全身EASIが16未満でも、頭頸部スコア2.4以上なら投与できます。
デュピクセント(一般名:デュピルマブ)は、IL-4受容体αサブユニットに結合することでIL-4およびIL-13を介したシグナル伝達を阻害する生物学的製剤です。アトピー性皮膚炎の2型炎症反応に直接作用する点が既存外用薬との最大の違いで、2018年の国内承認以降、適応疾患の幅も着実に広がっています。
EASIスコア(Eczema Area and Severity Index)は、デュピクセント投与を判断するうえで中心的な役割を担うスコアです。アトピー性皮膚炎の疾患活動性を客観的・定量的に示すため、レセプト摘要欄への記載も義務付けられています。これが条件です。
厚生労働省の最適使用推進ガイドライン(令和5年9月改訂版)では、アトピー性皮膚炎に対するデュピクセント投与の疾患活動性基準として以下の三つをすべて満たすことを求めています。
| 評価項目 | 成人・15歳以上の基準 | 小児の基準(7歳以下は係数が異なる) |
|---|---|---|
| IGAスコア | 3以上 | 3以上 |
| EASIスコア(全身または頭頸部) | 全身16以上、または頭頸部2.4以上(顔面広範病変) | 全身16以上、または頭頸部2.4以上(7歳以下は目安2.4以上) |
| 体表面積に占める病変の割合 | 10%以上 | 10%超 |
さらに前治療要件として、成人はストロングクラス以上のステロイド外用薬またはカルシニューリン阻害外用薬による6か月以上の治療歴が必要です。小児ではミディアムクラス以上が基準となります。意外ですね。
これらの基準は単に「薬が使えるか」を確認するためだけでなく、レセプト摘要欄の記載根拠としても機能します。投与開始月に記載した数値を、継続投与中も参照し続ける運用になっている点を覚えておくと安心です。
参考:デュピルマブ最適使用推進ガイドライン(令和5年9月改訂)
厚生労働省:最適使用推進ガイドライン デュピルマブ(遺伝子組換え)アトピー性皮膚炎(PDF)
EASIスコアは、全身を頭頸部・体幹・上肢・下肢の4部位に分け、各部位で「紅斑」「浮腫・丘疹」「搔破痕」「苔癬化」の4徴候をそれぞれ0~3点(中間値1.5と2.5は使用可能、0.5は不可)で評価します。それに各部位の面積スコア(0~6点)と部位係数を掛け合わせて算出する仕組みです。
計算式を整理すると、部位スコアは「(4徴候の合計)×面積スコア×部位係数」です。各部位の係数は以下のとおりで、8歳以上と7歳以下で頭頸部と下肢の係数が変わります。
| 部位 | 係数(8歳以上) | 係数(7歳以下) |
|---|---|---|
| 頭頸部 | 0.1 | 0.2 |
| 体幹 | 0.3 | 0.3 |
| 上肢 | 0.2 | 0.2 |
| 下肢 | 0.4 | 0.3 |
7歳以下では頭頸部の係数が0.2(8歳以上の2倍)になるため、同じ顔面病変でも幼児ではスコアが高く出ます。小児の患者を診る際は、この係数の違いを念頭に計算してください。これが条件です。
面積スコアの目安は0点が0%、1点が1〜9%、2点が10〜29%、3点が30〜49%、4点が50〜69%、5点が70〜89%、6点が90〜100%です。全体で72点が最高値で、合計スコアの重症度分類は「0点:寛解、0.1〜1.0:ほぼ寛解、1.1〜7.0:軽症、7.1〜21.0:中等症、21.1〜50.0:重症、50.1〜72.0:最重症」となります。
日常診療でのスコアリングには、マルホが提供するウェブ上のEASIスコア計算シートが利便性の高いツールです。4部位・4徴候を入力するだけで自動算出でき、カルテへのコピー用テキストも生成されます。
参考:EASIスコアの計算方法と各徴候の写真つき評価基準
多くの施設では「全身EASIが16以上」という基準を主軸に適応判断を行っています。しかし、顔面の広範囲に強い炎症を伴う皮疹を有する場合は、全身EASIスコアが16未満であっても適応となります。つまり頭頸部EASIが2.4以上です。
これは一般常識に反すると感じる医師も少なくありません。意外ですね。全身スコアが基準値を下回っていても、顔面の重症病変がある患者を前にして「まだ使えない」と判断してしまうと、適切な治療機会を逃すだけでなく、患者の生活の質(QOL)に大きな影響を与えます。
頭頸部EASIスコア2.4という数値はどの程度の状態を指すか、具体的にイメージしてみましょう。頭頸部部位スコアは「(紅斑+浮腫丘疹+搔破痕+苔癬化)×面積スコア×係数」で算出します。8歳以上の場合、係数は0.1です。面積スコアが1(1〜9%)・重症度各1点(軽度)×4徴候=4点とすると、4×1×0.1=0.4点です。しかし面積スコアが3(30〜49%)・各徴候平均2点(中等度)なら、8×3×0.1=2.4点となり、ちょうど閾値に達します。顔面の約3分の1から半分程度に中等度の炎症がある状態が目安です。
