w/oクリームと軟膏を混合すると、ステロイドの皮膚透過量が最大4.5倍になる。
w/oクリーム(油中水型クリーム)とは、油の中に水滴が分散した構造を持つ乳剤性基剤です。反対に、o/wクリーム(水中油型クリーム)は水の中に油滴が浮いている構造で、両者はちょうど「内と外が逆」になっています。この違いが、使用感・保湿力・皮膚への影響に大きな差をもたらします。
w/oクリームは「コールドタイプ」とも呼ばれ、塗布した際に冷たいひんやりとした感触があります。油分が外相を占めているため、皮膚への密着性と被覆性が高く、水分の蒸散を抑える働きが強いのが特徴です。代表的な処方例としては、ヒルドイドソフト軟膏(一般名:ヘパリン類似物質油性クリーム)、パスタロンソフト軟膏、ネリゾナユニバーサルクリームなどが挙げられます。
| 項目 | w/o型クリーム(油中水型) | o/w型クリーム(水中油型) |
|---|---|---|
| 外相 | 油(Oil) | 水(Water) |
| 別称 | コールドタイプ | バニシングタイプ |
| 使用感 | 冷たく油っぽい・しっとり | さっぱり・べたつきが少ない |
| 水洗い | 落としにくい | 水で容易に落とせる |
| 皮膚保護作用 | 強い | 中程度 |
| 代表薬 | ヒルドイドソフト軟膏、パスタロンソフト軟膏 | ヒルドイドクリーム、パスタロンクリーム、ゲーベンクリーム |
o/wクリームは「バニシングタイプ」と呼ばれ、塗布後に連続相の水分が蒸発して"消えたように"見えることからその名があります。使用感は良く伸びが良いのですが、薬を塗った実感に乏しいため、患者が過剰使用に陥るリスクがある点も知っておく必要があります。
つまり、w/oとo/wは「単に使用感の好み」で選ぶものではなく、患者の皮膚状態・季節・塗布部位に応じた処方設計が求められます。これが基本です。
参考:皮膚外用剤の基剤の種類と特徴について詳細な解説あり
基剤の種類と特徴 - 管理薬剤師.com
w/oクリームが特に威力を発揮するのは、乾燥が強い部位・季節・病態です。具体的には、冬季の重度乾燥肌、かかと・ひじなどの角質肥厚部位、ひび割れを伴うような乾皮症や皮脂欠乏性湿疹などに適しています。油分が外相を覆っているため、皮膚のバリア機能を補完しながら水分の蒸散を物理的に抑える効果があります。
一方、w/oクリームが不向きな場面も明確です。顔面への処方は「テカリ」が目立ちやすいため、患者の受け入れが悪くなる傾向があります。同じヘパリン類似物質製剤でも、顔面にはo/w型のヒルドイドクリームやローションが選ばれることが多いです。また、夏季や発汗が多い状態では、べたつきによるアドヒアランス低下に注意が必要です。
下記に代表的な使い分け例をまとめます。
なお、「ヒルドイドソフト軟膏」という名称に「軟膏」と入っていますが、日本薬局方上の分類では「クリーム剤(w/o型)」に相当します。名称と剤形が一致しないケースがある点は、服薬指導の際に患者に誤解を与えないよう注意が必要です。これは意外ですね。
一般名では「ヘパリン類似物質油性クリーム」と表記されており、学局方では「油中水型に乳化した親油性の製剤については油性クリーム剤と称することができる」と規定されています。処方箋の一般名表記と商品名の整合確認を習慣づけるのが原則です。
参考:ヒルドイドの剤形別使い分けと処方選択の考え方が詳しく解説されている
皮膚科領域では、アドヒアランス向上を目的としてステロイド軟膏と保湿剤(クリーム)を混合した処方が頻繁に行われています。マルホの調査によると、皮膚科医43名・小児科医18名へのアンケートで、約88.5%の医師が混合処方を使用していました。混合が日常的に行われている実態があります。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。ステロイド軟膏(油脂性基剤)とw/o型の保湿剤クリームを1:1で等量混合した場合、ステロイドの濃度は1/2に希釈されるにもかかわらず、皮膚透過比が増加することが動物実験(ヘアレスマウス)で確認されています。
具体的なデータを示します。
