毎日ハンドクリームを使っているのに、スクワランで手荒れが悪化するケースがあります。
スクワランは、スクワレン(squalene)を水素添加して安定化させた炭化水素系の油性成分です。人の皮脂にも約5〜10%含まれており、皮膚との親和性が非常に高いことで知られています。
植物性スクワランは主にオリーブ油やサトウキビ、アマランサス種子から得られます。オリーブ由来では不けん化物(スクワレン前駆体)の含有量が高く、精製工程を経てスクワレンを抽出した後、水素添加によってスクワランへ変換されます。サトウキビ由来は原料の安定供給に優れ、近年では環境負荷の低さからも評価が高まっています。
皮膚科学の観点からは、スクワランはエモリエント(emollient)成分として分類されます。単純な「保湿剤」と混同されがちですが、正確には皮膚表面に薄い膜を形成して水分蒸散を抑える「閉塞作用」と、角質を柔軟にする「軟化作用」を兼ね備えた成分です。これが基本です。
分子量は約422で、皮膚表面の脂質二重層に溶け込みやすいサイズ感です。ちょうど皮膚の角質細胞間脂質と馴染むよう設計されたかのような構造をしています。意外ですね。
酸化安定性も植物性スクワランの重要な特性です。スクワレンの状態では空気に触れると酸化しやすく、酸化スクワレンはニキビや皮膚炎の原因になるという研究報告があります。一方、スクワランに変換されると二重結合が消えて非常に安定した状態になります。この酸化安定性の高さが、外用剤への配合を可能にしています。
皮膚バリア機能の評価には、主にTEWL(経皮水分蒸散量)と角層水分量の2指標が用いられます。植物性スクワランの塗布試験では、TEWLが塗布後30分で有意に低下し、その効果が6〜8時間持続することが複数の研究で確認されています。
特に注目されているのが、アトピー性皮膚炎(AD)患者への応用です。ADの皮膚はフィラグリン遺伝子変異などによってバリア機能が低下しており、外部からの保湿補完が不可欠です。植物性スクワランは分子構造がシンプルな炭化水素であるため、添加物や防腐剤なしで製品化しやすく、感作リスクの低さから患者指導に使いやすい選択肢です。
2021年に発表されたイタリアの皮膚科研究(Cosmetics誌掲載)では、植物性スクワラン単独の塗布で角層水分量が塗布前比較で平均18〜23%上昇したと報告されています。これは使えそうです。
また、スクワランには弱い抗酸化作用も報告されています。活性酸素による脂質過酸化を抑制し、皮膚の老化促進因子を一部中和する効果が動物実験レベルで確認されています。ただしヒト皮膚での抗酸化効果は研究途上であり、過度な期待は禁物です。
一般向けの保湿製品では「保湿効果100%」のような表現が使われることがありますが、医療従事者としては「TEWLを有意に低下させる」「角層水分量を維持する」という具体的な評価軸で患者に説明することが正確な情報提供につながります。つまり数値で説明するのが原則です。
動物性スクワランは歴史的にサメ(主にアブラツノザメ)の肝油から抽出されてきました。かつては化粧品・医薬部外品の主要な油性成分として広く使用されていましたが、現在では生態系保護の観点から業界全体で植物性への代替が進んでいます。
純粋な成分としての分子構造はまったく同一です。動物性・植物性ともにC₃₀H₆₂という化学式を持ち、薬理学的な効果に本質的な差はありません。ここを誤解している医療従事者は少なくありません。
ただし、実際の製品品質として差が生じる要因があります。動物性スクワランは肝油からの精製工程が複雑で、不純物の残留リスクが植物性に比べてやや高い傾向があります。一方、オリーブ由来の植物性スクワランは原料の品質が規格化されやすく、高純度品の製造が安定しています。これが条件です。
サトウキビ由来のスクワランはさらに精製が容易で、医薬品グレードに近い純度(99%以上)の製品も市場に存在します。アメリカのBiossance社などが製造する高純度植物性スクワランは、EWG(環境ワーキンググループ)の安全性評価で最上位グレード「1」を取得しており、国際的な安全基準においても高く評価されています。
患者への説明においては「植物性だから動物性より優れている」という単純化は避け、「現在市場で流通している高品質な植物性スクワランは、純度・安全性・環境負荷の観点から推奨できる」という表現が適切です。医療従事者らしい正確さを大切にしたいところです。
| 比較項目 | 植物性スクワラン | 動物性スクワラン |
|---|---|---|
| 主な原料 | オリーブ油・サトウキビ・アマランサス | サメ肝油 |
| 化学構造 | C₃₀H₆₂(同一) | |
| 純度(高品質品) | 99%以上も可能 | 97〜98%程度 |
| 酸化安定性 | 高い | 同等〜やや劣る製品あり |
| 環境への配慮 | ◎(持続可能な原料) | △(生態系への影響) |
| 価格(原料コスト) | やや高め | 低〜中程度 |
植物性スクワランが医療の場で特に注目されているのが、術後皮膚ケアとがん化学療法・放射線療法による皮膚障害への補助的使用です。
