「軟膏はしっかり擦り込むほど効く」と思っていませんか?実はその塗り方が皮膚炎を悪化させ、患者のアドヒアランスを46.9%まで下げていることが報告されています。
軟膏の塗り方を語るうえで最初に押さえるべきは、「塗布(単純塗布)」と「塗擦」の違いです。これは医療用医薬品添付文書に明記されており、看護師が日常の与薬業務で必ず確認しなければならない基本事項です。
「塗布」とは、軟膏やクリームを患部の表面に優しく塗り広げるだけの方法です。一方「塗擦」とは、薬剤を皮膚にしっかりと擦り込む方法で、インドメタシンクリームや尿素クリームなど、経皮吸収を促進したい薬剤に適用されます。皮膚疾患に使用するステロイド外用剤の大多数は「塗布」が正しい用法であり、擦り込むと角層が損傷し、吸収量が過剰になって副作用が出やすくなります。
つまり、ほとんどの軟膏は「擦り込む」必要がないということです。
皮膚科領域の文献(丸大製薬・皮膚外用剤の基礎知識)では、塗擦回数が増えるほど薬剤の皮膚内濃度が上昇し、60回塗擦は10回塗擦より有意に抗炎症効果が強くなることも報告されています。しかしそれと同時に、副作用リスクも比例して上昇します。顔面など角層が薄い部位で塗擦すると角層が損傷し、さらに吸収が促進されるという悪循環を招きます。
| 塗り方 | 方法 | 代表薬 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 塗布(単純塗布) | 優しく塗り広げる | ステロイド外用剤、ヒルドイド軟膏など | 擦り込まない。力を入れない。 |
| 塗擦 | 皮膚に擦り込む | インドメタシン軟膏、尿素クリームなど | 添付文書で必ず確認。顔面は禁忌に近い。 |
看護師として患者に指導する際は、「やさしくのせるように」「皮膚の表面に広げるだけ」という言葉で伝えると理解されやすくなります。これが原則です。
参考:塗布と塗擦の違いと塗布量・塗布回数に関する詳細
軟膏の塗布量は、治療効果に直結します。量が少なすぎると薬剤は十分な効力を発揮できず、逆に多すぎると副作用リスクが高まります。この「適切な量」を視覚的に示す指標が「FTU(Finger Tip Unit:フィンガーチップユニット)」です。
1FTUとは、口径5mm程度のチューブから人差し指の指先を第一関節まで絞り出した量のことで、約0.5gに相当します。この1FTUで、成人の手のひら2枚分(指を含む)の面積を塗布できます。手のひら2枚分は体表面積の約2%に相当するイメージです。
🖐️ 手のひら2枚分=ほぼA5用紙1枚分の広さ、と覚えておくと判断がしやすいです。
部位ごとの1回塗布に必要なFTUの目安(成人)は以下の通りです。
注意が必要なのは、日本市場では5gや10gの小型チューブが多く流通しており、これらは口径が小さいため「1FTUを指に絞り出しても0.5gにならない」という問題があることです。5gチューブでは約0.2g程度、10gチューブでは約0.3g程度しか取れません。1FTUが0.5gになるのは25gチューブのみです(大谷道輝ら、2010年)。
これは現場の看護師にとって重要な知識です。患者に「1FTUを目安に」と指導しても、使っているチューブのサイズによって塗布量が全然違うことになります。指導の際はチューブの規格を必ず確認してから説明しましょう。
また、1日の塗布量が10FTU(5g)を超えると、アドヒアランスが約50%程度まで下がるという報告もあります(Zaghloul et al., 2004)。アドヒアランスが低下すると継続治療が困難になるため、保湿剤のような広範囲かつ多量に塗る薬剤では、患者の負担を意識した指導が必要です。これが条件です。
参考:FTUを活用した外用薬の適切な塗布量について(医療者向け解説)
ステロイド外用薬の塗り方、正しく伝えていますか?—FTUという考え方(note)
実際に軟膏を塗布するにあたっては、手技の流れを体系的に把握しておくことが大切です。以下に、看護技術として標準的な軟膏塗布の手順と観察ポイントをまとめます。
<strong>【塗布前の確認・準備】
手袋着用は感染予防のためだけでなく、ステロイドなどの経皮吸収性薬剤から施行者自身を守る目的もあります。素手で塗布すると看護師の皮膚から薬剤が吸収され、思わぬ副作用を引き起こす可能性があります。これは意外と見落とされがちです。
【塗布中の実施】
広い範囲に塗布する場合の「数カ所に置いてから伸ばす」という手技は重要です。一点から広げようとすると、最初に薬が置かれた部分だけ過剰塗布になり、離れた部位では不足するムラ塗りが生じます。ハガキ1枚分(約A6サイズ)の面積なら2〜3カ所に分けて置くことを意識すると、均一な塗布が実現しやすくなります。
【塗布後の観察】
経過観察を継続することが治療の質を守ります。
参考:軟膏塗布の手順と観察ポイントの動画解説
軟膏の塗布・湿布の貼付 | 動画でわかる看護技術(看護roo!)
