「mast法は陰性なら安全」と思って処方を続けると、感作患者を見逃すリスクがあります。
MAST法(Multiple Allergen Simultaneous Test)は、1回の採血で複数のアレルゲンに対する特異的IgE抗体を同時に定量できる血液検査法です。1980年代に開発され、日本の臨床現場でも広く普及しています。
測定原理はケミルミネッセンス(化学発光)を利用しています。アレルゲンを固定した糸状の担体(MAST糸)に患者血清を反応させ、特異的IgEが結合した後、蛍光標識した抗IgE抗体を加えて発光量を測定します。発光量が高いほど特異的IgE濃度が高いことを示します。
結果はクラス0〜6で表示されます。クラス0・1が陰性または偽陽性域、クラス2以上が陽性とみなされることが一般的です。ただし、クラス2であっても臨床症状との整合性は慎重に確認する必要があります。
MAST法の最大の利点は、一度の検査で36〜100以上のアレルゲンを同時測定できることです。患者への採血負担を抑えながら広範なスクリーニングが可能という点は、外来診療での利便性として評価されています。これは使えそうです。
一方で、測定に使用する試薬メーカーによって含まれるアレルゲンパネルが異なります。ダニ・スギ・ヒノキ・カビ・食物(卵・乳・小麦など)・動物皮屑・ラテックスなど、検査パネルの構成を事前に確認しておくことが実務上重要です。
MAST法の感度はアレルゲン種類によって異なりますが、全体的にはImmunoCAP(CAP-RAST法)より約5〜15%低いとされています。特に食物アレルギーの診断においては、ImmunoCAP法のほうが感度・再現性ともに優れているという報告が複数あります。
感度が低い、ということは何を意味するでしょうか?一定数の「本当は陽性」な患者を陰性と判定してしまうリスクが上がります。アナフィラキシーの既往があるケースや、症状が強いにもかかわらずMASTで陰性が出た場合は、ImmunoCAP法での再検査やプリックテストへの切り替えを検討するのが原則です。
プリックテスト(皮膚プリックテスト)は、アレルゲンエキスを皮膚に少量滴下して小さな刺傷を作り、15〜20分後の膨疹径を読む検査です。感度はMASTより高く、即時型アレルギーの確認に有効ですが、アナフィラキシーのリスクがある患者には禁忌に近い扱いとなるため、実施環境と適応の判断が必要です。
| 検査法 | 感度(目安) | 特異度(目安) | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| MAST法 | 70〜80% | 85〜90% | スクリーニング・多項目同時確認 |
| ImmunoCAP | 85〜95% | 90〜95% | 単項目精密定量・食物アレルギー |
| プリックテスト | 85〜95% | 80〜90% | 吸入アレルゲン・薬物アレルギー |
表からわかるとおり、MAST法はスクリーニング向きで精密診断には不向きです。結論は「用途に応じた使い分け」が診断精度を決めます。
なお、国立成育医療研究センターや日本アレルギー学会のガイドラインでも、血液検査単独での診断は推奨されておらず、臨床症状・問診・必要に応じた負荷試験の組み合わせが求められています。
日本アレルギー学会 アレルギー診療ガイドライン(アレルゲン特異的IgE検査の解釈について記載あり)
MAST法の結果解釈で最も注意すべきは、偽陽性と偽陰性の存在です。偽陽性とはIgEが高値でも実際には症状が出ない状態、偽陰性とはIgEが低値でも実際にはアレルギー症状が出る状態を指します。
偽陽性が起きやすい状況はいくつかあります。
交差反応性は意外ですね。たとえばラテックスアレルギーの患者では、バナナ・アボカド・キウイ・クリに対するIgEが偽陽性になることが知られています。これを知らずに「食物アレルギー複数あり」と判断すると、患者の食制限が過剰になるリスクがあります。
偽陰性が起きやすい状況も確認しておきましょう。
偽陰性には期限があります。症状が落ち着いた時期の再検査が有用な場合があります。
臨床では「検査クラスと症状の一致度」を常に確認するのが基本です。不一致がある場合は、食物経口負荷試験や詳細な問診で整理することが重要です。
国立成育医療研究センター アレルギーセンター(食物アレルギーの診断アルゴリズムや検査解釈の解説あり)
MAST法は保険診療内で実施できますが、算定ルールには注意が必要です。医療従事者にとって見落としがちな点を整理します。
特異的IgE検査(MAST法を含む)の診療報酬は、検査項目数によって点数が変わります。2024年時点では以下が目安となっています。
点数には上限があります。何項目検査しても16項目以上は一律1,456点であるため、多く検査しても保険点数は変わりません。むしろ、不要な項目まで含めると検体検査の管理料との兼ね合いで返戻リスクが生じる場合があります。
また、同一月内に特異的IgE検査と非特異的IgE(総IgE)検査を同時算定する場合は、算定要件を満たす診断名と医学的根拠の記録が必要です。査定を避けるには、レセプトの摘要欄に検査の目的を明記しておくのが実務上の鉄則です。鉄則ということですね。
さらに、乳幼児(6歳未満)へのアレルギー検査については、ガイドライン上「症状なしの無症候性スクリーニング目的での多項目検査」は推奨されていません。不必要な採血と過剰診断につながるリスクがあるため、症状・病歴に基づいた絞り込みが求められます。
厚生労働省 診療報酬改定情報(検体検査の算定要件確認に活用)
MAST法でアレルゲンが特定された後、患者への生活指導・環境整備の提案が不十分なケースが臨床現場では少なくありません。これは検査結果の「出口戦略」の問題です。
たとえば、ダニ・ハウスダストに対するIgEが高値だった患者に対しては、薬物療法の開始と並行して以下の環境対策が有効とされています。
これらの指導は薬より先に効果が出る場合もあります。実際、環境整備介入単独でPeak Nasal Inspiratory Flow(鼻腔吸気流量)が改善したという報告が国内外に複数存在します。
また、スギ・ダニアレルギーには舌下免疫療法(SLIT)という選択肢があります。2015年に保険適用となったスギ花粉舌下錠(シダキュア)、ダニ舌下錠(ミティキュア)は、3〜5年の継続投与で症状の根本的な軽減を目指せる治療法です。MAST法でスギ・ダニの陽性が確認できた段階で、患者に情報提供する絶好のタイミングとなります。
舌下免疫療法は必須の選択肢になりつつあります。ただし、投与開始前にはアナフィラキシーのリスク評価と、初回院内投与後30分間の経過観察が条件です。適切な患者選択と説明同意のプロセスを省かないことが重要です。
アレルゲン免疫療法を選択肢として提示する際は、「検査でこのアレルゲンへの感作が確認されました(根拠)→長期的な症状軽減が期待できます(目的)→舌下免疫療法という方法があります(候補)」という順で説明すると、患者の理解と納得が得やすくなります。
日本アレルギー学会 アレルゲン免疫療法の手引き(舌下免疫療法の適応と実施要件の詳細)

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