合の対応手順は「観察を十分に行い、異常が認められた場合には使用を中止するなど適切な処置を行うこと」と規定されています。つまり、即刻中止が必須ではなく、状況を観察したうえで判断することが添付文書の趣旨です。
副作用への対応は状況次第、が基本です。
患者向け指導箋(くすりのしおり)では、副作用の症状に気づいたら「担当の医師または薬剤師に相談してください」と記載されています。外用薬の副作用であることを伝えたうえで、自己判断でやめずに相談するよう誘導する説明が、返薬・アドヒアランス低下防止につながります。
また、添付文書上、他剤との相互作用(7項)に関して「設定されていない」とされており、現時点で配合禁忌・相互作用の報告はありません。複数の外用薬を同一部位に使用する場合は、吸収への影響を考慮した使い分けの指導が必要です。この点は添付文書の記載だけでは判断しきれないため、インタビューフォームやMRへの確認が有用な場面もあります。
参考:ケラチナミンコーワクリーム20% くすりのしおり(くすりのしおり患者向け情報)
https://www.rad-ar.or.jp/siori/search/result?n=34749