体幹に処方されたマイザー軟膏を顔に塗ると、副作用リスクが最大42倍に跳ね上がります。
ステロイド外用薬は、抗炎症作用の強さによって日本では5段階に分類されています。Ⅰ群が最も強い「ストロンゲスト(Strongest)」、Ⅴ群が最も弱い「ウィーク(Weak)」です。この分類は日本皮膚科学会のガイドラインでも標準的に採用されており、処方・服薬指導の根幹となります。
マイザー軟膏(一般名:ジフルプレドナート0.05%)はⅡ群・ベリーストロング(Very Strong)に分類されます。つまり、強さ一覧の上から2番目に位置する薬剤です。下表でランク全体を把握しておきましょう。
| ランク(群) | 強さの呼称 | 代表的な薬剤名(商品名) |
|---|---|---|
| Ⅰ群 | ストロンゲスト | デルモベート、ダイアコート |
| <strong>Ⅱ群 | ベリーストロング ★マイザー | マイザー、アンテベート、フルメタ、トプシム、リンデロンDP、ネリゾナ、パンデル |
| Ⅲ群 | ストロング | リンデロンV、ボアラ、ベトネベート、メサデルム、フルコート、エクラー |
| Ⅳ群 | ミディアム | ロコイド、アルメタ、キンダベート、リドメックス |
| Ⅴ群 | ウィーク | プレドニゾロン軟膏 |
市販のステロイド塗り薬はⅢ群(ストロング)が上限です。マイザーはそれより1ランク上に位置するため、処方箋なしに入手することはできません。これが基本です。
ドイツ語で「私の軟膏(Mine Salbe)」を語源とするマイザーは、2017年に日経メディカルが実施した医師アンケートで、ベリーストロングクラスの中で処方率1位(約29%)を獲得したという報告があります。つまり、Ⅱ群の中でも現場で最も頻用される薬剤のひとつです。これは使えそうですね。
なお、米国では同様のステロイドランク分類が7段階で行われており、日本の5段階分類とは対応が異なります。国際的な文献を読む際はこの点に注意が必要です。
参考:ステロイド外用薬のランク分類と臨床的意義(ホクト医療 力価一覧)
【図表解説】ステロイド外用薬の力価一覧(ランク分類)/ 投与部位による吸収率の違い|HOKUTO
薬剤のランクだけを確認して処方・指導するのは、実は不十分です。ステロイド外用薬の体内への吸収量は、塗布する部位によって劇的に変わります。基準となる「前腕(腕の内側)」を1とした場合、各部位の吸収率の比はおおよそ次のとおりです。
| 塗布部位 | 吸収率(前腕=1とした場合の比) |
|---|---|
| 足の裏(足底) | 約0.14倍 |
| 手のひら(手掌) | 約0.8倍 |
| 前腕(基準) | 1倍 |
| 背中 | 約1.7倍 |
| 頭皮 | 約3.5倍 |
| おでこ(前頭部) | 約6倍 |
| あご(下顎部) | 約13倍 |
| 陰部 | 約42倍 |
足の裏と陰部を比べると、吸収率はおよそ300倍以上の差があります。これは大きいですね。
マイザー(Ⅱ群)は手足の皮膚が厚く薬が浸透しにくい部位、または慢性化した重症の湿疹に対して高い有効性を発揮します。一方で、顔・首・陰部など皮膚が薄く吸収率の高い部位にⅡ群を使用すると、副作用の出現リスクが大幅に上昇します。日本皮膚科学会のガイドラインでも、顔面への外用は原則としてⅣ群(ミディアム)以下が推奨されています。
薬剤師・看護師が服薬指導を行う際は、処方ランクとあわせて「どこに塗るか」を必ず患者に確認することが原則です。
参考:ステロイド外用剤の服薬指導ポイントと部位別吸収率の解説
ステロイド外用剤の服薬指導!強さの比較一覧や副作用について解説|ナース専科
Ⅱ群(ベリーストロング)に属する薬剤は複数あります。マイザー以外にも、アンテベート・フルメタ・トプシム・リンデロンDP・ネリゾナ・パンデルなどが同群に分類されます。同群内でも製剤の特性が微妙に異なるため、使い分けの視点を持つことが実臨床では重要です。
