尿素10%クリームは「薄いから安全」と思って炎症部位にも塗ってしまうと、かえって症状を悪化させることがあります。
尿素(urea)は、もともと人体の皮膚にある天然保湿因子(NMF:Natural Moisturizing Factor)の構成成分のひとつです。外用薬として使うときは、配合濃度によって発揮される作用がはっきり変わります。医療現場では10%と20%の2濃度が主流ですが、その使い分けを誤ると患者への不利益につながります。
まず10%以下の尿素クリームは、主に角質層内の水分保持作用が中心です。尿素分子が角質層に取り込まれ、水分を引き寄せて保持する「保湿」に特化した働きをします。乾燥肌全般、アトピー性皮膚炎の維持療法、老人性乾皮症などに適しており、比較的広い部位に使いやすい濃度です。
一方、10%を超えると角質溶解・剥離作用が前面に出てきます。つまり10%は境界線です。20%の尿素は角質細胞同士の結合を化学的に弱め、肥厚・硬化した角質を溶かして剥がしていく作用が強くなります。この違いが臨床選択の根拠になります。
つまり「濃度が高いほど保湿力が高い」という理解は誤りです。
| 濃度 | 主な作用 | 主な対象部位・疾患 | 代表的な製品名 |
|---|---|---|---|
| 10% | 保湿(水分保持) | 老人性乾皮症、アトピー性皮膚炎、魚鱗癬、進行性指掌角皮症 | ウレパールクリーム10%、パスタロンクリーム10% |
| 20% | 角質溶解・剥離+保湿 | 足蹠部皸裂性皮膚炎、掌蹠角化症、毛孔性苔癬、肥厚爪 | ケラチナミンコーワクリーム20%、パスタロンクリーム20% |
巣鴨千石皮ふ科の公式情報によれば、ウレパールクリーム10%(尿素10%)は、魚鱗癬・老人性乾皮症・アトピー性皮膚炎に対して20%尿素軟膏と効果に差がないことが臨床試験で確認されています。これは重要な事実で、必ずしも高濃度が優れているわけではないことを示しています。
保湿だけが目的なら10%で十分です。
さらに、注意すべき点として、薬剤師が調剤薬局でウレパール(10%)を処方されている患者の求めに応じて20%製剤へ自己判断で変更することはできません。これは薬局での変更が処方変更と見なされるためで、処方医への確認が必須です。
巣鴨千石皮ふ科:ウレパール(尿素製剤)の詳細解説ページ。10%と20%の効果比較やよくある質問が参照できます。
医療従事者が患者指導を行う上で特に重要なのが、使用禁忌の正確な理解です。尿素クリームは「保湿剤」という位置づけで比較的安全なイメージを持たれがちですが、使う部位や状態によっては明確な禁忌があります。
副作用として報告されているものは、ピリピリ感・熱感・そう痒感・潮紅・丘疹などです。これらは多くの場合一過性ですが、症状が持続・増悪する場合は使用中止と医師への相談が必要です。
顔や首などのデリケートな部位では3%程度の低濃度が安全です。
また見落とされやすい注意点として、尿素クリームを乾燥した皮膚に塗っても効果が出にくいということがあります。尿素は水分と結合することで保湿効果を発揮するため、入浴直後や手を洗った直後など、皮膚が湿潤している状態で塗布することが効果的です。乾燥している部位には、塗布前に霧吹きなどで水分を与える工夫も有効です。
それだけ覚えておけばOKです。
日本医薬品情報センターの添付文書情報(PMDAデータベース)では、炎症・亀裂のある患者への使用を「慎重投与」として明記しており、「ぴりぴり感等を生ずる」と記載されています。
日経メディカル:尿素クリーム20%の基本情報ページ。禁忌・慎重投与の詳細が確認できます(医療従事者向け)。
処方選択で迷いやすい、部位別・疾患別の具体的な使い分けをまとめます。
これが選択の基本原則です。
ひとつ独自視点として強調したいのが、「炎症の活動性の確認」という視点です。同じ患者の同じ部位でも、病期によって適切な濃度が変わります。たとえばアトピー性皮膚炎の患者は、寛解期は10%を維持療法として使えますが、急性増悪期(皮膚が赤く腫れている時期)には尿素クリームをいったん中止し、ステロイド外用薬を優先して炎症を沈静化させてから再開するのが原則です。急性期に尿素クリームを継続すると、ステロイドが処方されていても患者が「保湿のため」と両方塗り続けるケースがあります。
患者への説明で「状態が悪い時は一時中止」を明示することが重要です。
