日焼け止めを毎日使う医療従事者は、屋外に出てもビタミンDがほぼ合成されません。
冬になると、太陽の高度が夏よりも大幅に低くなります。これによって、ビタミンD合成に必要なUVB(紫外線B波)が大気圏を通過する距離が長くなり、地面に届く量が激減します。夏に比べて冬の紫外線量はおよそ3分の1以下に落ち込み、ビタミンD生成効率も同様に低下します。
つまり、冬は同じ量のビタミンDを作るのに、はるかに長い時間が必要ということです。
国立環境研究所と東京家政大学の研究チームが発表した数値計算による推定結果が参考になります。夏(7月)の晴天・正午であれば、つくばで約3.5分、那覇で約3分の日光浴で成人の1日分ビタミンD(5.5μg)を生成できます。しかし冬(12月)の晴天・正午になると、那覇で約7.5分、つくばで約22.4分、そして北海道・札幌では76.4分もの時間が必要になります。
これは衝撃的な数字です。
札幌在住の方であれば、冬の正午の日光浴だけで必要量をまかなおうとすると、毎日1時間以上屋外に出続けなければならない計算になります。さらに現実には曇天や雪の日も多く、晴れた日だけに頼るのはほぼ不可能です。北日本の医療従事者は特に、日光浴だけに頼らず、食事やサプリメントで積極的に補うことを考える必要があります。
一般的に言われる「冬の日光浴の目安時間」は地域によって大きく異なり、関東以南では30〜60分程度、北日本では1時間以上が目安とされています。「ちょっと外を歩いた」程度では、冬は到底不足するということが分かります。
参考:ビタミンD生成に要する日照時間の推定(国立環境研究所・学術論文掲載)
https://www.nies.go.jp/whatsnew/2013/20130830/20130830.html
日光浴でビタミンDを効率よく合成するには、時間帯の選択が非常に重要です。ビタミンD生成に必要なUVBは、太陽が高い位置にある時間帯に最も多く地面に届きます。具体的には午前10時〜午後3時の間が最も効率的で、なかでも正午前後がベストとされています。
効率が大切です。
ノルウェーの研究では、「正午前後の短時間日光浴は、夕方に長時間浴びるよりもビタミンD生成量を最大化しつつ、皮膚がんリスクを最小化できる」と報告されています。朝早い時間帯や夕方の日光浴は、UVBの量が少なく、ビタミンD合成の観点では効率が落ちます。冬の限られた日照条件下では、この「正午前後」にこだわることが重要になります。
では冬の日光浴の具体的なやり方はどうすれば良いでしょうか?
冬の日光浴で押さえておきたいポイントは以下の通りです。
「手のひら日光浴」は美容上の懸念が少なく、顔のシミを気にする方にも実践しやすいやり方として医療現場でも推奨されやすい方法です。手のひらと手の甲の面積はおよそ名刺2〜3枚分(約100〜150cm²)。顔も合わせると露出面積が広がり、ビタミンD合成に十分な皮膚表面積を確保できます。
冬は一度にまとめて浴びることが難しい環境でも、分割して浴びることで合計時間を稼ぐことができます。昼休みの数十分を屋外に出る習慣を作るだけでも、ビタミンD合成量に大きな差が生まれます。
室内で窓際の日差しを浴びている方は、安心してはいけません。
実は、一般的な窓ガラスはビタミンD合成に必要なUVBをほぼ完全に遮断します。これは、UVBの波長(280〜315nm)がガラスの材質によって吸収・遮断されるためです。複数の医学的情報源が「窓越しの日光浴ではビタミンD生成の効果はほとんど期待できない」と明言しています。
これは意外ですね。
病院内・クリニック内での勤務が多い医療従事者の場合、窓から外の光が差し込んでいても、ビタミンDはほぼ合成されていません。「窓際で仕事しているから大丈夫」という感覚は、残念ながら誤りです。UVBを通過させるガラスは特殊な素材(石英ガラスなど)に限られており、一般的な住宅・ビルの窓には使われていません。
同様の落とし穴として「服の上から日光を浴びる」があります。冬は厚手の衣類で全身を覆うため、UVBが皮膚に届く面積が極めて小さくなります。特に日本人女性は日焼けを避けるため、夏でも長袖・手袋・日焼け止めを組み合わせる傾向があります。国立国際医療研究センターの調査でも、医療従事者の25.4%が日焼け止めを常用しており、これがビタミンD欠乏リスクと強く関連していることが示されています。
