ハーレー分類HSの病期と治療方針を正しく理解する

化膿性汗腺炎(HS)のハーレー分類(Hurley病期分類)を正しく使えていますか?病期I〜IIIの定義・欠点・他スコアとの使い分け、治療選択まで医療従事者向けに徹底解説。

ハーレー分類HSの病期・重症度・治療を正確に把握する

ハーレー分類で「病期I」と評価した患者に生物学的製剤を導入できず、重症化を1年以上見過ごすケースがあります。


この記事の3つのポイント
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ハーレー分類の定義と限界

1989年提唱の3段階分類。簡便だが病変数・サイズ・部位数を考慮しないため、治療効果判定には不向きという重大な欠点がある。

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IHS4・修正Sartoriusスコアとの使い分け

アダリムマブの適応判断にはハーレー分類(病期II〜III)を用い、治療効果のモニタリングにはIHS4やHiSCRを組み合わせるのが現在の標準的考え方。

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病期別の治療選択と診断遅延リスク

発症から確定診断まで平均7年かかるHSは、診断遅延が重症化につながる。病期に応じた的確な治療選択と多職種連携が予後を左右する。


ハーレー分類HSとは:1989年提唱の3段階病期分類の定義

化膿性汗腺炎(Hidradenitis Suppurativa:HS)は、毛包の慢性・炎症性・再発性の消耗性皮膚疾患です。腋窩・鼠径・臀部・会陰など、アポクリン腺が多い部位に有痛性の結節や膿瘍が繰り返し生じます。


そのHSの重症度を系統的に分類したのが、1989年にHurleyが提唱した「Hurley病期分類(ハーレー分類)」です。世界的に最も広く使用されている重症度スケールであり、今日でも多くの臨床現場・研究・保険診療の基準として用いられています。


分類は以下の3段階です。


| 病期 | 定義 |
|------|------|
| 病期Ⅰ | 単発または多発する膿瘍形成。瘻孔・瘢痕はない |
| 病期Ⅱ | 瘻孔・瘢痕形成を伴う再発性の膿瘍。単発・多発を問わず、離れた解剖学的部位に複数の病変がある |
| 病期Ⅲ | 広範囲またはそれに近い範囲に病変がみられ、互いに交通する瘻孔と膿瘍を形成する |


判断のポイントはシンプルです。「瘻孔・瘢痕があるか」「どのくらいの範囲に広がっているか」の2点を軸に病期を決定します。


ヨーロッパのデータでは、HS患者のうち68.2%が病期Ⅰ、27.6%が病期Ⅱ、3.9%が病期Ⅲと報告されています(Revuzら)。大多数の患者が比較的早期の段階で受診していることがわかります。これは早期介入の機会が多いことも意味しています。


重要な前提として、HSは「汗腺炎」と称されるものの、汗腺の感染症ではありません。自然免疫の活性化を背景にした慢性炎症性毛包性疾患です。病変は通常、深部膿瘍や瘻孔を除いてほぼ無菌であることが確認されています。感染症との誤解が診断遅延を招くことは、臨床上の大きな問題です。


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ハーレー分類HSの欠点と治療効果判定に使えない理由

ハーレー分類は簡便で普及度が高い一方、臨床現場で使う上では無視できない限界があります。これを正しく理解しておかないと、治療評価を誤るリスクがあります。


まず最大の問題点は、瘢痕や瘻孔という「治療しても変化しにくい病変」が病期の決定基準に組み込まれている点です。つまり、アダリムマブ等の生物学的製剤で炎症が劇的に改善しても、すでに形成された瘢痕・瘻孔が残存する限りは病期が下がりません。


改善しているのに数字が変わらない。これは治療効果判定には適さないということです。


次に、病変の「数」「大きさ」「部位数」が分類基準に含まれていません。たとえば病期Ⅱでも、瘻孔が1本の患者と5本の患者では重症度はまったく異なります。にもかかわらず同じ病期Ⅱと評価されてしまうのです。日本皮膚科学会の「化膿性汗腺炎診療の手引き2020」でも、この点が明確に欠点として指摘されています。


さらに、分類が3段階しかないため、治療の有効性をモニタリングする感度が低いという問題もあります。治療前後での病期の変化を追っても、実際の病勢の変化を細かくとらえることが困難です。


