実は、「白癬にはアリルアミン系が最強」と思って選んでいると、カンジダを見落として治療が3ヶ月以上長引くことがあります。
外用抗真菌薬は大きく「イミダゾール系」「アリルアミン系」「ベンジルアミン系」「チオカルバメート系」「トリアゾール系」に分類されます。それぞれの系統で、どの真菌に効くかが異なる点が使い分けの核心です。
| 系統 | 代表薬(商品名) | 白癬への効果 | カンジダへの効果 | 特記事項 |
|---|---|---|---|---|
| イミダゾール系(新世代) | ルリコナゾール(ルリコン)、ラノコナゾール(アスタット) | ◎ | ◎ | 1990年代以降発売、1日1回 |
| イミダゾール系(旧世代) | クロトリマゾール(エンペシド)、ケトコナゾール(ニゾラール) | △〜○ | ◎ | カンジダ・癜風に特に有効 |
| アリルアミン系 | テルビナフィン(ラミシール) | ◎◎ | △ | 白癬への殺菌作用が特に高い |
| ベンジルアミン系 | ブテナフィン(メンタックス) | ◎◎ | △ | 日本初の非イミダゾール系(1992年) |
| チオカルバメート系 | リラナフタート(ゼフナート) | ◎◎ | × | 皮膚貯留性が高い |
| トリアゾール系 | エフィナコナゾール(クレナフィン) | ◎(爪のみ) | — | 爪白癬専用外用液 |
この分類を頭に入れておけば、処方の方向性はほぼ決まります。
つまり「病原菌の種類→系統選択→剤形選択」の順に考えるのが原則です。
イミダゾール系は1990年代以前と以降で性質が大きく異なります。 たとえばエンペシド(クロトリマゾール)は1976年発売で、白癬への浸透力が低く1日2〜3回外用が必要でした。一方、1990年代以降のルリコナゾールやラノコナゾールは白癬にもカンジダにも有効で、1日1回の外用で治療効果が得られます。
意外ですね。
アリルアミン系・ベンジルアミン系・チオカルバメート系はカンジダにほとんど効きません。 皮膚の湿潤部分(股間・腋窩・乳房下)の感染を「水虫の亜種」と思って白癬専用薬を塗り続けると、カンジダ感染が改善しないまま数ヶ月経過することがあります。直接鏡検で真菌の種類を確認してから薬を選ぶのが必須です。
参考)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_763
剤形選択は治療効果に直結します。同じ成分でも剤形が合っていないと、薬が病巣に届かず治療期間が無駄に延びます。
部位別の選択基準は以下の通りです。
これが剤形選択の基準です。
参考)皮膚外用療法の原則 - 14. 皮膚疾患 - MSDマニュア…
爪への外用について補足します。クレナフィン(エフィナコナゾール10%液)はボトルと一体化した刷毛付きで、塗布のしやすさが設計されています。 ルコナック(ルリコナゾール5%軟膏)との比較では、ガイドライン上どちらも推奨度【B】ですが、臨床試験ではルリコナゾール軟膏外用群で「有効以上」が27.3〜54.5%、エフィナコナゾールで19.1〜42.9%という報告もあります。
参考)爪白癬に対する外用抗真菌薬2剤(ルリコナゾール軟膏とエフィナ…
臨床現場で最も起こりやすい失敗が、白癬とカンジダの鑑別不足による薬剤選択ミスです。これは看護師や研修医だけでなく、経験豊富な医師でも起こります。
両者の鑑別ポイントを整理すると以下の通りです。
| 鑑別項目 | 白癬(皮膚糸状菌) | 皮膚カンジダ症 |
|---|---|---|
| 好発部位 | 足趾間・足底・爪・股部・体部 | 間擦部(股間・腋窩・乳房下・口角) |
| 皮膚所見 | 鱗屑・落屑・小水疱 | 紅斑・衛星病変(周囲の小丘疹) |
| リスク因子 | 共用施設利用・運動・多汗 | 糖尿病・免疫低下・抗菌薬使用・妊娠 |
| 直接鏡検 | 菌糸(有隔菌糸) | 仮性菌糸・出芽酵母 |