「希釈しているから副作用が減る」と考えて混合処方を行うと、実際にはステロイドが予想以上に皮膚に吸収されている可能性があります。結論は「混合後の透過性は必ず上がるとは限らないが、増加するケースが多い」です。
この透過性変化の背景には、混合による基剤の乳化状態の変化があります。油脂性基剤のステロイド軟膏は、主薬の大部分が結晶として存在しています(例:プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル軟膏では基剤中に溶解している割合が表示含量の約1/130)。これをw/oクリームと混合すると、基剤中の溶解環境が変わり、結晶状態の主薬が溶けだして透過性が高まるのです。
さらに、混合すると乳化を維持していた界面活性剤が不足し、乳化破壊が起こります。乳化破壊は製剤の安定性・保存性にも影響します。混合後は不安定な状態になることが多いです。
参考:混合処方の実態と透過性変化に関する詳細なエビデンスが掲載
混合処方において見落とされやすいのが、w/oクリームの保湿効果への影響です。ステロイドの透過性が上がる一方で、保湿剤本来の効果は下がるという、いわば「両刃の剣」の構造が生じます。
ヘパリン類似物質含有クリーム(w/o型)を白色ワセリンで希釈した場合の保湿効果を電気伝導度(角層水分量の指標)で測定した試験があります。健康成人14名を対象としたこの試験では、次の結果が出ています。
つまり、ヒルドイドソフト軟膏(w/o型)をステロイド軟膏基剤(白色ワセリン)と1:1で混合した時点で、すでに保湿効果が統計的に有意に低下します。4倍希釈ではワセリン単独と変わらない状態になる、ということです。これは痛いですね。
混合処方を行う際には「ステロイドの副作用軽減を期待して希釈している」という意図であっても、実際にはステロイドの透過性が増加し、かつ保湿剤の保湿効果が低下するというダブルリスクが生じ得ます。処方設計の再考が必要になる場面は少なくありません。
混合に関するリスクを整理すると以下のとおりです。
現場で混合処方が必要と判断される場合は、「軟膏・クリーム配合変化ハンドブック」など信頼性の高い文献を参照し、対象製剤の混合可否・安定性期間を確認してから調製することが求められます。混合可否の確認が条件です。
参考:軟膏・クリームの混合問題点を詳しくまとめたDIニュース資料(医療機関発行)
軟膏剤・クリーム剤の混合と問題点 - 高の原中央病院 DI ニュース 2020年6月号(PDF)
混合処方の問題点を踏まえると、「混ぜる代わりに重ねて塗る」という塗布順序の設計が重要なアプローチになります。この観点は、処方箋の記載では見落とされがちですが、実臨床で非常に意味を持ちます。
まず基本的な原則として、ステロイド外用剤と保湿剤を併用する場合、混合するのではなく「先に保湿剤を広範囲に塗布し、患部にだけステロイドを重ねる」順序が推奨されています。ステロイドを先に塗ってから保湿剤を重ね塗りすると、ステロイドが塗布不要な正常皮膚にまで広がり、局所副作用(皮膚萎縮・毛細血管拡張)のリスクが生じます。保湿剤を先に塗る順序が原則です。
ただし、季節や皮膚状態によって「どのw/oクリームを保湿剤として選ぶか」も変わります。
また、保湿剤を塗り過ぎると逆に皮膚が「過湿潤」になり、バリア回復を妨げる可能性も指摘されています。1FTU(Finger Tip Unit)=約0.5gを手のひら2枚分(約400cm²、一辺20cmの正方形ほど)の面積の目安として、適切な塗布量を指導することが大切です。
さらに、同一患者であっても部位ごとに剤形を使い分けることは珍しくありません。例えば「手はヒルドイドソフト軟膏(w/o型)、顔はヒルドイドクリーム(o/w型)、頭皮はヒルドイドローション」といった複数剤形の同時処方は、患者の利便性を上げながら各部位に最適な保湿を提供できるメリットがあります。処方箋上に具体的な使用部位を記載する一言メモが、薬剤師の服薬指導の質を高めることにつながります。
参考:皮膚外用剤の基剤の種類・特徴・処方ポイントをわかりやすく整理
『皮膚外用剤』のポイント それは『基剤』です | みどり病院(神戸市)