VC-IPをイオン導入で使おうとすると、まったく肌に届かずスキンケアの時間を丸ごとムダにします。
VC-IPとは、アスコルビン酸(ビタミンC)の4つの水酸基(-OH)すべてにイソパルミチン酸を結合させた、脂溶性のビタミンC誘導体です。化学的な正式名称は「テトラヘキシルデカン酸アスコルビル」(Ascorbyl Tetraisopalmitate)であり、日光ケミカルズの申請を経て2007年に厚生労働省より医薬部外品の美白有効成分として承認されました。
純粋なビタミンCは水溶性のため、油分が多い角質層を通過しにくいという構造的な弱点があります。その点を解決したのがVC-IPです。
角質は脂質でできた「レンガと漆喰」のような構造をもっています。水溶性の成分はこの壁をなかなか越えられませんが、油溶性のVC-IPはスムーズに角質内へ溶け込み、深部まで届きます。皮膚への吸収率は純粋なビタミンCの約30倍。これが基本です。
さらに、VC-IPは皮膚内に入った後、生体内酵素によってゆっくりとアスコルビン酸(ビタミンC)に変換されます。この「時間をかけた変換」が長時間作用につながり、効果の持続時間は約48時間以上と報告されています。1日1回の使用でも、翌々日まで抗酸化・美白作用が持続するということです。
もうひとつの重要な特性が、安定性の高さです。水溶液中では光や熱によって急速に酸化するビタミンCですが、VC-IPは水酸基がすべてエステル結合で保護されているため、化粧品に配合した状態でも変質しにくいという特徴があります。
| 項目 | 純粋なビタミンC(アスコルビン酸) | VC-IP |
|---|---|---|
| 溶解性 | 水溶性 | 油溶性 |
| 皮膚への吸収 | △(角質透過しにくい) | ◎(約30倍) |
| 持続時間 | 短時間 | 約48時間以上 |
| 安定性 | ×(酸化しやすい) | ○(非常に安定) |
| イオン導入 | ○(水溶性のため可) | ✕(イオン化しない) |
つまり「脂溶性だから浸透しやすく、安定で、長く効く」ということですね。
参考:VC-IPの原料メーカーによる成分詳細と配合目的の解説
NIKKOL VC-IP 成分詳細 ─ ケミナビ(日光ケミカルズ)
VC-IPの美白効果は、主に「チロシナーゼ活性阻害」という経路で発揮されます。少し専門的な話になりますが、整理しておくと現場での説明にも役立ちます。
皮膚が紫外線を受けると、ケラチノサイトがメラノサイト活性化因子を分泌します。これがメラノサイトを刺激し、チロシンという基質からメラニンが合成されます。そのとき鍵となる酵素がチロシナーゼです。
VC-IPは、このチロシナーゼの活性を濃度依存的に阻害することが細胞試験(B16メラノーマ細胞)で確認されており、0.02%以上の濃度から有意な抑制効果が認められています。さらに、ヒトを対象とした使用試験では、3%VC-IP配合クリームを紫外線照射後に塗布したところ、プラセボ群と比較して1週目・2週目の色素沈着が有意に少なく抑えられた結果が報告されています(Ochiai Y. et al., 2006)。
シミへの効果はメラニン生成抑制だけではありません。VC-IPは皮膚内でアスコルビン酸に変換された後、ドーパキノンをドーパに還元する作用(メラニン還元)も発揮し、すでに生成されたメラニンの色も薄くする方向に働きます。
美白効果が期待できます。ただし医薬部外品として承認されている配合上限は3%であり、それ以上の濃度は化粧品としての承認範囲外になる点は覚えておきたいところです。
美白だけが効果ではないということですね。炎症後の色素沈着予防まで含めると、VC-IPの適応範囲は非常に幅広いと言えます。
参考:化粧品成分オンラインによるVC-IPの美白・抗炎症エビデンスの詳細解説
テトラヘキシルデカン酸アスコルビルの配合目的・安全性 ─ 化粧品成分オンライン
VC-IPは美白だけでなく、コラーゲン合成と抗酸化という二つの作用によって、エイジングケア全般に貢献します。これは見逃されがちな重要なポイントです。
まずコラーゲン合成について整理します。真皮の線維芽細胞がコラーゲンを産生するとき、アスコルビン酸(ビタミンC)はその補酵素として必須の役割を果たします。ビタミンCが不足すると、コラーゲン前駆体(プロコラーゲン)が正しく水酸化されず、成熟したコラーゲン線維が形成されません。VC-IPは皮膚内でアスコルビン酸に変換されることで、この補酵素機能を発揮し、コラーゲンの合成を継続的にサポートします。コラーゲン合成の促進が基本です。
