保湿ケアを毎日丁寧に行っている患者ほど、スキンテアの発生率が約2倍になるケースがあります。
高齢者の皮膚は、加齢に伴い皮脂分泌量が30代と比較して約50〜60%低下するとされており、バリア機能の低下・弾力性の喪失・表皮の菲薄化が同時進行します。これは単なる「乾燥肌」ではなく、外力・湿潤・摩擦に対する耐性がほぼゼロに近くなっている状態です。結論はバリアが崩壊している、ということです。
臨床でよく見られる高齢者皮膚トラブルは大きく4種類に分類されます。まず①褥瘡(圧迫・ずれによる組織損傷)、②スキンテア(摩擦・ずれによる皮膚裂傷)、③IAD(失禁関連皮膚炎)(排泄物による湿潤性皮膚炎)、④乾燥性皮膚炎(皮脂欠乏性湿疹)の4カテゴリです。これらは合併して発症することも多く、例えばおむつ内の湿潤によるIADに摩擦が加わりスキンテアに移行するケースは日常的に起こります。
アセスメントの基本は「原因の特定」です。どのトラブルなのかを正確に判別しなければ、看護計画の方向性が根本から間違います。褥瘡の評価にはDESIGN-R®2020(日本褥瘡学会)が標準ツールとして用いられ、深さ・滲出液・大きさ・炎症・肉芽・壊死・ポケットの7項目を数値化します。スキンテアにはSTARスキンテア分類システム(Type1〜4b)が国際的に用いられており、日本でも2015年以降に普及が進んでいます。IADの評価にはIAD-setやIADスコアが使われ、発赤の有無・びらんの範囲・疼痛の程度を確認します。
看護師がアセスメントで見落としやすいのは「体圧分散の不足」よりも「ずれ力」です。ベッドのギャッジアップ30度以上の状態を長時間維持すると、骨突出部に対して剪断力(ずれ力)が集中し、表面は正常に見えても深部組織が損傷している「深部損傷褥瘡(DTI)」が形成されます。これは発見が遅れやすく、発見時にはすでにステージ3〜4相当の損傷に至っていることがあります。これは知らないと見逃します。
アセスメントツールとして、褥瘡リスク評価にはブレーデンスケール(Braden Scale)が広く使われており、23点満点中18点以下でリスクありと判定します。6つの評価項目(知覚の認知・湿潤・活動性・可動性・栄養・摩擦とずれ)のうち、特に「摩擦とずれ」が3段階評価で最低点(1点)になっている患者は、どれだけ体圧分散マットレスを使用しても皮膚損傷リスクが下がりにくいという特性があります。つまり用具よりも「動かし方」が条件です。
日本褥瘡学会「褥瘡予防・管理ガイドライン第4版」(DESIGN-R®2020対応)
褥瘡の看護計画で最初にすべきは、DESIGN-R®スコアに基づいた「現在の褥瘡状態」と、ブレーデンスケールによる「発生リスク」の2軸評価です。この2つを混同しない、というのが基本です。すでに褥瘡が存在する患者にはDESIGN-R®で治癒・悪化の経過を追い、現在発症していない患者にはブレーデンスケールで予防介入の強度を決めます。
看護目標は「褥瘡を作らない」という曖昧な表現を避け、具体的な行動目標として立案します。例えば「2時間ごとの体位変換を確実に実施し、4週間以内に新規褥瘡の発生を認めない」「DESIGN-Rスコアを現状の12点から4週間で7点以下に改善させる」といった形が望ましいです。数値目標があることで評価が可能になります。
体位変換の頻度については、従来は「2時間ごと」が基本とされてきましたが、2023年版の日本褥瘡学会ガイドラインでは「高密度ウレタンフォームマットレス等の体圧分散用具使用下では4時間ごとへの延長が許容される」と改訂されています。これは意外ですね。ただし体圧分散用具を使用していない通常マットレスの場合、2時間ごとの体位変換は引き続き推奨されます。
栄養介入は褥瘡ケアの中でも特に重要度が高い分野です。褥瘡の治癒促進にはタンパク質(体重1kgあたり1.2〜1.5g/日)、亜鉛、ビタミンC、アルギニンの摂取が必要とされています。特にアルギニンは条件付き必須アミノ酸であり、健常時は体内合成可能ですが組織損傷時には需要が合成量を上回るため、褥瘡患者では医療用栄養補助食品(例:アバンド®、プロキュア®など)による補充が検討されます。これは使えそうです。