まず剤型の違いから整理しましょう。マイザーには軟膏とクリームの2剤型があります。ジェネリックとしては「ジフルプレドナート軟膏・クリーム0.05%」が各社から発売されており、ローション剤型も存在します。剤型の選択は患部の状態によります。
同ランクのアンテベートとの比較でいえば、両者は有効性においてほぼ同等とされています。処方上の差は主に医師の習熟度や施設の慣習によることが多く、厳密な使い分けの基準が明示されているわけではありません。ただし、アンテベートはローション剤型の選択肢が豊富である点が異なります。つまり剤型と患部の状態が選択の分かれ目です。
また、フルメタは1日1回外用でも有効性が得られるとの報告があり、塗布回数の点でコンプライアンス向上につながる場面があります。マイザーの標準的な用法は1日1〜数回であり、症状の改善に応じて医師が適宜調整します。
処方箋に外用期間が記載されていないケースは臨床上非常に多いです。その場合、患者への服薬指導では「次の受診日まで継続使用し、自己判断で急に中止しない」と具体的に伝えることが不可欠です。
Ⅱ群のステロイド外用薬であるマイザーは、その強さゆえに副作用の発現リスクも相応に存在します。主な局所副作用としては次のものが知られています。
皮膚線条は元に戻りません。これは頭に入れておくべき重要な点です。
一方、全身性副作用については過度な懸念は不要とされています。体重10kgあたり月15g未満の外用量であれば、Ⅱ群のステロイドを3ヶ月継続しても不可逆的な全身性副作用は生じないとのデータが示されています。ただし、大面積への長期大量使用や密封法(ODT)を実施する場合は、副腎機能抑制を念頭に置いた管理が必要です。
禁忌に該当する使用状況は以下のとおりです。医療従事者として確認しておきたいところです。
特に注意が必要なのは感染症との鑑別です。陰部のかゆみをアトピーや湿疹と判断してマイザーを使用した場合、カンジダや白癬が原因であれば症状が劇的に悪化します。疑わしい場合は培養検査・KOH直接鏡検を先行させることが鉄則です。
参考:マイザーの禁忌・副作用・使用上の注意(添付文書情報)
マイザー軟膏0.05%添付文書|独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)
マイザーに限らず、ステロイド外用薬の服薬指導でよく問題になるのが「塗る量が少なすぎる」という現象です。ステロイドへの過剰な不安から、適切量の半分以下しか塗布しない患者が多く、これにより治療効果が不十分になって症状が長引くという悪循環が生じています。これは痛いですね。
そこで現場で活用されるのが「フィンガーチップユニット(FTU)」という考え方です。
患者に対しては「薄く伸ばしすぎない」「すり込まず、やさしく乗せるように塗る」の2点を具体的に伝えることが効果的です。
また、マイザー軟膏の薬価は先発品で約11.1円/g(後発品は各社により異なる)です。例えば、3割負担の患者にマイザー軟膏10gを処方した場合、薬剤費の自己負担はおよそ33円となります。費用面での患者の不安を先回りして解消することも、服薬アドヒアランスの向上につながります。
塗り忘れた場合の対応については、「気づいた時点で塗布し、次の塗布時間が近い場合は1回飛ばす」の原則を伝えるのが基本です。倍量を塗ることは避けるよう必ず説明しましょう。用量を守ることが条件です。
マイザーをはじめとするステロイド外用薬のランク・使用量・塗布部位の判断を現場で素早く確認したい場合、医療従事者向けの薬剤情報アプリ(HOKUTOやCareNetなど)に薬剤別の詳細情報・添付文書・ガイドラインへのリンクがまとめられており、処方・指導の場で役立てることができます。
参考:日本皮膚科学会によるアトピー性皮膚炎診療ガイドライン(ステロイド外用薬の使用基準含む)
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018|日本皮膚科学会(PDF)