抗酸化作用については、VC-IPがSOD(スーパーオキシドジスムターゼ)様の活性酸素消去能を持つことが確認されています。紫外線を浴びると皮膚内で活性酸素が大量発生し、これがDNAやコラーゲン線維を傷つけて「光老化」を引き起こします。VC-IPはこの活性酸素を48時間以上にわたって継続的に除去し続ける性質があり、日常の紫外線ダメージの蓄積を防ぐ観点でも価値が高いと言えます。
実際の皮膚老化のうち、約80%が紫外線由来(光老化)とも言われています。東京ドームの外野スタンド全体に積み重なるほどの紫外線ダメージが、毎日少しずつ蓄積されているとイメージしてください。VC-IPの継続使用はその蓄積を日々抑制する「防波堤」のような役割を担います。
これは使えそうです。美白と抗老化を同時に訴求できる成分は限られており、VC-IPはその両立ができる数少ない成分のひとつです。
日本皮膚科学会の「尋常性痤瘡治療ガイドライン2017」において、炎症性皮疹や炎症後の紅斑に対してVC-IPの外用が選択肢のひとつとして推奨されています。
VC-IPのニキビへの作用経路は主に2つです。まず、IL-1α(インターロイキン-1α)とPGE2(プロスタグランジンE2)という炎症性メディエーターの産生を抑制することで、UVB誘発の炎症カスケードを抑える抗炎症作用。次に、皮脂の酸化を抑制する抗酸化作用です。
ニキビの悪化には皮脂の酸化が深く関与しています。皮脂が酸化されると、それ自体が毛包内で炎症を引き起こしやすくなります。VC-IPは油溶性であるため、皮脂と同じ環境に溶け込み、酸化を直接防ぐことができます。水溶性の成分では届きにくい場所にアプローチできるわけです。
実際のヒト使用試験では、VC-IP配合製剤を顔面片側に1ヶ月間塗布したところ、面皰(コメド)・紅色丘疹の改善傾向が見られ、さらにニキビ後の色素沈着が「有意に改善」したことが報告されています(横田・矢作、2015年)。
厳しいところですね。ニキビ跡の色素沈着はトレチノインやハイドロキノンが第一選択になるケースも多いですが、刺激が懸念される症例や妊娠中・授乳中の患者さんにとって、VC-IPは安全性の高い選択肢として機能します。
ただし、VC-IPは持続型であるため「即効性」は水溶性誘導体に比べてやや劣ります。急性の炎症期には即効性のある水溶性ビタミンC誘導体(VCエチルなど)と組み合わせる戦略も、臨床現場では採用されています。
参考:日本皮膚科学会によるニキビ治療ガイドラインの概要
尋常性痤瘡治療ガイドライン2017 ─ 日本皮膚科学会(PDF)
VC-IPを処方・推奨する際に必ず理解しておきたいのが、「油溶性だからこそ生まれる制約」です。これを知らずに患者さんに案内すると、施術の効果が半減します。
最も重要な注意点は、VC-IPはイオン導入に対応していないという事実です。イオン導入とは微弱な電流を使い、イオン化した成分を皮膚に浸透させる施術です。VC-IPは非イオン性であり電荷を持たないため、電流によって皮膚内に「引き込む」ことができません。クリニックでVC-IPをイオン導入で使用しようとすると、ほとんど浸透せずに終わります。これは大きなデメリットです。
イオン導入に向くのは、水溶性・イオン化する誘導体(APS、APM、VCエチル、GO-VCなど)です。VC-IPはクリーム・オイル・美容液などの剤型で、自然浸透または超音波導入(ソノフォレーシス)による導入が適しています。
他の有効成分との相性については以下を参考にしてください。
もうひとつ見落とされがちなのが、変色チェックです。VC-IPは比較的安定ですが、開封後に高温・直射日光にさらされると少しずつ酸化します。去年の残りを使おうとしている患者さんには、色と匂いの確認を促すよう案内することが大切です。
また、医薬部外品として配合できるVC-IPの上限は3%に定められています。これを超えた濃度は「化粧品」ではなく医薬品の扱いになりますので、処方指導の際に念頭に置いておきましょう。3%が上限です。
参考:ビタミンC誘導体の種類別特性と処方のポイントを皮膚科専門医が解説
皮膚科専門医がビタミンC誘導体の種類を解説 ─ リシェスクリニック公式ブログ