こうした限界を補うために、修正SartoriusスコアやIHS4(後述)、HS-PGA(Physician Global Assessment)といった補完的スコアリングシステムが開発されました。欠点を知っておけば使いこなせます。


日本皮膚科学会「化膿性汗腺炎診療の手引き2020」(PDF):ハーレー分類の評価と各スコアの比較を詳述


ハーレー分類HSと他の重症度スコア(IHS4・修正Sartorius・HiSCR)の使い分け

臨床現場では、ハーレー分類を軸にしながら、他のスコアを組み合わせることが標準的な対応です。それぞれのスコアには明確な「役割分担」があります。


IHS4(International Hidradenitis Suppurativa Severity Score System)は、EHSFが開発した現在最も注目される簡便スコアです。算出方法は以下の通りです。


$$\text{IHS4} = (\text{炎症性結節数} \times 1) + (\text{膿瘍数} \times 2) + (\text{瘻孔・排膿路数} \times 4)$$


合計スコアで軽症(3点以下)・中等症(4〜10点)・重症(11点以上)と判定します。瘢痕を評価しないため、修正Sartoriusスコアと比べて薬剤治療の効果判定に有用です。これが使えそうです。


修正Sartoriusスコアは、個々の結節数・瘻孔数・病変距離などを部位ごとに評価する動的スコアです。患者のQOLや医師による全般的評価との相関が高い一方、スコアリングが煩雑で「瘢痕」「2つの病変距離」が含まれるため治療効果が表れにくい点は弱点です。


HiSCR(Hidradenitis Suppurativa Clinical Response)は、アダリムマブ等の臨床試験で使われる治療反応評価の主指標です。治療後に膿瘍+炎症性結節の総数が50%以上減少し、かつ膿瘍と瘻孔の数が増加しないことを達成とみなします。生物学的製剤の臨床評価に不可欠な指標です。


まとめると、実臨床での活用場面は次のように整理できます。


- 治療方針の決定・保険適用の確認 → ハーレー分類(病期II〜IIIがアダリムマブ適応の基準)
- 治療効果のモニタリング → IHS4、HiSCR
- 包括的な重症度の記録・研究 → 修正Sartoriusスコア


用途に応じて使い分けることが実際の診療精度を高めます。


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ハーレー分類HSの病期別・具体的な治療方針とアダリムマブの適応基準

ハーレー分類は治療効果の判定には不向きですが、治療方針の選択・保険適用の判断には直接使われます。病期ごとの標準的治療を正確に把握しておくことが、日常診療での対応スピードを大きく左右します。


🔵 病期Ⅰ(膿瘍のみ・瘻孔・瘢痕なし)の治療


抗菌薬の外用(クリンダマイシン1%溶液を1日2回)、コルチコステロイドの病変内注射、テトラサイクリン系やドキシサイクリンなど経口抗菌薬の短期投与(7〜10日間)が中心です。レゾルシノール15%クリームや過酸化ベンゾイルによる洗浄も有効とされています。病期Ⅰは基本、外用+経口薬でのコントロールが原則です。


🟡 病期Ⅱ(瘻孔・瘢痕を伴う再発性膿瘍)の治療


経口抗菌薬をより長期(2〜3ヶ月)投与します。反応不十分な場合はクリンダマイシン+リファンピシンの併用が選択肢となります。女性では抗アンドロゲン療法(スピロノラクトン、混合型経口避妊薬など)の上乗せが有効です。パンチデブリドマン(5〜7mmパンチ器具による切除後の掻爬)、または瘻孔のunrooingも施行されます。


重要なのが、アダリムマブ(ヒュミラ®)の保険適用が「既存の治療が無効なハーレー分類 病期II〜III」を対象としている点です。2019年2月に承認され、日本では2021年に実臨床への普及が拡大しました。病期Ⅱで既存治療に反応しない症例に対して、生物学的製剤導入の検討が必要です。


🔴 病期Ⅲ(広範な交通瘻孔・膿瘍)の治療


より積極的な内科的・外科的治療が不可欠です。生物学的製剤(アダリムマブ、インフリキシマブ、セクキヌマブ)が選択されます。特にインフリキシマブはエビデンスが最も強いとされています。また外科的な広範囲切除と植皮または修復が必要となるケースも少なくありません。CO2レーザーやEr:YAGレーザーによる外科的治療も選択肢に入ります。


