かゆみがない水虫を「水虫ではない」と判断すると、患者の約2人に1人を見逃すことになります。
水虫とは、白癬菌(Trichophyton属などの皮膚糸状菌)が皮膚や爪の角質層に感染することで発症する表在性皮膚真菌症です。医学的な正式名称は「白癬(はくせん)」であり、感染部位によって呼び名が変わります。
日本臨床皮膚科医会が2023年に実施した大規模疫学調査(Foot Check 2023)では、水虫の診察以外の目的で皮膚科外来を受診した患者1万4,588人の足を調査したところ、足白癬の潜在罹患率は13.7%、爪白癬は7.9%、足白癬または爪白癬のいずれかを有する潜在患者は実に16.6%、すなわち6人に1人にのぼることが判明しました。
これは予想以上に高い数値です。白癬菌は感染者から剥がれ落ちた角質(垢・フケなど)を介して人から人へと感染します。公衆浴場・プール・スポーツジムの更衣室・家庭内のバスマットやスリッパなど、日常のあらゆる場面に白癬菌は存在しています。
白癬は感染部位によって以下のように分類されます。
| 分類名 | 俗称 | 発症部位 |
|---|---|---|
| 足白癬 | 足の水虫 | 足底・趾間 |
| 手白癬 | 手の水虫 | 手のひら・指間 |
| 爪白癬 | 爪の水虫 | 手足の爪 |
| 体部白癬 | たむし・ぜにたむし | 体幹・四肢 |
| 股部白癬 | いんきんたむし | 鼠径部・臀部 |
| 頭部白癬 | しらくも | 頭皮・毛髪 |
皮膚科新患のうち約13.8%が皮膚真菌症で、そのほぼ全数が表在性であり、白癬がその87.1%を占めます(日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン2019)。日常診療での頻度は非常に高いということですね。
日本皮膚科学会 皮膚真菌症診療ガイドライン2019(PDF)|有病率・治療推奨度の根拠データを収録
足白癬は白癬全症例の57〜63%を占め、最も頻度の高い白癬です。臨床型は大きく3つに分かれますが、見た目の印象が大きく異なるため、各タイプの特徴を正確に把握しておくことが重要です。
① 趾間(しかん)型
趾間型は足白癬の中で最も一般的なタイプです。足の指と指の間(特に第4・5趾間)に白い浸軟や落屑、紅斑が見られます。進行すると皮膚がただれてジュクジュクとした状態(湿潤型)になり、強いかゆみを伴います。乾燥して皮膚が剥がれ落ちる乾燥型も存在します。
高温多湿の季節に悪化しやすく、サッカーやバスケットボールなどのスポーツ選手、革靴を長時間履く職業の方に多い傾向があります。
② 小水疱型(しょうすいほうがた)
足の側縁や土踏まずを中心に、1〜2mm程度の小さな水疱が多数出現します。かゆみが強いのが特徴です。患者が来院する時点では水疱がすでに破れていることも多く、落屑(鱗屑)として残っている状態で確認されます。趾間型と混在するケースも少なくありません。
経験のある医師でも「見ただけでは判断できない」と言われるほど、見た目だけでの確定診断は難しいです。
③ 角質増殖型(かくしつぞうしょくがた)
足底全体の角質が肥厚・硬化し、白色〜黄白色の鱗屑を伴います。冬季にはひび割れ(皸裂)を起こして痛みが出ることもあります。最も重要な特徴は「ほとんどかゆみがない」という点です。
かゆみがないため、患者本人が「ただの乾燥肌」「年齢のせい」と思い込み、受診せずに放置するケースが非常に多いです。また、外用薬のみでは治癒が困難で、内服抗真菌薬の適応を検討する必要があります。日本皮膚科学会のガイドラインでも、角質増殖型には外用薬単独ではなく内服療法(テルビナフィンなど)の選択を推奨しています。
つまり、角質増殖型は「水虫とは思われていないのに実は水虫だった」という典型例です。
日経Gooday|水虫の9割はかゆくない──埼玉医科大学教授 常深祐一郎氏による誤解の解説。足白癬3型の詳しい説明あり