観察項目としては、①褥瘡部位の色調・大きさ・深さ・滲出液の量と性状・臭気、②周囲皮膚の発赤・浸軟・ポケット形成の有無、③疼痛の有無とスケール(NRS)、④創処置に使用したドレッシング材の選択根拠、を毎日記録します。写真記録は週1回以上が推奨されており、撮影角度・距離・照明を統一することで比較評価の精度が上がります。
日本褥瘡学会「ガイドライン・指針」一覧ページ(最新情報の確認に活用)
スキンテアは「皮膚が破れる」現象ですが、その約80%は医療・介護行為中に発生しています。これが最重要な事実です。更衣・体位変換・移乗・テープ類の剥離・リハビリ介助といった場面がリスクの本体であり、「外から何かにぶつかった」という外傷性の発生は全体の20%未満とされています(一般社団法人日本創傷・オストミー・失禁管理学会の報告より)。つまりケアそのものが原因です。
看護計画における最優先の観察・介入ポイントは以下の3点です。
📌 発生リスクが高い場面とその対策
| リスク場面 | リスクの理由 | 推奨される対策 |
|---|---|---|
| テープ・フィルム材の剥離 | 粘着力 > 皮膚強度 | シリコン系粘着剤製品への変更、剥離剤使用 |
| 更衣・袖通し | 指が皮膚に直接接触し摩擦 | 筒型スリーブプロテクター着用(市販品あり)|
| 体位変換・移乗 | ずれ力と摩擦の複合 | ターンシートやスライディンググローブ使用 |
| リハビリ(歩行訓練等)| ふらつき時の接触 | ロングソックス・アームカバーで保護 |
| 点滴・ドレッシング固定テープ | 貼付・剥離の繰り返し | シリコン系医療テープ(例:マルチポア™)使用 |
予防の柱は「保湿」と「保護」の2つです。保湿については、入浴・清拭後15分以内にヘパリン類似物質含有クリーム(例:ヒルドイド®)や白色ワセリンを塗布することが基本となります。入浴後15分が勝負です。皮膚の水分含量が最も高い状態で封鎖することで、翌日の水分蒸散を最小限に抑えることができます。一方、保護については四肢にアームカバーや筒型スリーブを着用させることで皮膚への直接摩擦を減らすアプローチが近年普及しています。
スキンテアが発生した際の初期対応は「止血→洗浄→皮弁の整復→被覆」の順番で行います。皮弁が残存している場合は可能な限り元の位置に戻して固定することが治癒速度を高めます。被覆材はシリコン系ソフトシリコン接触層付きのもの(例:メピテル®ワン)が推奨されており、交換時に新たなスキンテアを引き起こしにくい設計になっています。これが原則です。
日本創傷・オストミー・失禁管理学会「スキンケアガイドブック」スキンテアの項(アセスメント・ケア手順の詳細)
IADとは、尿・便・またはその混合物が皮膚に長時間接触することで生じる皮膚炎であり、高齢者施設・急性期病棟の双方で高頻度に発生します。乾燥性皮膚炎(皮脂欠乏性湿疹)とは発生機序がまったく異なります。この違いが重要です。乾燥は「水分不足」、IADは「過湿潤・化学的刺激」という正反対の状態が原因であるため、同じ「皮膚の発赤」であっても介入方法は逆方向になります。
IADの看護計画における介入の3本柱は「スキンクレンジング・モイスチャーバリア・体位・排泄管理」です。スキンクレンジングとは、排泄ケア後に弱酸性の専用クレンジング剤(例:ケアウォッシュ®)で皮膚をやさしく洗浄し、摩擦を避けながら清潔を保つことを指します。タオルでゴシゴシ拭くのは厳禁です。モイスチャーバリアは亜鉛化軟膏・ジメチコン含有クリーム・3in1製品(洗浄・保湿・保護を同時に行うもの)を用いて、次回の排泄による化学的刺激から皮膚を守ります。
排泄管理は、失禁の原因そのものにアプローチする視点が欠かせません。例えば尿意切迫感を伴う過活動膀胱(OAB)が原因の場合、膀胱訓練や定時排泄誘導(2〜3時間ごとのトイレ誘導)を実施することで失禁頻度を1日平均3〜4回程度低下させることができると報告されています。これは看護師の介入で変えられます。