7歳以下では係数が0.2なので、同じ状態で2.4を超えやすくなります。小児の顔面病変はより積極的に評価すべきということですね。
この例外規定はガイドライン上に明記されており、レセプト摘要欄にも「頭頸部のEASIスコア」を記載するコードが用意されています(コード:830600136)。全身EASIが16未満で投与している場合には、頭頸部EASIスコアをレセプト摘要欄に必ず記載してください。これが原則です。
参考:保険適用上の留意事項通知(令和5年9月改訂)
厚生労働省保険局医療課:抗IL-4受容体αサブユニット抗体製剤に係る留意事項の一部改正(保医発0925第4号)
デュピクセント投与後のEASIスコアの変化は、治療継続の可否を判断する重要な指標です。主要な臨床試験では投与16週後を主要評価時点として設定しており、「EASI-75達成率」(ベースラインからEASIスコアが75%以上改善した割合)が有効性の主要エンドポイントとなっています。
ステロイド外用薬との併用試験(LIBERTY AD CHRONOS試験)では、16週時点でEASI-75達成率はQ2W群68.9%、プラセボ群23.2%と、プラセボを大きく上回りました。さらにEASI-90(皮疹が90%以上改善)の達成率も、Q2W群で39.6%に達しています。16週で皮疹が注射前の1/4以下まで改善する患者が約7割というデータは、薬剤選択の根拠として患者への説明にも使えます。これは使えそうです。
EASI-75やEASI-90は治療効果の目標値として用いるだけでなく、保険診療上の継続可否判断の参考にもなります。現行のガイドラインには明文化された中止基準はありませんが、16週時点で医師が効果不十分と判断した場合は投与中止を検討する運用が一般的です。
| 評価指標 | Q2W群(2週間隔) | プラセボ群 |
|---|---|---|
| EASI-75達成率(16週) | 68.9% | 23.2% |
| EASI-90達成率(16週) | 39.6% | 11.4% |
| そう痒NRS改善達成率(16週) | 58.8% | 19.7% |
| EASI-75達成率(52週) | 62.3% | 21.9% |
52週時点でもEASI-75達成率がほぼ維持されており、長期にわたる有効性が確認されています。治療効果が安定している患者に対しては、急な中止よりも継続投与が推奨されます。中止すると半年〜1年をかけて再燃するケースが多いためです。経過観察とEASIスコアの定期的な再評価が基本です。
参考:日本皮膚科学会の生物学的製剤使用ガイダンス(2023年版)
日本皮膚科学会:アトピー性皮膚炎における生物学的製剤の使用ガイダンス(2023年)
EASIスコアを正しく算出できていても、レセプト摘要欄への記載が不十分だと保険請求が通らないケースがあります。これは現場では意外に多い落とし穴です。
デュピクセント(デュピルマブ皮下注)のアトピー性皮膚炎適応については、投与開始時に次の情報をすべて摘要欄に記載することが保険診療上の要件です。全身または頭頸部のEASIスコア、IGAスコア、体表面積に占める病変の割合、施設要件の区分(施設要件ア・イ・ウのいずれか)、前治療要件の区分(前治療要件ア・イ・ウのいずれか)がこれにあたります。小児に投与する場合はさらに体重(kg)の記載も必要です。
以下は摘要欄に記載が必要な主なレセプトコードです。
| 記載内容 | レセプトコード |
|---|---|
| 全身のEASIスコア(デュピクセント皮下注) | 830600135 |
| 頭頸部のEASIスコア(デュピクセント皮下注) | 830600136 |
| 体表面積に占める病変の割合(デュピクセント皮下注) | 842600020相当 |
重要なのは「継続投与に当たっては投与開始時の情報を記載する」という運用です。初回に記載した開始時点のEASIスコアを、継続投与中もそのまま引き続き記載します。毎回その時点のEASIを記載するわけではありません。この点を誤解して月ごとに更新した数値を記載するケースが散見されますが、返戻理由になる可能性があります。正確に言うと「開始時の数値を継続して記載する」が原則です。
なお、施設要件として配置される医師の要件は2023年9月の改訂で変更されています。小児投与では「医師免許取得後2年の初期研修修了後、3年以上の小児科診療研修および3年以上のアレルギー診療研修を含む6年以上の臨床経験」という「施設要件ウ」が新設されました。これ以前は成人適応しかなく、施設要件ウは存在しませんでした。小児へのデュピクセント導入を検討している施設では、担当医がこの要件を満たしているかを事前に確認しておく必要があります。
参考:診療報酬明細書摘要欄への記載事項(令和5年9月改訂版)
保医発0925第4号:抗IL-4受容体αサブユニット抗体製剤に係る最適使用推進ガイドラインの留意事項改正(九州厚生局)