爪白癬は全白癬症例の約28〜34%を占め、足白癬に次いで頻度の高い白癬です。日本皮膚科学会ガイドライン2019では、爪白癬は国際分類に従い5つの病型に分けられます。
| 病型 | 英略称 | 特徴 |
|---|---|---|
| 遠位側縁爪甲下真菌症 | DLSO | 最多。爪の先端・側縁から白濁・肥厚が進行 |
| 表在性白色爪真菌症 | SWO | 爪表面に白い点状〜斑状の白濁が生じる |
| 近位爪甲下真菌症 | PSO | 近位爪郭から侵入。比較的まれ |
| 全異栄養性爪真菌症 | TDO | 爪甲全体が侵され崩壊する末期型 |
| 内爪白癬 | EO | 爪全層が侵されるが肥厚は目立たない |
爪白癬で最も多いのはDLSOで、爪甲が先端から白〜黄色に混濁し、次第に爪甲下角質増殖(爪の裏側のがさつき)が起こります。放置すると爪が厚くなって変形し、最終的にTDOへ移行します。
重要なのは「爪白癬は視診だけでは確定診断できない」という事実です。爪変形の原因は、掌蹠膿疱症・尋常性乾癬・扁平苔癬・厚硬爪甲など多岐にわたります。確定診断には必ず直接鏡検(KOH法)が必要です。
また、爪白癬の原因菌は白癬菌だけとは限りません。Aspergillus属・Fusarium属・Acremonium属など、白癬菌以外が原因となる「非白癬性爪真菌症」が爪真菌症全体の1.45〜17.6%を占めるという報告もあります。これは使えそうな情報ですね。
治療については、外用薬(エフィナコナゾール爪外用液、ルリコナゾール爪外用液)も保険適用になりましたが、完全治癒率は内服療法(テルビナフィン125mg/日・6カ月間、またはイトラコナゾールのパルス療法)に比べて低く、可能であれば内服を第1選択とすることが推奨されています。60歳以上では爪白癬の有病率が約40%に達するとも報告されており、高齢者ケアの現場では特に注意が必要です。
佐藤製薬|皮膚科医による爪水虫解説ページ。爪白癬と似た疾患の比較写真あり
足や爪以外に発症する白癬についても、現場での対応ために理解を深めておきましょう。
体部白癬(たむし・ぜにたむし)
うぶ毛の生えている体幹・四肢の皮膚に発症します。環状(リング状)の紅斑が広がり、辺縁は活動性が高く水疱や落屑を伴います。中央部は比較的軽快しているように見えるため、「リングが広がっていく」ような外観が特徴です。かゆみを伴います。
原因としては、同居者や格闘技選手との接触、ペット(犬・猫・ウサギ)からの感染などが知られています。犬・猫由来の白癬菌(Microsporum canis)による感染は、炎症が強く出やすい傾向があります。
股部白癬(いんきんたむし)
鼠径部・陰部・臀部など股間周辺に発症します。体部白癬と同様に環状の紅斑が特徴です。陰嚢には症状が出にくいのが、カンジダ性間擦疹との重要な鑑別ポイントとなります。足白癬から二次的に広がるケースも多く、足白癬の治療と並行して行うことが原則です。
頭部白癬(しらくも)
頭皮に大量のフケや円形の脱毛・落屑が生じます。成人では稀で、主に小児(特に幼稚園・小学校低学年)に多く見られます。かゆみが軽微または全くないため発見が遅れがちです。
頭部白癬が特に注意を要するのは、脂漏性皮膚炎・円形脱毛症・乾癬などと見た目が非常に類似している点です。これらの疾患と誤診してステロイド外用剤を使用すると、免疫抑制効果によって白癬菌の増殖が促進されて症状が悪化します。「ステロイド使用で皮疹が悪化した」という病歴があれば、白癬(とくに頭部白癬や体部白癬)を強く疑う根拠になります。
頭部白癬の治療には外用薬では不十分で、内服抗真菌薬(グリセオフルビン、テルビナフィンなど)が必要です。これが原則です。
メディカルノート|帝京大学医学部附属溝口病院 皮膚科科長 清佳浩先生監修の白癬種類別画像解説ページ
これが医療従事者にとって最も実践的な知識といえる項目です。
埼玉県皮膚科医会のデータによれば、「水虫だと思って皮膚科を受診した患者の2〜3人に1人は、実は水虫ではない別の疾患」です。視診だけに頼った診断がいかに危険かがわかります。水虫と誤診されやすい疾患には以下のものがあります。