厳しいところですね。病期Ⅲまで進展した患者は、複数科の連携が不可欠です。


なお、すべての病期に共通する補助的指導として、良好な皮膚衛生の維持・外傷の最小化・禁煙指導・減量支援・高血糖食の回避・心理的支援があります。


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ハーレー分類HSでの日本の特徴と診断遅延・QOLへの影響

HSは欧米では女性に多い疾患ですが、日本では男性優位(男女比2:1〜3:1)であることが知られています。日本の有病率は欧米より低い可能性がありますが、アジア人女性の喫煙率が低いことが影響していると考えられています。


日本では臀部型が多く(約59%)、欧米で多い腋窩・乳房型とは異なる分布を示します。診断や治療選択において、この地域差を意識することが重要です。


最大の臨床的問題の一つが、診断遅延です。HSは発症から確定診断を受けるまで平均約7年かかると報告されています(「化膿性汗腺炎診療の手引き2020」)。診断まで7年というのは驚きですね。


なぜ遅延が起きるのかといえば、HSが感染症や粉瘤・おできと誤診されやすい疾患だからです。日本ではHSは知名度が低く、皮膚科専門医でも見逃しが生じることがあります。実際、2025年の調査では「ハーレーステージIIIの腋窩疾患においても、非皮膚科医による正確な診断率は皮膚科医と比べ大幅に低い」ことが確認されています。


診断遅延はそのままQOLの著しい低下に直結します。HSは欧米では乾癬・重度アトピー皮膚炎よりも高い罹患率スコアを示すことが報告されており、患者は慢性的な疼痛・悪臭・排膿・社会的孤立・うつ状態のリスクに長期間さらされます。女性患者では、年間2〜7日を仕事の欠勤に費やさざるを得ないという報告もあります。


これが実態です。診断確定の遅れは、患者の経済的負担・精神的負担を複合的に増大させます。


医療従事者として意識しておくべき点は、「腋窩・鼠径・臀部の再発性有痛性結節」を見たとき、感染症や粉瘤と即断せずに「HSの可能性」を鑑別リストに入れることです。発症から半年間に2回以上の再発、微生物培養陰性(または常在菌のみ)という所見はHSを強く示唆します。


ハーレー分類HSの独自視点:改訂Hurley分類と今後の評価法の展望

従来のハーレー分類(3段階)の粗さを補うために、近年では改訂Hurley分類(Revised Hurley Staging)が提唱されています。これは既存の病期I・IIをそれぞれA・B・Cのサブステージに細分化した7段階分類です。


改訂版は、HS患者433例を対象とした横断研究において、患者報告によるQOLスコアや医師評価の客観的重症度スコアとの相関が従来の3段階分類よりも高いことが確認されています(m3.com、2019年1月報告)。これは使えそうです。


ただし改訂Hurley分類は現時点では研究・専門施設での使用が中心であり、日本の保険診療上の適応基準は引き続き「従来の3段階ハーレー分類(病期II〜III)」が基準となっています。実臨床では混同しないよう注意が必要です。


将来的な評価法の方向性として注目されているのが、機械学習・AIを活用した早期診断支援です。2025年に発表された研究では、米国の保険請求データを用いた機械学習モデルがHSの早期発見に有効であることが示されています。診断遅延が平均7年という現状を変えるための技術的アプローチとして注目されます。


また、次亜塩素酸ナトリウム洗浄剤(0.005〜0.006%濃度製品)の実臨床での使用研究も進展しており、全ハーレーステージを含む145例での4週間試験において有意な改善が確認されています(2025年8月報告)。薬物治療の補助として外用洗浄剤の役割が今後さらに評価される可能性があります。


評価スコアにしても治療にしても、HSの診療は進化し続けています。ハーレー分類はあくまで「スタート地点」として正確に使いこなしながら、IHS4やHiSCRなど動的スコアを組み合わせた診療が今後の標準となっていくことは間違いありません。


m3.com:改訂Hurley分類が化膿性汗腺炎の重症度判定に有用であることを示した横断研究の解説