化学療法(特にEGFR阻害薬・マルチキナーゼ阻害薬)によって引き起こされる皮膚障害は、ざ瘡様皮疹、手足症候群(HFS)、皮膚乾燥など多岐にわたります。これらの皮膚症状はQOLを著しく低下させ、治療継続の障壁になることがあります。厳しいところですね。
日本臨床腫瘍学会および日本皮膚科学会が共同で作成した「がん薬物療法に伴う皮膚障害の予防・治療ガイドライン」では、HFSに対する保湿剤の早期使用が推奨されています。この文脈において、低刺激・無添加・高い安全性を持つ植物性スクワランは補助的な保湿成分として適しています。
放射線治療による放射線皮膚炎(radiation dermatitis)においても、照射野の皮膚への保湿ケアが推奨されています。植物性スクワランは無香料・無着色・防腐剤フリーの製品にも配合されやすいため、照射野への塗布に際して成分上の制約が少ない点が評価されています。ただし照射直前の塗布は原則として禁止されており、照射スケジュールに合わせた使用指導が必要です。これだけは例外です。
術後の創周囲皮膚ケアにおいては、テープ固定や創処置による接触皮膚炎の予防として、スクワラン配合の皮膚保護剤を使用する施設も増えています。特にストーマ周囲皮膚炎の管理に携わる皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCN)の間では、植物性スクワランへの認知度が近年高まっています。
日本臨床腫瘍学会 ガイドライン一覧 – がん薬物療法に伴う皮膚障害の管理に関する推奨内容を確認できる公式ページ
医療従事者が患者に植物性スクワランを勧める場面では、正確な情報提供と誤解の訂正が重要です。一般消費者向けの情報には誇張が多く含まれており、患者が誤った認識を持ったまま来院するケースが実際には多くあります。
まず整理しておきたいのが「スクワランは毛穴を詰まらせない」という情報の正確な解釈です。スクワランはノンコメドジェニック(non-comedogenic)成分として知られており、一般に毛穴を詰まらせにくいとされています。これは事実ですが、「まったく詰まらない」とは同義ではありません。オイリー肌や脂漏性の強い患者では、単独使用よりも水性保湿剤との併用を検討する方が適切です。
次に「天然・植物性だから何でも安全」という誤解への対応です。植物性スクワランのアレルギー報告は極めて少ないものの、オリーブ由来成分へのアレルギーを持つ患者(オリーブ花粉症との交差反応が報告されています)では注意が必要です。ゼロリスクではありません。
患者指導の際に使いやすい表現を整理すると以下の通りです。
患者が「植物性スクワラン配合」と書かれた製品を選んで持参した場合は、配合濃度も確認することをお勧めします。配合量が1%未満の製品では保湿効果への実質的な寄与が限定的で、「入っているだけ」の場合があります。結論は成分表の順番と濃度の確認が大切です。
日本皮膚科学会 皮膚科Q&A – 保湿剤の選択と使い方に関する医療者向け情報が掲載されている公式ページ
「保湿成分」というイメージが先行しがちですが、近年の研究では植物性スクワランに抗炎症的作用と皮膚マイクロバイオームへの影響が報告されており、医療従事者としても押さえておきたい知見が増えています。
2020年頃から報告が増えているのが、スクワランの皮膚常在菌への選択的作用に関する研究です。スクワランは*Cutibacterium acnes*(旧称:Propionibacterium acnes)の増殖を直接抑制するのではなく、皮膚の脂質環境を整えることで常在菌バランスを間接的に改善する可能性が示唆されています。いいことですね。
炎症経路への影響についても研究が進んでいます。スクワランがケラチノサイトのNF-κBシグナル経路に対して弱い抑制作用を示すという実験的知見が報告されており、皮膚炎症の補助的なコントロールに寄与する可能性があります。ただしこれは試験管内(in vitro)あるいは動物実験レベルの知見であり、ヒトへの臨床応用に直結するものではありません。過信は禁物です。
褥瘡(床ずれ)予防ケアの分野でも、スクワラン配合製品への関心が高まっています。皮膚の脆弱化した高齢患者や長期臥床患者では、摩擦やずれ応力による皮膚損傷リスクが高く、表面の潤滑性を高めながらバリア機能を補う成分が求められています。植物性スクワランの低粘度・高伸展性という物性は、広い面積へのケアに向いており、施設での採用実績も増えています。
一方、医療用途での利用において注意すべきは薬機法上の扱いです。植物性スクワランを単独成分として「治療効果がある」と標榜することは薬機法上認められておらず、あくまで「保湿補助成分」としての位置づけで使用する必要があります。医療従事者が患者指導の中で使う際は「皮膚を保護する補助的なケア」という説明に留めることが、法的にも倫理的にも適切な対応です。これが原則です。
厚生労働省 医薬品・医療機器等に関する情報 – 化粧品・医薬部外品の成分規制と薬機法上の扱いに関する情報を確認できる公式ページ
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