皮膚科領域で最も頻用される外用薬のひとつがステロイド外用剤です。看護師は自ら塗布するだけでなく、患者や家族に正しい使い方を指導する役割も担います。ここでは、現場で使えるステロイド外用薬の指導ポイントを整理します。
まず、ステロイドのランクについて理解しておくことが必要です。日本では5段階(Strongest・Very Strong・Strong・Medium・Weak)に分類されており、顔や陰部・小児の皮膚には弱いランクのものが使用されます。ランクが高いほど皮膚萎縮・毛細血管拡張・感染症リスクが高まるため、塗布部位と強さのマッチングを正しく確認してから使用します。
次に、ステロイドと保湿剤を重ねて使う場合の塗る順番についてです。正しくは「保湿剤を先に広く塗り、その後でステロイドを患部だけに塗布する」順番です。逆にステロイドを先に塗ると、その後の保湿剤塗布の際に手がステロイドを正常皮膚にまで広げてしまい、副作用が出やすくなります。順番が大切ですね。
患者指導で押さえておきたいのが「ステロイドフォビア(ステロイド恐怖)」の問題です。患者が「ステロイドは怖い」という思い込みから指示量より少なく塗布してしまい、治療効果が出ないという状況は非常によく見られます。ステロイド外用剤は適切な量・部位・期間で使用する限り局所副作用のリスクは限定的であること、そして少なく塗ることで炎症が長引き、結果的に総使用量が増えることを患者に丁寧に説明する必要があります。
また、外用薬の1日塗布量が多いほどアドヒアランスが低下するデータがあるため、「続けやすい指導設計」も看護師の重要な役割です。1日2回の指示の場合は「朝の洗顔後と就寝前」のように患者のライフスタイルに合わせた具体的なタイミングを示すだけで、アドヒアランスは大きく向上します。これは使えそうです。
参考:ステロイド外用療法の基礎と患者指導に関する看護の視点
外用療法|皮膚科の治療①(看護roo! 看護知識)
一般の皮膚炎と大きく異なるのが、褥瘡や感染を伴う創傷への軟膏塗布です。創傷状態に応じて使用する薬剤・塗り方・頻度がまったく変わるため、看護師は創の状態評価と薬剤選択の根拠をセットで理解しておく必要があります。
【褥瘡ステージ別の外用薬と塗布のポイント】
褥瘡治療外用剤で「1日1回」と添付文書に記載されているのは、ゲーベンクリーム・ブロメライン軟膏・フィブラストスプレーの3種類のみです(大谷道輝ら)。それ以外の多くの製品は「必要に応じて2回以上」となっており、とくに浸出液が多い時期は1日1回では不十分なことがあります。添付文書を確認するのが原則です。
また、感染を伴う褥瘡への軟膏塗布では、「感染創に塗った軟膏を正常皮膚側に広げてしまう」ことが感染拡大リスクになります。スパテラや綿棒を用いて創面の内側から外側へ一方向に塗布し、正常皮膚への汚染を最小化する手技が推奨されます。
さらに、褥瘡の軟膏処置ではガーゼへの軟膏の塗布量にも注意が必要です。浸出液が多い場合に軟膏を薄く塗ったガーゼを使うと、軟膏がすぐに流れてドレッシング材の固着を妨げ、ガーゼが皮膚に張り付いて剥がすときに新生上皮を損傷することがあります。厚めに塗布して非固着性を保つことが創傷管理の基本です。
看護師としての創傷アセスメントに活用できるツールとして、日本褥瘡学会が公開している「DESIGN-R®2020」スケールがあります。
褥瘡の深さ・浸出液・大きさ・炎症感染・肉芽・壊死組織・ポケットの7項目を点数化し、創の経過を客観的に評価できます。軟膏の選択と変更判断を根拠づけるうえで、このスケールを活用することが推奨されます。
参考:褥瘡治療における外用薬の選択と塗布回数の根拠
褥瘡の治療について(日本褥瘡学会公式サイト)