医療現場で尿素クリームの応用として知っておきたいのが、ODT療法(Occlusive Dressing Technique:密封療法)との組み合わせです。これは尿素クリームを塗布した後、ラップやフィルムドレッシングで密封することで、浸透効率と角質軟化効果を飛躍的に高める手法です。
特に有用性が報告されているのが、肥厚爪のケアへの応用です。加齢や爪白癬により爪が著しく肥厚した場合、通常のニッパーでの爪切りでは患者が疼痛を訴えることがあり、無理に切ろうとすると爪に亀裂が入るリスクもあります。
国立病院機構徳島病院の看護研究(2020年)では、寝たきりの患者5名に対して尿素20%クリーム(ケラチナミンコーワ)を用いたODT療法を4週間毎日実施した結果が報告されています。具体的な方法は、スプーンすりきり1杯分(縦1.4cm×横1.25cm×厚さ0.2mm)を爪母から爪先に向かって塗りこみ、ラップで密封するというものです。
結果として、5名全員の爪が軟化し、疼痛を伴わずに爪切りが可能になりました。また右第1趾の爪の厚みは平均3mm薄くなり、左第1趾では平均1.8mm薄くなりました。これはリハビリ部門や在宅医療現場での看護ケアにも活用できる知見です。
これは使えそうです。
ODT療法の実施にあたっては以下の点に注意が必要です。
国立病院機構徳島病院:「尿素20%クリームを用いた下肢肥厚爪の爪ケア」(PDF)。ODT療法の実施手順と5名の臨床結果を確認できます。
医療従事者が日常業務で直面しやすい、処方・調剤上の実務的な注意点を整理します。
まず薬価についてです。処方薬として使用する場合の薬価は、製品によって異なりますが、一例としてウレパールクリーム10%は3.9円/gで、50gチューブ1本あたり195円(薬価)です。ジェネリックの尿素クリーム20%「日医工」(25gチューブ)では約46.5円で、3割負担の患者負担額は約14円と非常に低廉です。
患者への経済的負担が低い薬であることが原則です。
一方で市販薬との使い分けについても理解が必要です。医療用のウレパールと「ウレパールプラス(市販品)」は同一製品ではありません。市販のウレパールシリーズにはかゆみ止め成分が追加で配合されており、適応も「かゆみを伴う乾燥性皮膚」に限定されています。医療用ウレパールの代替として市販薬を患者に自己購入させることは適切ではありません。
また、処方箋に「ウレパールクリーム10%」と記載がある場合、調剤薬局でケラチナミンコーワクリーム20%など別濃度の製品への変更はできません。これは単純なジェネリック変更ではなく、別の規格(濃度)への変更は処方変更に該当するためです。患者から「薬局で20%に変えてもらえないか」と聞かれた際は、処方医への確認・照会が必要と案内してください。
さらに、尿素クリームをステロイド外用薬と併用する場面での塗る順番も実務上の注意点です。一般的には、皮膚の炎症がある部分にはステロイドを先に塗り、その後に尿素クリームを重ねるのが基本ですが、薬剤の特性や処方意図によって順番が変わる場合もあります。患者から「どっちを先に塗ればいい?」と質問を受けた際は、処方した医師の指示を確認するよう案内するのが安全です。
| 製品名 | 尿素濃度 | 分類 | 薬価(1g) | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| ウレパールクリーム10% | 10% | 処方薬 | 3.9円 | 先発品。ローション剤も同価格 |
| パスタロンクリーム10% | 10% | 処方薬 | 約3.9円 | 先発品 |
| ケラチナミンコーワクリーム20% | 20% | 処方薬・市販薬(OTC) | 約4.0円(処方薬) | ODT療法研究での使用実績あり |
| 尿素クリーム20%「日医工」 | 20% | 処方薬(後発品) | 約1.9円 | 25gで約46.5円。患者負担が低い |
| ウレパールプラスクリーム | 10% | 市販薬(第2類) | — | かゆみ止め成分含む。医療用の代替不可 |
なお、医療用の尿素クリームを通販サイトや個人輸入で入手することは避けるべきです。厚生労働省は、個人輸入薬による健康被害は医薬品副作用被害救済制度の対象外であると明示しています。患者への個人輸入の勧めは行わないようにしてください。
くすりのしおり(RAD-AR):尿素クリーム20%の患者向け情報。用法・用量と注意事項の確認に活用できます。

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