保湿さえすれば妊娠中の顔の赤みは必ず改善する、は誤りです。
妊娠中に顔の肌荒れや赤みが現れる最も根本的な原因は、ホルモンバランスの急激な変化です。妊娠初期から分泌が急増するプロゲステロン(黄体ホルモン)とエストロゲン(卵胞ホルモン)は、皮脂腺・毛細血管・角質層に多大な影響を与えます。
プロゲステロンは男性ホルモンに類似した作用を持つため、皮脂分泌を促進し、毛穴詰まりや炎症性ニキビの原因となります。一方でエストロゲンは毛細血管の血管壁に直接作用し、血管を拡張・増生させます。これが顔の「赤み」として現れる主因です。
疫学的な調査によると、妊娠中の女性の約67%に毛細血管拡張症が認められると報告されており、これはエストロゲンの急増が血管壁に強く影響することで説明されます。つまり、妊娠中の顔の赤みの多くは「毛細血管拡張」によるものであり、スキンケアだけでは対処しきれないケースが存在します。
原因は1つではありません。ホルモン変化以外にも、以下のような要素が複合的に関与しています。
医療従事者として患者に説明する際、これらの原因が「単独で起きている」のではなく「複合的に絡み合っている」という視点が重要です。原因ごとに対策が異なるため、症状の背景を丁寧に問診することが適切な指導につながります。
参考:妊娠中の肌荒れ原因と毛細血管拡張との関係について(ヒロクリニック)
https://www.hiro-clinic.or.jp/nipt/pregnancy-skincare/
妊娠中の顔の赤みを「単なる肌荒れ」と捉えると、患者への説明が不十分になる恐れがあります。臨床的には、妊娠による顔の赤みの一部は「毛細血管拡張症(telangiectasia)」として分類されることがあります。
毛細血管拡張症とは、皮膚の真皮に存在するはずの毛細血管が何らかの原因で拡張・増生し、皮膚表面から透けて見える状態です。顔に赤い斑状の赤みやクモの巣状の細い赤い線として現れます。これは「赤ら顔」とも呼ばれます。
妊娠中に発症しやすい理由は明確です。エストロゲンが血管壁に直接作用して血管を弛緩・拡張させることが主因です。妊娠中に認められる毛細血管拡張症は、顔だけでなく胸や首など全身に現れることもあります。
重要なのが「予後の見通し」です。妊娠中に生じた毛細血管拡張症の多くは、出産後にエストロゲンが低下することで自然に改善する一過性のものです。
ただし、以下の場合は別疾患の除外が必要です。
つまり毛細血管拡張症が基本ですが、それだけではないということです。妊娠中に顔の赤みを訴える患者には、問診と視診で原因の背景を見極める姿勢が求められます。産婦人科や助産師外来での相談を経て皮膚科受診を勧める流れも、実際に多く見られます。
参考:毛細血管拡張症の原因と治療方法(アイシークリニック)
https://ic-clinic.com/treatment/telangiectasia/
妊娠中のスキンケアは「使える成分」と「避けるべき成分」を正確に把握することが、医療的な観点から非常に重要です。妊娠中はホルモンや免疫環境の変化により肌が敏感化しており、妊娠前と同一のスキンケアを継続すると肌トラブルが悪化するケースが少なくありません。
避けるべき成分(要注意)
妊娠中に原則として使用を控えることが推奨される成分は以下の通りです。
安全に使用できる成分・ケアのポイント
保湿が基本です。乾燥を放置すると皮脂の過剰分泌が起き、ニキビや赤みの悪化につながります。化粧水で水分を補給した後、乳液やクリームで水分の蒸発を防ぐという基本的な順序を守るだけで多くの肌トラブルを予防できます。
参考:妊娠中に避けるべきスキンケア成分(ヒロクリニック)
https://www.hiro-clinic.or.jp/nipt/video/pregnancy-skincare-ingredients-to-avoid/
「妊娠中はステロイドの塗り薬が使えない」という誤解は、医療の現場でも患者指導に影響を与えることがあります。この誤解が広まっている背景には、内服ステロイドの副作用情報が外用薬に混同されているケースが多いと考えられます。
現時点での医学的なコンセンサスは明確です。妊娠中のステロイド外用薬は、通常量・通常期間の使用であれば胎児への影響はほとんどないとされており、使用を継続して問題ない場合がほとんどです。
国内外のガイドラインにおいても、妊婦への外用ステロイドは必要に応じて使用できるとされています。皮膚から吸収されるステロイドの量は経口投与と比較して非常に少なく、胎盤を通過して胎児に到達する量はさらに微量です。