🔍 汗疱(かんぽう・異汗性湿疹)
手のひら・足底・指腹に1〜2mmの透明な小水疱が多数出現します。強いかゆみを伴い、小水疱型の足白癬と見た目がほぼ同一です。原因はアレルギー反応(金属アレルギーなど)や発汗異常であり、白癬菌との関係はありません。感染性もありません。
注意点として、汗疱と足白癬は同時に合併していることがあります。白癬菌が陽性でも汗疱が背景にある場合、水虫の薬だけでは完治しないことがあります。
🔍 掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)
手のひら・足底に透明〜膿性の水疱が繰り返し出現します。原因は免疫異常(喫煙・金属アレルギーとの関連が示唆される)であり、感染性はありません。白癬菌は検出されません。
🔍 疥癬(かいせん)
ヒゼンダニの寄生による感染症です。足底に水疱が生じると足白癬との鑑別が難しくなります。強いかゆみ(夜間に増悪)と、手首や指間に疥癬トンネルがみられる点が鑑別のポイントです。高齢者施設でのアウトブレイクに直結するため、早期発見が最重要です。
🔍 接触皮膚炎・湿疹
靴・靴下・洗剤などへの接触アレルギーで足に皮疹が生じた場合、水虫と混同されやすいです。抗原の特定と除去が治療の基本となります。
以上のように鑑別疾患は多岐にわたります。日本皮膚科学会のガイドラインでも「直接鏡検を怠ったために診断を誤り、患者に迷惑をかけている例も少なくない」と明記されています。
直接鏡検(KOH法)の基本
皮膚糸状菌症の確定診断には、病変部の角質・爪・毛などを採取し、KOH(苛性カリ)溶液で処理して顕微鏡観察を行います。採取部位は非常に重要で、足白癬では活動性病変の辺縁部、爪白癬では爪甲剝離部や深部角質が適しています。操作自体は数分で完了し、その場で結果が得られます。
皮膚科を受診した患者にできる限りこの検査を実施することが、正確な診断と適切な治療につながります。鑑別に自信がないうちは直接鏡検が条件です。
埼玉県皮膚科医会|「ニセ水虫」異汗性湿疹の解説。水虫と間違われる頻度に関するデータを掲載
白癬の治療は「抗真菌薬の外用または内服」が基本ですが、病型・部位によって推奨される薬剤と治療期間が異なります。薬剤師・看護師・皮膚科以外の医師が患者から相談を受けた際にも役立つ知識です。
外用薬の治療期間の目安(足白癬の場合)
| 病型 | 外用継続期間の目安 |
|---|---|
| 趾間型 | 2カ月以上 |
| 小水疱型 | 3カ月以上 |
| 角質増殖型 | 6カ月以上(内服推奨) |
注意すべきは「症状が消えても塗り続ける」ことです。かゆみや見た目の症状が改善しても、角質層の深部に白癬菌が残存している可能性があります。症状消失後もしばらく継続することが原則です。
爪白癬の治療
内服薬が第1選択です。テルビナフィン(ラミシール®)125mg/日を6カ月間、またはイトラコナゾール(イトリゾール®)のパルス療法(400mg/日を1週間投与・3週間休薬×3サイクル)が代表的です。外用薬のみでは完全治癒率が低いため、内服可能な症例では内服を優先します。
ただし、テルビナフィンはシクロスポリンやシメチジンとの相互作用に注意が必要です。イトラコナゾールはCYP3A4を介した多数の禁忌・注意薬があるため、他科処方の持参薬確認を必ず行います。
体部・股部白癬の治療
外用抗真菌薬が有効で、2〜4週間で改善することが多いです。ただし足白癬を同時に持っている場合は足の治療を並行させないと再発します。これが条件です。
市販薬(OTC)について患者から聞かれたら
市販の抗真菌外用薬はクロトリマゾール・ミコナゾールなどのイミダゾール系を含むものが多く、趾間型・小水疱型の足白癬には有効です。しかし角質増殖型・爪白癬・頭部白癬には市販薬では対処できません。「市販薬で長期間使っても治らない」という患者には受診を強く勧めましょう。
日本皮膚科学会 皮膚科Q&A|白癬の有病率・治療についての公式Q&A