つまり、「外に出ていない×窓越し日光に頼る×日焼け止め常用」の三重の条件が重なると、たとえ夏でも冬でもビタミンDはほとんど合成されません。
ビタミンD生成を目的とした日光浴を行う際は、以下の点を確認しましょう。
参考:ガラス越し日光浴とビタミンD生成についての解説(柏こどもクリニック 院長コラム)
https://kashiwa.child-clinic.or.jp/
ビタミンD不足は「自分には関係ない」と思っている医療従事者は多いかもしれません。しかし、データはその認識を覆します。
国立国際医療研究センターが2023年6月に医療機関職員2,543人を対象に実施した調査(Clinical Nutrition ESPEN掲載)では、ビタミンD不足(血清25(OH)D:20〜29ng/mL)が44.9%、ビタミンD欠乏(20ng/mL未満)が45.9%に達しました。ビタミンD充足(30ng/mL以上)だったのはわずか9.3%です。
9割超が不足・欠乏という状態です。
この調査が6月という「紫外線の多い時期」に行われていることがさらに問題を深刻にします。つまり、最も日光を浴びやすい季節ですら9割超が不足・欠乏しているということは、冬には状況がさらに悪化することを意味します。また、余暇時間に日中屋外で週2時間以上過ごしている割合はわずか9.9%にとどまっており、屋外活動の少なさが大きく影響していることがわかります。
ビタミンD不足・欠乏が長期間続くと、以下のような健康リスクが高まります。
血清25(OH)D濃度が20ng/mL未満の「欠乏」状態では、骨軟化症・くる病・骨粗鬆症などのリスクが高まるだけでなく、ビスホスホネートなどの骨粗鬆症治療薬の効果も十分に発揮されなくなるとされています。医療従事者として患者に対してビタミンD充足を指導する立場であれば、まず自身の状態を把握することが重要です。
ビタミンD充足状態の目安となる血清25(OH)D濃度は30ng/mL以上、望ましくは40〜80ng/mLとされています。自分自身の血中ビタミンD濃度が気になる場合は、健康診断の際などに25(OH)D検査(骨粗鬆症診断目的では2018年9月より保険適用)を追加して確認することができます。
参考:医療従事者の9割超がビタミンD不足・欠乏(Clinical Nutrition ESPEN掲載研究の解説)
https://sndj-web.jp/news/002635.php
冬の日光浴だけではビタミンDを十分に確保することが現実的に難しいケースも多くあります。そこで重要になるのが、食事とサプリメントによる積極的な補充です。
食事から補える点から整理してみます。
日本人の食事摂取基準(2025年版)では、18歳以上の男女ともにビタミンDの1日の目安量を9.0μg(約360IU)、耐用上限量を100μg(4,000IU)と設定しています。ただし、実際にビタミンDの血中濃度を充足レベルに保つには、より多くの摂取が必要との見解もあり、1日1,000〜2,000IU(25〜50μg)程度を目標とする考え方も医療現場では広まっています。
食事でビタミンDを多く摂れる食品は以下の通りです。
食事だけで1,000IUを超えようとすると、毎日鮭を1切れ食べる必要があります。これは現実的に難しい場合もあるでしょう。
そのような場合、日光浴と食事を補完しながら、さらにサプリメントを活用することが一つの選択肢になります。ビタミンDサプリメントは市販品で1日500〜2,000IUのものが多く流通しており、価格も比較的手頃です。ただし、過剰摂取には注意が必要で、上限とされる100μg(4,000IU)を大きく超えるような摂取は高カルシウム血症などの副作用リスクがあります。サプリメントを使用する場合は、定期的な血中25(OH)D濃度の確認が理想的です。
医療従事者であれば、患者指導の参考として自分自身でビタミンD管理の実践例を持つことが、説得力ある医療コミュニケーションにもつながります。冬の時期は特に「日光浴+食事+必要に応じてサプリ」の三本柱で対策を組み合わせることが基本です。
参考:ビタミンDの働きと1日の摂取量(健康長寿ネット・公益財団法人長寿科学振興財団)
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/vitamin-d.html