| 選択薬 | アリルアミン系・イミダゾール系(新世代) | イミダゾール系(必須) |
直接鏡検が必須というのが原則です。
参考)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_763
衛星病変(satellite lesion)はカンジダに特徴的な所見で、中心の紅斑の周囲に小丘疹が点在する像です。この所見があれば、アリルアミン系ではなくイミダゾール系を選ぶ判断ができます。糖尿病患者や免疫抑制患者で間擦部に皮疹が出た場合は、まずカンジダを疑う姿勢が重要です。
参考)Table: 表在性真菌感染症の治療選択肢*-MSDマニュア…
鏡検結果が出るまでの間、経験的にイミダゾール系(特にルリコン・ニゾラール)を選択すれば白癬とカンジダの両方をカバーできます。これは使えそうです。
患者が自己判断で外用を中止することによる再燃は、白癬治療における最大の課題の一つです。症状が消えても菌は残っているケースが多く、特に足白癬では症状消失後も最低2〜4週間の継続外用が必要です。
部位別の推奨治療期間の目安は以下の通りです。
患者指導で特に強調すべき点は「症状が消えてからが本番」というメッセージです。 かゆみや皮むけが取れると自己中止する患者が多いですが、菌の完全除去には臨床的改善より数週間遅れることをわかりやすく伝えましょう。
参考)水虫治療は医療用の抗真菌薬(塗り薬)がベストでデメリットはか…
外用継続をサポートするには、次回受診時に残薬確認を行い、適切なタイミングで来院してもらうスケジュールを組むのが有効です。白癬の再燃リスクが高い患者(糖尿病、高齢、角化型)には、内服への切り替えも選択肢に入れて説明しておくのが条件です。
参考)https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/shinkin_GL2019.pdf
白癬・カンジダ以外にも、外用抗真菌薬が有効な疾患があります。見落とされやすいのが脂漏性皮膚炎と癜風(でんぷう)です。
癜風(Malassezia furfur感染)は首・体幹・背部に脱色素斑または淡褐色斑として現れます。Malassezia属はカンジダと同じ酵母型のため、イミダゾール系が第一選択となります。 ニゾラールローションが特に有効で、脂漏性皮膚炎でも同様に使用されます。
参考)https://gifu-min.jp/midori/document/576/saiyouitirann.pdf
脂漏性皮膚炎については、頭皮や顔面(眉間・鼻翼周囲)にMalasseziaが関与していることが多く、ケトコナゾール(ニゾラール)液を1日2回外用する方法が標準的です。 白癬専用のアリルアミン系やチオカルバメート系ではMalasseziaへの効果が期待できないため、「フケ・顔の赤み=脂漏性皮膚炎ならニゾラール」と覚えておけばOKです。
参考)https://gifu-min.jp/midori/document/576/saiyouitirann.pdf
病態別の推奨薬をまとめると以下の通りです。
これは実臨床で知っておくと損しない知識です。
参考)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_763
皮膚真菌症診療ガイドライン(日本皮膚科学会, 2019)は外用薬の使い分けに関する根拠として最も権威ある文書です。
以下に参考リンクを示します。
白癬・カンジダ・癜風などの系統的な診断基準と治療推奨度(エビデンスレベル付き)が記載されています。
日本皮膚科学会 皮膚真菌症診療ガイドライン2019(PDF)
表在性真菌感染症の治療選択肢(薬剤・剤形・用途の一覧表)として、各薬剤の活性スペクトラムが整理されています。
MSDマニュアル プロフェッショナル版:表在性真菌感染症の治療選択肢
爪白癬に対するクレナフィンとルコナックの効果比較・推奨度が記載されています。