ただし、以下の点には注意が必要です。
ステロイドを我慢させることの方がリスクです。重度のかゆみや炎症が続くと、それ自体が精神的ストレスとなり胎児環境にも影響を与えます。患者から「ステロイドを塗っても大丈夫ですか?」と相談を受けた際、「通常の使用では問題ありません」と根拠をもって伝えられる知識が、医療従事者には求められます。
参考:妊娠中のステロイド外用薬の安全性について(中川医院コラム)
https://nakagawa-iin.net/column/topical-steroids-pregnancy/
スキンケア製品の選択だけでなく、日常生活習慣の見直しが妊娠中の顔の肌荒れ・赤みの改善に大きく寄与します。ここでは特に重要な生活習慣のポイントを整理します。
水分補給の重要性
妊娠中は胎児への水分供給、羊水維持、代謝亢進、そしてつわりによる水分喪失が重なり、母体が水分不足に陥りやすい状況にあります。水分不足は皮膚の乾燥を直接引き起こし、肌荒れ・赤みの悪化につながります。
一般的な目安として、食事由来の水分を含めて1日1.5〜2リットル(授乳期は2〜2.5リットル)の摂取が推奨されています。はがき1枚の面積(約150cm²)ほどの皮膚から、1日に500〜1000mlもの水分が蒸発しているというイメージは、患者に「保湿と水分補給の両方が必要である」ことを伝えるときに役立ちます。
食事と栄養管理
つわりによる偏食が続くと肌の健康に不可欠な栄養素が不足します。医療従事者として意識して伝えるべき栄養素は以下の通りです。
睡眠と肌の関係
成長ホルモンは夜間の深い睡眠中に多く分泌され、皮膚のターンオーバーを促進します。妊娠中は腰痛や頻尿で睡眠の質が低下しやすく、これが肌荒れの一因になります。横向き寝の推奨や、抱き枕の活用など、睡眠姿勢の工夫も患者指導に加えると実用的です。
洗顔の方法
洗いすぎは皮膚のバリア機能を損なうため注意が必要です。洗顔は1日2回(朝・夜)を基本とし、38℃以下のぬるま湯を使用して、強く擦らず泡立てた洗顔料で優しく洗うことが鉄則です。シャワーの熱いお湯を顔に直接当てることも、過度な皮脂除去につながるため避けるべきです。
生活全体を整えることが近道です。患者が「何かひとつだけ変える」としたら、水分補給の徹底と保湿の継続が最も効果を実感しやすい行動変容であることを、具体的に伝えることが大切です。
参考:妊娠中の肌荒れと乾燥の原因・予防(アラウベビーコラム、医師監修)
https://www.arau.jp/baby/column/mcare/74.html
多くの妊娠中の顔の肌荒れ・赤みはセルフケアで対処できますが、症状によっては皮膚科受診を積極的に勧めるべきケースがあります。「妊娠中は受診しにくい」「市販薬で様子を見よう」という判断が遅れを生むことがあるため、受診すべきタイミングの基準を明確に持つことが重要です。
皮膚科受診を勧めるべき状況の目安
「妊娠中は皮膚科に行ってもいいか不安」という患者の声は現場でも多く聞かれます。産婦人科での軽症の皮膚トラブルであれば保湿剤の処方が可能ですが、症状が改善しない場合や治療が困難な場合には皮膚科受診を紹介する、というスムーズな連携フローを構築しておくことが現場では有効です。
皮膚科での妊娠中の治療の実際
妊婦への皮膚科治療の基本は「保湿剤+外用ステロイド(適切な強さのもの)」が中心です。症状と妊娠週数に応じて、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬の内服が加わる場合もあります。これらの薬剤は妊婦への使用可否のエビデンスが整理されており、必要な場合には安全に処方されます。
独自の視点:多職種での情報共有が患者の受診行動を変える
現場では「助産師や看護師が正確な情報を持っていないため、患者が我慢し続ける」という状況も起きています。産婦人科外来・助産師外来・産後ケア外来など、患者と接するすべての職種が「妊娠中の顔の肌荒れや赤みは我慢しなくてよい、適切な治療手段がある」という共通認識を持つことが、受診行動の改善につながります。チームで情報をアップデートする機会を定期的に持つことが、妊婦ケアの質向上に寄与します。
参考:妊娠中の皮膚科受診と診療連携について(ロート製薬)
https://jp.rohto.com/learn-more/bodyguide/pregnant-skintrouble/symptom/

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