乾燥性皮膚炎に対する看護計画では、皮膚の観察において「白い粉を吹いた状態(鱗屑)」「引っかき傷(掻破痕)」「細かいひび割れ(亀裂)」の3つを日常ケアの中で継続して確認します。特に下腿前面・腰部・背部は皮脂腺の分布が少なく最も乾燥しやすい部位であり、入浴時に「あかすりタオル」や「ナイロンタオル」を使用している患者への指導が必要です。なおナイロンタオルの使用は表皮バリアを著しく損傷するため、高齢者への使用は推奨されていません。使用禁止が原則です。
保湿剤の選択については、剤形によって適応が異なります。ローション・乳液は塗りやすいですが持続性が低め、クリーム剤は保湿力と使用感のバランスが良く、軟膏(白色ワセリン等)は油分が多く閉塞性が高い反面、夏季は不快感を生じやすいです。医師との連携のもと、患者の皮膚状態・季節・ADLに合わせた選択を行うことが看護師のアセスメント能力を活かせる部分です。
公益社団法人日本皮膚科学会「皮膚科Q&A:皮脂欠乏性湿疹」(乾燥性皮膚炎の解説・治療方針)
皮膚トラブルへの対応は看護師単独で完結する問題ではありません。主治医・皮膚科専門医・WOCナース(創傷・オストミー・失禁認定看護師)・管理栄養士・理学療法士・介護福祉士など、複数の職種が横断的に関わることで初めて計画の実効性が高まります。チームで動くのが基本です。特に、WOCナースは日本全国に2024年時点で約4,000名以上が在籍しており、院内に在籍している場合は褥瘡管理委員会や皮膚ケア回診を通じた相談窓口として積極的に活用できます。
記録の観点からは、看護計画に設定した「目標」「観察項目」「介入内容」が実際のSOAPまたはフォーカスチャーティングと連動していることが重要です。例えばDESIGN-R®スコアを評価指標として用いている場合、毎週の記録にスコアの数値変化を明記し、悪化または改善の根拠を残すことで継続的なケア評価が可能になります。数値での記録が評価の鍵です。
看護計画の評価時期については、短期目標(1〜2週間)と長期目標(4週間以上)を明確に分けて設定することが推奨されます。急性期病棟では在院日数の短縮化(全国平均約11〜12日前後)を踏まえ、退院前の皮膚状態のサマリーをかかりつけ医や転院先施設に引き継ぐことが皮膚トラブルの連続したケアには不可欠です。引き継ぎが途切れると再発します。
📝 看護計画のチェックリスト(高齢者皮膚トラブル対応)
- ✅ ブレーデンスケールまたはDESIGN-R®でスコア化されているか
- ✅ 褥瘡・スキンテア・IAD・乾燥性皮膚炎の種別が明確になっているか
- ✅ 看護目標に具体的な数値・期間が含まれているか
- ✅ 使用する体圧分散用具・保湿剤・ドレッシング材の名称が記載されているか
- ✅ 栄養状態(アルブミン値・体重変化)が観察項目に含まれているか
- ✅ 多職種(WOCナース・栄養士等)への相談タイミングが明確か
- ✅ 退院・転院時の引き継ぎ記録(スキンケアサマリー)が計画に含まれているか
独自視点として強調しておきたいのは「夜間ケアの再設計」です。高齢者の皮膚トラブルの多くは夜間に悪化または発生していますが、夜間帯は人員配置が手薄であり、体位変換の実施率が日勤帯に比べて平均30〜40%低下するという調査結果があります。これは病棟全体で認識すべき問題です。センサーマット・体動センサー・自動体位変換機能付きエアマットレス(例:ケープ社「ニューウェルフィットα®」等)の活用により、夜間帯の無変換時間を自動的に補完する体制構築を看護計画に盛り込む視点は、まだ多くの病棟で不足しています。これは今すぐ取り入れたい視点です。
厚生労働省「褥瘡対策に関する診療計画書」関連通知(病院における褥瘡管理体制の基準・記録要件)
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